п»ї アベノミクス効果と課題―日本の地方経済探訪『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第21回 | ニュース屋台村

アベノミクス効果と課題―日本の地方経済探訪
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第21回

5月 23日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住16年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

4月10日から始まった1カ月超の日本出張を終え、先週15日にタイに戻ってきた。バンコック銀行の提携銀行とそのお客様の訪問がこの出張の目的であり、今回も北は仙台、南は広島、徳島など全国各地を訪問してまわった。

銀行員は大変恵まれた商売であり、タダでお客様から色々なことを教えていただける。銀行員生活38年でこれまで600社ほどの工場を見学させていただいたが、今回もまた10社ほど工場を見せていただいてきた。こうした1カ月超にわたる日本出張は2005年以来、年2回必ず行ってきているが、何よりも自分の眼や耳が確認する生の経済情報は、私にとって貴重な情報となっている。

今回は、日本の地方経済の状況について私の皮膚感覚で感じた定点観測をお伝えしたい。

◆人々の心に戻ってきている自信

まず昨年10月の前回の日本出張時と比較して私が感じたことは、多くの方が日本の経済回復について確信を持ち始めていらっしゃるということである。もっとも、私の訪問先は地方であっても都市部に住んでおられる人や企業の方々であり、日本全体を語っているわけではない。だが、少なくともそれらの方々はデフレの脱却や景気回復を実感されている。

私自身は、アベノミクスの金融政策や財政政策には今でも懐疑的である。強い円は日本の国力を表すものである。製造業の海外移転に伴い、これらの企業の親子間決済が円に移行し、円建て輸出が増加したことにより、ドル建ての貿易取引は2008年ごろから輸入取引の方が多い状況にある。

このような状況で円安政策をとれば貿易赤字は増加し、日本の富は海外へ移転してしまう。一方、財政支出は相変わらず公共工事が中心だが、日本の公共工事の波及効果については、かねて疑問視されており、単に次世代に借金を背負わせる分配効果しか持っていないというのが私の持論である。

しかし、アベノミクスの金融緩和政策によって株価や不動産価格が上昇したこと、また円安政策によって輸出産業の決算数字が大きく改善したことなどから、確実に人々の心に自信が戻ってきている。人間は経済合理性のみで行動するわけではない。人々の心の在り様が変わり、前向きに経済活動を行い始めたというのは、アベノミクスの大きな成果である。

◆好調な自動車、震災被災県では建設関連が活況

それでは、地方各地はどのようになっているのであろうか? 自動車産業のおひざ元である名古屋や広島は街に活気があふれている。斬新なデザインで国内販売が好調なマツダがある広島の製造業は、国内製造だけでなくマツダの海外展開についていくのに必死の様子である。一方、「国内生産300万台死守」をかかげるトヨタは、主に欧米の昨年来の豪雪の影響で現地生産が停滞したことから、ノックダウンを含めた完成車輸出が増加。まだこの効果が続いており、部品メーカーも繁忙状態が続いている。

こうした自動車産業の好調を反映し、工作機械産業も今年に入って売り上げが増加している。工作機械業界は2013年は中国経済の停滞から、中国向け輸出が前年比半減するなど苦戦続きであった。しかし、景気回復の波及効果が最後になるといわれているこの業界にも今年になって、人々の前向きな気持ちが到達してきた。

私がもう1つの景気指標としている中古工作機械であるが、13年は円安効果で韓国を中心とした海外向け売り上げが急増したが、今年になり円安効果はなくなりつつあるという。しかし、相変わらず日系企業の海外拠点向け需要は堅調であり、中古機械の品薄状態は続いている。

一方、東北の震災被災県では大量に復興資金が流れてきており、建設関連は相変わらず活況のようである。昨年10月に日本に出張し、北海道や北陸を訪問した際、これらの地方の建設関連の人手が東北に取られているとの話を聞いたが、現在も同様である。地方金融機関にはこれらの復興資金が集まり、ある銀行では1年間で預金が1兆円増加したと聞く。また、被災地を訪問すると、関西の産業廃棄物取扱業者が大きく看板をあげている。

公共工事については東京などの大都市などでも予算がつけられており、夜中になると多くの場所で道路工事が行われている。タクシーの運転手に聞くと、昨年後半から建設関連のタクシーチケットの利用が大きく増加したという。

◆景気回復を確実にする次の一手が必要だ

日本の地方各地を訪問してみても、今回はアベノミクスの効果を確実に感じられた。しかし一方で先程述べたように、アベノミクスは負の効果も併せ持ちうる施策である。アベノミクスによってせっかく人々が前向きな姿勢を持ち始めたのであれば、この機に日本の景気回復を確実にする、しっかりとした成長戦略を打ち出す必要がある。

一方で、アベノミクスの効果は一部の地域にだけその恩恵がいっているという危惧がある。今回も地方銀行のお客様を訪問するため、地方の小さな町を何カ所か訪ねたが、人の気配を感じない町をいくつも経験した。こうしたさびれていく地方をどうするのか? 日本の抱える課題の大きさをあらためて感じた今回の日本出張であった。

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