п»ї サッカーと八百長、闇も深いが根も深い『アセアン複眼』第1回 | ニュース屋台村

サッカーと八百長、闇も深いが根も深い
『アセアン複眼』第1回

6月 13日 2014年 国際

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佐藤剛己(さとう・つよき)

企業買収や提携時の相手先デューデリジェンス、深掘りのビジネス情報、政治リスク分析などを提供するHummingbird Advisories 代表。シンガポールと東京を拠点にアセアン、オセアニアと日本をカバーする。グローバルの同業者50か国400社・個人が会員の米国Intellenet日本代表。新聞記者として9年、米調査系コンサルティング会社で11年働いた後、起業。

2014年FIFAワールドカップ(W杯)が開幕した。世界の期待が高まるのに合わせ、今回はサッカー界の闇の部分も随分とメディアに流れている。特に国際スポーツ安全センター(International Centre for Sport Security, ICSS)が今年5月に発表したレポートは、アジアのサッカー関係者の頭痛の種になっている。

同レポートは「世界のスポーツ賭博の80%に八百長がある」「特にサッカーとクリケットが犯罪組織の温床」「資金洗浄が特定された年間約1400億米ドルのうち53%がアジアでの違法行為に関連していた」などと報じている。「アセアン複眼」第1回は、このレポートを象徴するようなシンガポールで端を発した事例を紹介したい。

◆5年間に全世界680試合で八百長

シンガポール人Dan Tan Seet Eng(タン)による国際的な八百長組織が注目を浴びるようになったのは、13年2月のこと。フィンランドで11年2月に逮捕された八百長「元締め」と目されたシンガポール人の背後に、実は首謀者(タン)がいることをつかんでいた欧州刑事警察機構(Europol)が、捜査の概要を公表してしまったのだ。

それによると、タンとその一味は過去5年間に欧州プロサッカーリーグの380試合(13か国)、全世界680試合で八百長を行った、という。ネットワークはシンガポールからほぼ欧州全域に延びていた。

タンは、携帯電話でネットワークに選手または監督への工作指示を出し、一方、オンラインカジノの形で顧客を募っていた。逮捕前、自身のもうけとして最大1500万ユーロ(約20億7000万円)をセリエAの試合でもうけたことがあると、タンはドイツ誌シュピーゲルに語っている。メディアを丹念に見る限り、タンの八百長工作は01年ごろまではさかのぼれるようだ。

捜査の結果、タンの他12人が13年9月にシンガポールで逮捕。その後、当局からの発表はほとんどない。

この事案が際立っているのは、シンガポールといういわば小国の「ビジネスマン」が欧州のサッカー八百長市場をコントロールしていた、というだけではない。実は、シンガポール当局がEuropolの捜査に当初消極的だったことが、むしろ根の深さを象徴しているのだ。

Europolは再三再四、シンガポールに捜査協力を要請、11年11月には逮捕状まで提出した。しかしシンガポール警察は「確固たる証拠がない」と協力を回避してきた。

タンは同様の罪で90年代に逮捕、収監されているうえ、Europol捜査が表立ってきた2011年ごろからはシンガポールの地元紙と接触、露出も増えていたにもかかわらずである(事件を追いかけてきた記者はシンガポール国内で脅迫を受けている)。Europolが捜査を公表した背景でもある。

無論、シンガポールへの風当たりは強く、Interpolは「都市国家シンガポールが容疑者たちを逮捕し、犯罪の詳細を明らかにしない限り、国に対する評価は厳しいものになるだろう」(Financial Times, 13年2月12日)とコメント。対するシンガポール当局は、最後までのらりくらりしていた印象を否めない(”The authorities in Singapore are assisting the Italian authorities through Interpol…Notwithstanding, any assistance or enforcement has to be done in accordance with the country’s laws and mutually agreed framework.”- The New York Times, 13年2月13日)。

◆国民に染み入るギャンブル性

シンガポールではギャンブルは合法。行き過ぎも目に付く。サッカー違法ギャンブルの温床とされるGeylang(ゲイラン)という地区では、昨年確認できる限りで3回の大規模な摘発が実施された。その点では、当局も取り締まりに力を入れていると言える。

一方、プロリーグのS-Leagueを巡る事件は過去に1つ、2つではない。スポーツではないが島内に2つあるギャンブル施設は、国民は入場料100シンガポールドルを払う必要があるが、自己負担せずにカジノ専門金貸し業者に出してもらうケースが多い。ギャンブル性が国民に染み入っている様相は、ヤクザが日本社会の隅々に浸透しているのと似ている。

サッカーと八百長、闇も深いが根も深いのである。

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