п»ї 地域金融機関の生き残る道『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第38回 | ニュース屋台村

地域金融機関の生き残る道
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第38回

1月 30日 2015年 経済

LINEで送る
Pocket

小澤 仁(おざわ・ひとし)

 バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住17年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

正月休みで日本に一時帰国した折、社団法人金融財政事情研究会の「金融経営塾セミナー」で講演を行ってきた。主に地域金融機関の経営幹部と経営幹部候補生の計約30人の方に対して、このニュース屋台村の私の屋台名である「バンカーの目のつけどころ、気のつけどころ」と題して2時間半みっちりと話をさせて頂いた。

気がつけば銀行員生活38年となるが、このうち海外勤務27年、国際部勤務7年という極めて偏った職務経験を積んできた。「偏った経験だからこそ人とは異なった視点があるのではないか」というある官僚の方からのご推薦で、このセミナーの講師を引き受けることになったのである。

◆「黒田バズーカ砲」の弊害

講演の前半は「タイ国概要ならびに日系企業のタイ進出」について1時間半、後半は「地域金融機関の課題と対策」について1時間強にわたり自説を述べさせて頂いた。

既に新聞や経済雑誌などで広く書かれているように、日本の地方は「人口の減少ならびに高齢化」と「主要企業の海外進出」によって消費低迷、労働力減少、更には地域産業衰退の憂き目に遭っている。

地域金融機関もこうした厳しい環境下で貸し出しは大きく伸び悩み、県内預貸率は(総貸出額/総預金額)が3割程度の銀行が多くある。お客様から預かった預金の運用先が地元には見つからないのである。

こうしたことから多くの地域金融機関は東京・大阪のみならず、本店所在地に近い中核都市(札幌・仙台・横浜・名古屋・広島・福岡など)に「衛星支店」を設け、低利の住宅ローンを積極的に売り込んでいる。激しい貸出金利競争は消耗(しょうもう)戦の様相を帯び、2014年9月時点で11行の銀行の預貸利ざや(貸出金利と預金金利の金利差)がマイナスとなっている。地域金融機関の収益環境は年々悪化の一途である。

現状では大半の地方銀行の預貸率は60~70%程度で推移している。従来、地域金融機関は余った資金を短期国債購入に充てていたが、「黒田バズーカ砲」と呼ばれる黒田東彦(はるひこ)日本銀行総裁の思い切った追加金融緩和策により、日銀が市場から国債を買いまくることとなり、この選択も出来なくなりつつある。

一部地域金融機関は「リート(REIT)」と呼ばれる不動産投資信託の購入を積極化させており、これが日本の不動産市況の下支えとなっている。またある金融機関では日本銀行が短期国債を買い占めてしまったため、ほぼ自動的に長期国債運用へとシフトしている。

しかし、長期金利上昇に伴う国債価格の暴落リスクにつき、どこまで覚悟しているか定かでない。黒田バズーカ砲以降、大半の地域金融機関は他の運用手段も見つからず、国債購入に充てていた資金を日本銀行の当座預金に預けたままの状況にしているのである。

1990年代以降需要が低迷している日本社会では、いくらアベノミクスの金融政策によって市場に資金を流そうとしても、資金は日本銀行に滞留するのみであって経済活性化の起爆剤とはなり得なかったのである。

更に地方金融機関を取り巻く環境は深刻である。高齢化社会に伴う人口減少により、相続財産が都市部へ移動し始めており、幾つかの県で地域金融機関の預金が減少し始めたのである。地域金融機関は収益環境のみならず、その存在基盤すら危うくなり始めているのである。一方で大変失礼な言い方であるが、こうした自己の危機を本当に理解し、回避に向けた行動に移そうとしている人が地域金融機関の中に何人いるか疑問に思わざるを得ない。

◆銀行の横並び意識、ここに極まれり

私は今回の金融経営塾セミナーの講師を引き受けるにあたって、メガ銀行、政府金融機関を含め約70行のアニュアルレポートを読ませて頂いた。各金融機関のアニュアルレポートにも「地域振興」や「地方創生」の題目のもと、以下のような産業育成策が書かれている。

1.新規事業…ベンチャーキャピタル/コンサル照会/6次産業育成(注)
 2.事業発掘…ビジネスマッチング/海外進出支援
 3.事業再生…再生ファンド活用

(注)6次産業とは農林水産業である1次産業の産品を製造加工(2次産業)もしくは流通工夫(3次産業)することにより付加価値を高めるという意味の造語。1次、2次、3次産業を足すことで6次産業と呼ぶ。

残念なことに数行を除いてほとんど全ての銀行の産業育成策の中身は上述の内容に集約されてしまうのである。「銀行の横並び意識、ここに極まれり」といった感じである。

更に残念な事実がある。こうした産業育成策に対して銀行は基本的に外注するだけなのである。例えばベンチャーキャピタルについて言えば、銀行と共同出資をして銀行から資金を引き出し、自社のノウハウを活用して商売を行う専門業者がいる。この専門業者は多くの銀行と同時にこうしたスキームを作り、自社の業績を伸ばす。6次産業育成の主要イベントである「食の商談会」や製造業の「ビジネスマッチング」についても同様である。

こうしたイベントを手がける業者に丸投げして資金拠出することだけしかしていない銀行も多いのではないだろうか? 監督官庁からの指導の言い逃れとしてこうした施策を挙げているのだとしたら「地方創生」などおぼつかない。もっとも銀行から外注を受けるこれらの業者の中にも、真剣に日本産業を憂えて頑張っておられる人も少なからずいる。この点は多いに救われるところである。

◆「観光」と「特産物の輸出」だけでは将来はない

それでは、地方活性化のために地域金融機関がやるべきことは何だろうか? 2000年代に入って多くの日系企業がタイに進出してきたが、その進出理由を見てみるとそこにヒントが隠されている。日系企業のタイ進出の具体的な理由とは以下の五つであると私は考えている。

1.マーケットが存在する
 2.人材がいる
 3.ノウハウがある
 4.有利な地理
 5.利益が上がりやすい

地域活性化のために産業育成を目指すのであれば、この五つの条件のうち一つでも二つでも作り出していくことが重要である、というのが歴史の教訓である。その地方の特性に合った産業を一つ選び、大学などの教育機関などと提携して「人材」や「ノウハウ」を蓄積していく地道な努力こそ重要である。

猫も杓子(しゃくし)も「観光」と「特産物の輸出」では日本の将来は浮かばれない。地域金融機関にとってその地方再生が無ければ、自行の将来も無い。そのことを肝に銘じて前述の条件の達成に向け「地道に自力の努力」を続けて頂きたい。

幸いにも金融機関には資金とネットワーク、更には自社内に優秀な人材がいる。繰り返しになるが、地方活性化は地域金融機関が積極的に担っていく課題である。なぜならば地方活性化の達成がなければ、その金融機関自体が将来消え失せていく可能性が高いからである。

コメント

コメントを残す