п»ї 「51歳女」は犯人か 逮捕して大丈夫?道警さん『山田厚史の地球は丸くない』第20回 | ニュース屋台村

「51歳女」は犯人か 逮捕して大丈夫?道警さん
『山田厚史の地球は丸くない』第20回

5月 02日 2014年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

逮捕された「51歳女」は、もう犯人扱いだ。容疑を否認しているというが、警察からリークされる情報は「この女が犯人だ」と思わすものばかりだが、確たる物証は見当たらない。逮捕は苦し紛れではなかったか。見込み捜査の危うさが漂う。

北海道警察本部の関連施設などに連続して爆発物が仕掛けられ、警察に挑戦するかのようなメッセージが報道機関に届けられた。

1月に最初の事件が起きて以来、捜査は難航、菅官房長官が「徹底して捜査を」とハッパをかけるなど、道警は窮地に立っていた。そして4月30日、札幌市北区の無職名須川早苗さん(51)が、激発物破裂の疑いで逮捕された。5日間も取り調べをして、挙げ句の逮捕だった。任意の調べで自供したので逮捕、というのはよくあるが、自供しないから逮捕、というのは警察にとって「賭け」である。

道警は「現場の状況を徹底的に精査し逮捕できると判断した」としているが、現場近くの防犯カメラに容疑者のクルマが映っていたことなど「状況証拠」に過ぎない。

名須川さんが無実だったら、いくら厳しい追及を受けても「知りません」というしかない。犯人と決めつければ「このしぶとい女が」ということになり、逮捕して拘留すれば自白するだろう、というやり方もある。これまでの警察には、そんな手法が珍しくなく、その密室の取り調べが、いま問題にされているのである。

メディアはなぜ問題にしないのか。逮捕は「証拠隠滅・逃亡の恐れがある場合」に限定されているはずだ。道警の捜査に寄り添い、「聴取5日間、否認続ける」などと容疑者が犯人であるような報道ぶりが気にかかる。

報道によると、犯人は送りつけた文書で、警察官の何人かを名指しして非難していた、という。名指しされた警官のほとんどが名須川さんとトラブルがあった、という。

名指しされた警察官から身に覚えがあることを聞き出し、その情報から名須川さんが捜査線上にあがったようだ。「怪しい」と目星を付け、名須川さんのクルマが事件当日現場付近の監視カメラに映っていた、などの状況証拠を結びつけ、後は自供を、という算段だったのではないか。追いつめられた道警が、乱暴な捜査に踏み切ったということはなかったか。

◆捜査力の低下が問題視される刑事警察

昨今、刑事警察は捜査力の低下が問題になっている。犯罪が複雑化する一方で、警察官の仕事は増えている。昔のような大雑把な事務処理は許されなくなり、報告書や日報などの文書作成作業が増え、捜査情報もコンピューターに頼り、足で現場を回る余裕がなくなった。刑事としての人間力が弱まったとも言われる。一方、地域社会は絆が弱まり、隣近所の動静さえ分りにくくなった。「民警一体の捜査」は難しくなっている。

警察内部でも、「外事警察」がTVドラマになるなど警備・公安が脚光を浴び、一方で交通警察の業務が増えている。伝統的な刑事警察は、ベテラン捜査官が時代とともに消え、元気がない。北海道警は捜査費の流用などが問題になり、内部管理にもガタが目立っていた。

死刑囚の再審が認められた袴田事件、厚生労働省審議官だった村木厚子さんの冤罪(えんざい)事件。安易な見立てに沿い、捜査する側の都合によってシナリオがつくられた事件の数々が捜査当局の信用を失墜させ、捜査手法の再検討を迫っている。そうした状況の中に警察が立たされている、ということを北海道警は自覚しているのか。

不特定多数に危害を及ぼす爆発物を使った犯行は許しがいたいが、その捜査はなんでもあり、では許されない。「怪しいのはあいつだ」という見込みに沿って、都合のいい状況証拠を並べる、という捜査でないことを願う。

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