それは哀愁のメロディーなのか
米国のサンシャイン・ポップと今
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第280回

3月 03日 2025年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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特別支援が必要な方の学びの場「みんなの大学校」学長、博士(新聞学)。フェリス女学院大学准教授、文部科学省障害者生涯学習支援アドバイザー、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。

DEIの大転換

トランプ大統領の米国が始まった。就任日に発せられた大量の大統領令、就任式やダボス会議での演説、それらで表現された「偉大な米国」。パリ協定からの離脱、石油ガス開発の再開や違法移民の送還など、多くのものは予想されていたとはいえ、そこには、これまで信頼と寛容の上で成り立ってきた秩序の否定も含まれる。

特にリベラル政策と位置付けられた「DEI(多様性・公平性・包摂性)」政策の終了は、積み上げてきた国際協調はもとより、米国という国が築き上げた「多様な社会」の在り方を大転換するようで、世界が憧れたあの米国ではなくなる、のだろうか、との失望が先立つ。

米国への憧憬(しょうけい)の行き場を探す私は、仕事をしながら流す1960~70年代の米国の「バンド」音楽に宿っている斬新さ、多様さ、荒っぽさ、無邪気さ、に思いを寄せている。その音楽、「サンシャイン・ポップ」ともいわれる楽曲が持ち合わせていた寛容さや包容力は今後、どんな響きとなって米国社会に、そして世界に伝わっていくのだろうか。

◆空に上がっていく

スパンキー・アンド・アワ・ギャング(Spanky & Our Gang)、男女混合のグループはコーラスで展開される曲調はフォークであり、ポップ。彼らのレコードジャケットや衣装がそうであるように、カラフルな色彩を伴い、気持ちを高揚させてくれる。「Sunday Will Never Be The Same」(邦題:想い出の日曜日)、「ウィザウト・ライム・オア・リーズン」(邦題:Without Rhyme Or Reason)が米国でのヒット曲だが、日本での知名度はいまひとつ。

同じようにサンシャイン・ポップそのものの印象で、輝く太陽に向かって飛んでいける元気を与えてくれるのがフィフィス・デメンション(The Fifth Dimension)。特に「アップ・アップ・アンド・アウエイ」(Up, Up and away)は「美しい気球に乗りませんか」と始まって、空に高く高く上がっていく、とのフレーズは、今も色あせない。

アソシエイション(Association)の「Never My Love」(邦題:かなわぬ恋)は悲しいバラードだが、どこか明るい日差しが見える。

◆政治家になったギタリスト

ブレッド(Bread)の「ディスマル・デイ」(Dismal Day)、「ロンドン・ブリッジ」(London Bridge)で優しく語りかけるような声、ハーパース・ビザール(Harpers Bizarre)の「チャタヌーガ・チュー・チュー」(Chattanooga Choo Choo)が演出する汽車の汽笛。どちらも米カリフォルニアから出発したバンドで、楽曲には自由な風と旅立ちの爽快さを感じる。現状の米国の閉そく感を思うと、懐かしい。

オーリアンズ(Orleans)のどこでもなじむポップなロックは、よき米国の幸せな家庭を思わせる。「ダンス・ウイズ・ミー」が日本では知られているが、クリスマス・ソングなど、米国流の幸せの形も表現している。

ギターで曲を手掛けていたジョン・ホールは、環境保護の活動家ともなり民主党のニューヨーク州選出の上院議員となった。共和党候補者との激戦を2度制し、3度目に敗れたが、リベラルな政治家としての気骨な姿勢を崩さず、共和党のジョージ・W・ブッシュが大統領選のキャンペーンには、オーリアンズの楽曲を使用することを認めなかった。

◆希望のバンド

60年代にデビューした米国のバンドは今思えば、すべてが米国を表現していた。それを実感するのは、2020年に公開されたドキュメンタリー映画「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」(原題:Once Were Brothers: Robbie Robertson and the Band)だ。

この映画で再度、その存在が見直されているザ・バンド(The Band)は、イギリスのビートルズに対抗する唯一の米国の「バンド」との声もよく聞く。映画では、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトンらがその魅力を語っていて、世界のロック史における役割も再確認できる。

今やノーベル文学賞の称号を得たボブ・ディランのバックバンドとしてスタートした彼らにも、その楽曲に米国が凝縮されている。成功と失敗を繰り返し、ストーリーは描かれていく。色あせないサンシャイン・ポップは、次の光に向けての、希望の調べだと思いたい。

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