п»ї カジノ、抜け落ちる議論(その1)『アセアン複眼』第3回 | ニュース屋台村

カジノ、抜け落ちる議論(その1)
『アセアン複眼』第3回

9月 12日 2014年 国際

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佐藤剛己(さとう・つよき)

企業買収や提携時の相手先デューデリジェンス、深掘りのビジネス情報、政治リスク分析などを提供するHummingbird Advisories 代表。シンガポールと東京を拠点にアセアン、オセアニアと日本をカバーする。グローバルの同業者50か国400社・個人が会員の米国Intellenet日本代表。新聞記者として9年、米調査系コンサルティング会社で11年働いた後、起業。

日本の政治家の元秘書と、昨今話題のIR(カジノ)法案の話になった。彼は突然、檄(げき)を飛ばし始めた。

「野心的政治家は莫大(ばくだい)なキックバックをもくろんで、なし崩し的にカジノ導入への段取りを進める作戦だろうが、彼らとて、オリンピック準備の国土強じん化をめざし(ハードインフラ建設にガンガン金をかけようとし)、権力は持つけど将来に責任を持たない高齢の政治家と同じだ。彼らには、有権者にとんでもない負の遺産を残す前に、本気で退場を願った方がいい。もう限界期だ」

彼は「どのみち非難されるから」と、法案の賛否については旗色を鮮明にしない。が、かつて見た数多の場面を思い出し、つい利権政治家に頭が来てしまったようだ。筆者が聞くカジノを巡る日本の政治家の動きも、だいたいこの発言通りだ。

一方、日本でのカジノ法案を巡る議論は、政府与党からの材料提供に乏しく、メディアを含めた市井(しせい)の議論も具体性を欠く。賛成派と反対派に、どこまで行ってもかみ合わない言葉の投げ合いだけが続いている。

筆者はシンガポールでカジノ議論を身近に見聞きし、また多くの政治家が見学(見物?)にやってくる姿を見て、この貧困な議論の有り様に大きな違和感を抱いてきた。今回は2回に分けて、カジノを巡る議論で今日本に欠けている論点をいくつがご紹介したい。

◆世論へ理解を求める

「試算では年間2万人がギャンブル中毒になる。2万人の国民と2万の家族が破滅することになる。こうした人々を放っておいていいのか?」と、言い放ってカジノ開設に反対したのは、トニー・タン現シンガポール大統領。発言当時の2005年4月に副首相だったタン氏は、カジノ開設に大反対だった。

当時のシンガポール政府がカジノを合法化するために提出したIR法案は国内で物議を呼び、ギャンブル依存症対策から犯罪者対策、ジャンケット(高利貸し)オペレーターの扱いなど、議論が百出した。当時タン氏が上司だった元政府高官は「政府部内でも賛成反対両派の差はわずかだった」と振り返る。

恐らく日本でも賛否を二分するだろう。だが今の日本と当時のシンガポールが大きく違うのは、シンガポールではカジノ開設5年前から、政府が積極的に情報や議論のネタを提供し、市井の活発な議論をあおったことだ(“IPS Forum on The Casino Proposal, 10 January 2005”(http://lkyspp.nus.edu.sg/wp-content/uploads/2013/06/IPS-Casino-Forum-Report.pdf)など)。

今、日本を巡る業界の動きは加速している。大手カジノ会社が「5千億円を投資する」などの大風呂敷を広げるのは当たり前。米ネバダ州ラスベガスに本社があるカジノリゾート運営会社ラスベガス・サンズは東京に日本人担当者を置き、マレーシアで唯一の政府公認カジノを運営するゲンティングループのシンガポール子会社ゲンティン・シンガポールは日本に8つも子会社を設立した。大手証券会社は日系、外資を問わず、将来的なカジノ運営会社が海外勢と日系のJVになるであろうと見込み、その上場主幹事を取ろうと準備に余念がない。

日本はというと、「パチンコの換金について警察庁が『存ぜぬ』と発言する」(2014年8月25日付朝日新聞)という、まだこの段階。日本のパチンコホールは、独自の営業形態「三店方式」を取り入れながらも事実上カジノとして機能しており、行政は反社会的組織の温床である景品交換所の存在に目をつぶってきた。その不透明性ゆえ、パチンコホール会社は日本での上場を拒否される状態が続いているのである。

パチンコ機器メーカーも、新台の許認可を得るために当局、正確には一般財団法人保安通信技術協会のご機嫌を伺っていなければならない。

不透明感は、世論に不信感を醸成する。パチンコ・公営カジノは存在が既成事実化している半面、世論のカジノへの忌避反応がかなり高いのは、そのためもあろう。

今後日本に参入するカジノあるいはIR事業者は、この世論のカジノ不信感と格闘し続けなければならず、理解を求めるための仕掛けが必要だ。IR法案成立に際して日本政府が取り組まねばならないのは、まずは世論の理解を得るための情報開示と議論促進だが、ネタが出てくる様子はまだない。(つづく)

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