迎洋一郎(むかえ・よういちろう)
1941年生まれ、60年豊田合成入社。95年豊田合成タイランド社長。2000年一栄工業社長。現在中国、タイで工場コンサルタントを務める。自称「ものづくり研究家」。
◆工場のスタッフ全員で育てる「リンゴの木」
前回の「心を一つにして正々堂々の道を行く」では、私が工場長として着任した尾西工場(愛知県一宮市)での取り組みの概略を説明した。今回はそれをさらに具体的に詳しく説明したい。
一つの工場となると、数百、数千人規模の従業員で構成される。私が1989年1月に赴任した工場も当初は650人程度だったが、あっという間に千人を超す規模にふくれあがった。工場トップとしてやりたいことはいっぱいあるが、実行に移してくれるのは第一線のオペレーターを筆頭に監督者、管理者、現場を支える工場スタッフである。この時の様子は、前回述べさせていただいた通りである。
私は工場のスタッフ全員と心を一つにすることが一番重要と考え、意思疎通の手段として、リンゴの木に例えてみたのが下の概略図である。これは、自分自身の頭の中を整理整頓する機会でもあった。以下、概念図にしたがい、その概要の説明をしよう。
(1)工場の土壌
◇誇りのもてる規律ある職場風土
決めたことは納得したら、何がなんでも守り実行する。守れない場合は事前に上司または
関部門に相談する職場
◇やる気、元気に満ちた明るい職場
やる気、元気、オール尾西(当時、私が工場長を務めていた弊社尾西工場)で、体質改善
をモットーにすることを課長研修会で決めていた。若い新入社員が多い環境を背景に策定
した
(2)地上、地域との関係
◇協力工場、部品、材料メーカーを大事にする
当工場では生産出来ない分野を担当して頂くのである。したがって感謝の気持ちを持って
接する
◇地域とのふれあいを厚くする
工場を操業するということは、その地を使わせて頂くのである、多くの車の出入りはもち
ろん新規従業員の採用にあたってもお世話になる。周辺を汚さない、町のお祭りには積極
的に参加することで喜んでもらえる活動をする
◇スタッフ部門に感謝する(他部門との協業)
技術、生産管理、品質保障部門や人事、経理、総務部門は常に工場の運営を側面から支え
てくれています。地球に例えると太陽であり、恵みの雨であり空気でもあると認識しよう
(3)リンゴの木の構成
一本のリンゴの木を根、幹、枝、実に例えてみた
1)根…立派な木を育てるために、土壌から養分を吸い上げる役割
何をやるにしても、以下の「つくり」の3つの原則を忘れない
・標準遵守活動(標準化とその遵守)
・対話活動(組織の上下、左右の意思の疎通無くして前進無し、対話を心がける)
・1個流し化(品質第一の思想を貫く、悪いものをつくらない、流さない)
2)根と幹の接点
具体的な行動計画策定にあたり、以下の管理手法を活用する
・QA(品質保証)管理=デミング賞,トヨタ品質管理賞挑戦体験
・PM(設備金型)管理=PM賞、同特別賞挑戦体験
・TPS(つくりかた改善)管理=トヨタ自主研指導会、大野耐一会長の教えを遵守
・作業環境の快適化 上記を推進するために、人間性の尊重を心がけよう
以上を理念として、方針の策定と実行を徹底した
3)幹
◇長期計画
5年後の工場のあるべき姿を管理項目別に策定し、それに向かって毎年度の具体的実施
計画につなげるようにした
◇年度方針の展開
・工場長方針=管理項目として、品質、原価、量納期、職場環境、地域地球環境を設定
し工場としてどんな方法で改善をすすめ、結果としてどの水準に到達するかを具体的
に全課に示す
・課長方針=それぞれの課は、工場長方針を受け前年の解析に基づく課題の抽出と新た
な挑戦すべき課題を整理して、改善計画を立て目標達成をはかる
・各員の実践=課長方針は職場毎にやるべき事が示されるので、係単位で作業員に内
容を周知徹底し全員参加のもとで目標達成に邁進する
4)枝
管理すべき大項目を5つに大分類した(生産本部から下りてくる管理目標、工場の特徴か
ら出てくる管理目標)
◇品質管理…納入先クレーム、機能品質不具合、後工程流出不良など
◇原価管理…原価低減を重点に生産性の向上、比例費(材料、部品,外注加工)の低減等
◇量納期管理…納入遅延防止、異常在庫量改善など
◇職場環境管理…災害発生防止、職場満足度向上、サークル活性度評価など
◇地域、地球環境対応管理…産業廃棄物低減、省エネ、騒音、汚染物質防止など
5)実
リンゴの実は管理目標の結果を表す。つまり品質や原価等々の改善結果を意味するもので
ある。大きく甘く色付きもよいリンゴを実らせようということである。
6)注射器
図の中で原価の枝に注射器で活力剤を注入しているが、これは業務でいうと通常業務では
対応出来ないと判断した時に、プロジェクトチームを組むとか、特命業務として専任者を
設け、そのテーマー解決に専従させ改善を確実にすすめることが必要である。
◆自社の発展は地域社会の発展にもつながる
次に下の図を見ていただきたい。立派な実を実らせる目的は何かということである。
それは、営業部門への最大の支援ではないだろうか。営業マンが顧客に対して胸の張れる商品をつくり出すことである。その結果
1)ユーザーの信頼が高まり売り上げが伸びる。すなわち顧客に喜んでもらい、さらなる期
待を高められるように
2)売り上げが伸びることで、利益が多くなる。利益は企業の潤滑油となり
◇税金を納めることで、社会に貢献、奉仕する
◇会社の更なる発展のために、再投資ができる
3)利益は我々従業員にも配分され生活保障が厚くなり、家族の幸せはもちろん仲間や地域
の人たちと共存共栄を図ることができる
以上の考えを共有化し全員一丸となって正々堂々と歩き、みんなでこの工場で働いてよかった、誇りを持って頑張っていこうと思えるようになりたい、と私は繰り返しすべての工場スタッフに呼びかけたのである。
こうした取り組みによって私たちの工場は成功し、大きな革命的成果をあげた例があるので、次回紹介したい。
コメントを残す