バンコク週報
1976年10月創刊のタイで発行する日本語新聞。在タイビジネスマンに向けてタイの政治・経済・社会ニュースから人物紹介まで多彩なコンテンツを提供している。
◆精密機器部品の切削加工
日本の製造業を取り巻く事業環境が年々厳しさを増すなか、精密機器部品の切削加工を主な業務とする中製作所(大阪府八尾市)は2011年、タイ東部チョンブリ県に進出した。
「ASEAN(東南アジア諸国連合)市場は今後一層拡大すると考え進出を決めた」と中偉起・代表取締役社長は話す。
タイ工場では、農機具、建設機械、油圧機械、自動車などで使われる精密機械部品の切削加工を請け負う。加工の難しい部品の少量生産も得意とし、日本の大手メーカーからの受注が7割を占める。残り3割の取引先は自動車など現地日系企業だ。
タイ進出に当たり、まず大手工業団地での操業も考えたが、5ライ(1ライは1600平方㍍)以上の用地しか空きがなかった。希望面積の2倍強の広さだ。そこで工業団地以外で土地を探すことにしたところ、タイ人実業家から今の工場を紹介された。用地は2ライと適性サイズ。しかも、アマタナコン工業団地とピントン工業団地のほぼ真ん中に位置するなど、出荷面でもベストのロケーションだった。大改修の上、12年5月、床面積800平方㍍の工場で生産がスタートした。
◆人出不足対策で愛社精神を育むシステム導入
タイ工場にエグゼクティブオフィサーとして勤務するウィリア・コチサテンクン業務執行役員は、タイの大学を卒業した後、日本に2年留学。その後、中製作所・日本本社に就職し、現在、タイには駐在員として赴任している。
総務・人事を指揮するウィリア役員の頭を少し悩ませるのが「 人手不足」だ。タイの労働市場は人の入れ替わりが激しい。入社直後でも他の会社から少し良い条件で誘われるとすぐに転職してしまうことは珍しくない。
この課題には愛社精神を育むシステムを検討・導入することで対応する。同社では、チームワーク強化のため、報・連・相を頻繁にチェックし、社内教育、講習会、改善活動、ワークローテーションなどを積極的に実施する。さらに、給与・ボーナス・福祉厚生などは相場を十分に調査して提示するほか、スポーツサークル、慰安旅行、忘年会など、さまざまな社内活動を行う。「会社と社員との結び付きを大切にして愛社精神を育てていく」とウィリア役員は力を込める。
このほか、定着率を引き上げるため、「様子のおかしい従業員に対してはタイ人リーダーに面談させ、会社への不満などを優しく聞くようにしている」(ウィリア役員)。タイ人従業員はトップが直接話を聞こうとしても萎縮して本音を話さないという。そのため、聞き取り役は中間管理職のタイ人に任せる。
◆少数精鋭運営に挑戦
日本製のCNC複合旋盤、NC旋盤・マシニングセンターなど6台をフル稼働させるなど、同社は業績を着実に伸ばしている。そのため、再稼動の手間を省くためにも24時間体制で生産をしたいところだが、その障害となるのが人手不足だ。
今のスタッフでは20時間体制が限界。仮に24時間体制を強行した場合、4時間は無人稼動となり不良品発生率が高まる。それを回避するためには表面や寸法など製品チェックの頻度を通常の3倍にし、さらにその検査方法も顧客と詳細に打ち合わせなければならない。
「あと数人で24時間体制が可能となる」と小路雅睦・海外事業部長(タイ工場長)は期待を込めるが、ここでの不安要因となるのが転職率の高さだ。「少数精鋭で運営しているため、一人辞められても生産体制の見直しが必要になる」(小路部長)という。このため、「日本の技術と知恵を取り入れ、少数精鋭で運営できる仕組みを確立することが急務。非常に厳しい課題だが、可能性がある限り挑戦していく」(ウィリヤ役員)とのことだ。
◆ニッチ需要を掘り起こし
一方、中社長は「日本の製品をASEANで販売することも目標にしている」と話す。「小ロットの製品を短期間で提供できることは日本の潜在的競争力」(中社長)とも。今後の海外展開ではこの点を生かしていく。そのため、「タイではニッチ(潜在的ニーズはあるがまだビジネスの対象として考えられていないような分野)な市場の需要を徹底的に掘り起こしていく」(同)という。
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