山田厚史(やまだ・あつし)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。
国土交通省が18日発表した2014年1月1日現在の公示地価で、東京など三大都市圏の地価が6年ぶりに反転上昇した。東京五輪の施設がやってくる東京臨海部で10%を超す伸びが目立った。
地方は軒並み下落したが、例外は震災地。宮城県石巻市の高台は15・1%上昇し、住宅地で日本一の上昇幅となった。仙台周辺で地価高騰が目立つ。福島でも19年ぶりに宅地地価が上昇した。
復興需要と五輪開発。一見別モノと思えるこの二つは実は連動している。共通項は「ボトルネック・インフレ」だ。
◆「デフレ脱却のためにはインフレを」
長く続くデフレで死語になったかのような言葉が震災地で蘇った。総額20兆円ともいわれる復興予算の集中投入で、公共事業がてんこ盛り。堤防かさ上げ、高台移転、除染……。作業員の確保が困難になり、生コンや鉄骨も奪い合いだ。労務費・資材費が跳ね上がり「事業を予算内で消化できない」という悲鳴が上がる。その結果起きているのが「入札不調」だ。
自治体が発注する事業には、「これ以上のカネは払えません」という予定価格が決められている。過去の実績を参考に決められるが、業者は「そんな額では引き受けられない」と入札を辞退する。その結果、落札業者がいない入札のカラ振りが続発している。
国土交通省は2月に、予定価格を算定する際の労務費や資材費の基準価格をかさ上げしたが、それでも入札不調は解消していない。
長く続いた建設不況で、技能を持っていても仕事がない作業員が大量に発生し転職していった。震災と自民党政治の復活でコンクリートが戻ってきても、人材はすぐにつくれない。
生コンや砕石も同様だ。公共事業予算の縮小で廃業したところが少なくない。供給に限りがある分野に需要が集中的に起こると、価格が跳ね上がる。ボトルネック・インフレが起きたのは当然の流れだ。
普通であれば、政府はインフレの芽を摘もうと対策を打つ。ところが安倍政権はお構いなしだ。
「デフレ脱却のためにはインフレを」というのがアベノミクス。仙台周辺では飲食店やパチンコ屋がにぎわい、「ミニバブル状態」といわれてきたが、景気回復の先触れと歓迎さえされてきた。
◆震災と五輪で明るさ取り戻した大手ゼネコン
そんな動きが東京湾岸に飛び火した。象徴的な出来事は築地市場の移転である。3キロほど離れた豊洲の東京ガス跡地に鮮魚卸市場など3棟の施設が移る。
昨年11月、入札が行われた。予定価格は624億円だったが大手の建設業者は「こんな価格では受けられない」と次々に辞退。今年2月半ばの再入札で、予定価格を60%引き上げ、1034億円で落札された。都は「労務費や資材費の動向を予定価格に反映させた」というが、わずか3カ月で60%も上がるのは異常事態である。
築地市場の移転先は、東京五輪の競技施設と選手村の中間にある。これから発注を始める五輪施設の先行相場と見られていた。6割アップは業者にとってうれしい話だ。春闘で大林組が7500円のベースアップを決め、話題になったのもそんな状況があるからだろう。震災と五輪で、大手ゼネコンが明るさを取り戻した。
◆税金使い景気過熱を演出
震災地も五輪ブームも行政による発注、つまり税金を使って景気過熱が演出されている。アベノミクスで言えば、三本の矢のうち二本目の「弾力的な財政出動」の成果だ。
4月から始まる消費税増税をにらんで、集中的に財政資金を投入して需要をつくる。巨大なマネーがボトルネックを通過する時に起こる価格高騰である。それで潤うのは誰か。
人為的なインフレが「景気の好循環」に果たしてつながるのだろうか。大企業の尻を政府が叩いてベアを実現させた春闘と同様、どこか無理のある政策である。
局部に起こったインフレは、景気回復に立ちふさがる巨大な壁・消費税増税を超えられるだろうか。
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