北見 創(きたみ・そう)
日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。
次の有望市場はどこだろうか――。そう考えたときに、世界第6位の人口規模を誇るパキスタンを挙げるビジネスマンは多くはないはずだ。現在、日本ではアジアの需要を取り込む機運が高まっているが、まだ海外事業に取り組んで日の浅い中堅・中小企業であれば「タイ、インドネシア、ベトナムあたりやないかなあ」という答えが多いはずだ。そうした主要国の後にミャンマーなどの国名が出てくるのであって、「インドまではちょっとなあ」という企業も多いだろう。しかし、すでにアジア、中東に拠点を構え終えた大企業が、徐々にパキスタンを射程にとらえ始めている。
◆パキスタンのチャンスとは
「夜明け前のパキスタン」という題名にしたものの、ミャンマーのように夜明けが訪れるかは分からない。1990年代に在パキスタン日本大使館に勤めていたM氏に話を聞くと、「20年前もいつか急成長する国だと言っていた」そうだが、ついぞ急成長せず、日本企業の進出ラッシュは来ていない。しかし、数字だけみるとこれほど潜在性のある市場はまれだろう。
パキスタンが有望市場とされる根拠は、その人口規模と若年層の厚さによるところが大きい。人口は1億9000万人と推定されているうえ、平均年齢は23歳と若い。お隣のインドの家庭では、最近は子供2人の家庭が多いそうだが、パキスタンの家庭では子供が3~4人いるのが普通だ。毎年500万人近い新生児が誕生している。
次に、まだ競争が少ないことが挙げられる。欧米企業はテロのターゲットになりやすく、積極的に活動がしにくい。中国企業、韓国企業が徐々に市場開拓を始めているところである。パキスタンは、製造業に関しては元々産業基盤が脆弱(ぜいじゃく)であるため、外資企業や外国製品への依存度が高い。すでに製品供給を行っている企業は先行者利益が十分に得られる市場である。
非常に収益性の高い市場であることが明らかになっており、ジェトロが各国・地域の進出日系企業にとったアンケートによると、2014年の営業利益について、黒字だった企業の割合は31カ国・地域中2位となっている。
日本ブランドのシェアが高い点も見逃せない。自動車市場においては現地生産を行っているスズキ、トヨタ、ホンダ、日野自動車をはじめ、日本ブランドが99.9%のシェアを占める。二輪においてはホンダが強い。「機械・設備は日本製がいい」というビジネスマンが多く、その結果、日本とパキスタン間の貿易は常に日本側の輸出超過である。
中堅・中小メーカーにとってみると、パキスタンに進出している日系大手企業や、ローカル企業に納入するチャンスが多いということであり、日本製の消費財や日本発信のサービス提供にも可能性があるかもしれない。
とはいえ、最初からパキスタンに進出することは現実的でないため、まずは出張ベースで販売会社や代理店を見つけたり、技術指導をしていったりということになるだろう。ハードルになるのは「パキスタンへの出張」することだ。
◆最大の問題点は治安情勢
言うまでもなく、パキスタン最大の問題点は治安情勢である。2014年のカラチ空港襲撃やペシャワルの学校襲撃といった凶悪なテロが少なくない。日本ではテロ事件を中心に報道されるため、日本からパキスタンへ出張することに対して許可を出さない企業も多い。しかし、実際にカラチで生活してみると、恐怖に襲われることはまれで、時々起こるテロについても、身近には感じにくいというのが実情だ。テロに巻き込まれて死んだ日本人の話を聞かないからだ。
日本企業が多く立地している商都カラチ、ラホールについて、外務省の渡航情報では「渡航の是非を検討してください」となっており、これをどう判断するかがポイントになるだろう。
安全対策のコンサルティング会社、コントロールリスク社の専門家によれば、パキスタンにおけるテロの傾向は明白であり、政府・軍関係施設、欧米系施設(ホテルや大使館など)、宗教施設(モスクや教会)がターゲットになることが多く、「会社や展示会などの商業活動がターゲットになったことは無い」という。また、イスラムと関わりの薄い日本人は狙われにくいことは確かだ。
ただ、一般犯罪については、カラチにおける銃強盗が多発しており、これについては対策が必要だ。現地駐在員は銃武装した警備員を随行させるのが基本で、そうした対策を行っていない場合は被害に遭うケースもある。万一襲われた場合は抵抗せず、金品を速やかに渡せば発砲されることはない。
危険な目に遭うリスクを冒してまでビジネスすべきでない、という意見もある。確かにそれは正しいかもしれない。しかし、実際に一度でもパキスタンに来た出張者は再渡航してくることが多いことは事実だ。例えば、ジェトロが昨年11月に派遣したミッション参加者のうち、50%は半年も経たないうちにパキスタンに再渡航している。それだけ可能性を感じるということであろう。実際に見てもらえば、分かっていただけるはずだ。
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