小澤 仁(おざわ・ひとし)
バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。
2月2日に行われたタイの総選挙は、一部で危惧された大きな衝突もないまま終了した。投票率46%、選挙区総数375カ所のうち28選挙区は立候補者不在。投票中止に追い込まれた選挙区は67カ所に上り、合わせて4分の1の選挙区で選挙ができなかったことになる。現政権も反政府側も、この選挙結果に対し自陣に有利な解釈を加えるが、どちらにも与(くみ)しない中途半端な結果であったと思われる。
とりあえず投票中止になった選挙区では4月27日に再投票を行うことが決まったが、立候補者不在の28選挙区の扱いについては、まだ決定されていない。今後手続き通り再選挙が行われたとしても、立候補者不在の選挙区が続くことや有効投票数に満たない選挙区があることから、半年以上は内閣を組織するのは不可能であろう。
◆不況時こそ筋肉質の体質づくりが可能に
それではタイの街の様子はどうかと言えば、選挙前と大きな違いはない。1月17日付の拙稿第13回「“バンコク封鎖”フェスティバル」でバンコクの封鎖場所の様子をお知らせしたが、歩行者天国状態はいよいよ本格化している。売り物屋台の数は日増しに増加。車道には机、いすが並べられ、人々は食事を楽しむ。平日の昼間だというのに人出が多く、歩くのも大変な状況だが、まったく平和そのものである。
バンコク日本人商工会議所が在タイ日系企業を対象に行ったアンケート調査では、多くの企業経営者の方が今回の騒動は半年以上続くと見ている。もしこの状態が半年以上続くとするならば、現状が平常時だと考えた方が良いのではないでろうか? そう!今こそビジネスチャンス到来だ。
現政権および反政府側を問わずタイの支配者階級の人々と話をすると、最近の騒動により海外からの投資が減少することを恐れている。当たり前であろう。今回の騒動は支配者階級内の利権争いであり、バンコク都を人質に取った自爆テロのようなものであるからだ。
しかしこれらの人々は「こうした状況の中でも最後まで投資を続けてくれるのは日本だ」と日本への期待の高さを口にする。年末から年始にかけて、私の知人たちが何人かのタイの要人と面談したが、いずれも大歓迎受けたという。友人が苦しんでいるときに苦虫をかみつぶした顔で苦言だけを言うのは得策ではない。こんな時こそ、友人とのコミュニケーションのパイプを深めるときなのである。
確かに多くの日系企業にとって今回の騒動による景気低迷は大きな打撃である。タイの現状に文句を言いたくなるのも良くわかる。
しかし考え方をちょっと変えてみよう。景気低迷時こそ、マーケットシェアの変動が起こる。不況時こそ筋肉質の体質づくりが可能となる。
景気低迷に苦しんでいるのは、日系企業だけではない。この国にひたひたと迫ってきている中国・韓国企業でも同様のはず。タイの家電量販店ではサムスン、LGがメーンスペースを占領。中国の自動車メーカーは今春から、日本メーカーが120万バーツ(1バーツは約3・2円)で売っている車種を90万バーツで売りに出すといううわさを聞く。今期の業績悪化をバンコクの騒乱のせいにして、言い訳によって逃げきろうとしている日系企業経営者がいるとしたら、いずれ負け組になっていくだろう。
今こそ発想転換の時である。ビジネスチャンス到来!
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