п»ї 人を活かすコミュニケーション『ジャーナリスティックなやさしい未来』第45回 | ニュース屋台村

人を活かすコミュニケーション
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第45回

4月 10日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP等設立。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆モチベーション向上

人を活(い)かす、となると、やはり仕事論になってしまい、結局のところ、リーダシップ論もしくはマネジメント論に行き着く。そのテーマは「モチベーション向上」に絞られる。その対象は、部下だったり、新入社員だったり、経営者ならばその下位ヒエラルキーに属する部長や課長だったり、社長だったら役員のメンバーだったり。多くの人は上意下達(じょういかたつ)の何らかの働きかけがモチベーション向上につながると考え、その方法論を探しさまよう。

特にジェネレーションギャップや精神疾患など昨今では、予期せぬファクターの出現に、対応できない人も多い。人を活かすのは、関わり合いの延長にあり、結局は信頼関係が前提である。それを知らずに方法論(テクニック)を探したのでは、効果は一時的にとどまるだろう。

そんな前提を踏まえた上で、コミュニケーションの視点でモチベーション向上を考えると、4つの行動に集約される。様々な論がある中で、今回はキャリア研究の第一人者である金井壽宏(かない・としひろ)神戸大学大学院教授の論を引用したい。4つの行動とは、①上手なやり方の見本を提示②がんばってもらう理由のコミュニケーション③試しにやってみる機会④褒めること――である(『働くみんなのモチベーション論』金井教授)。

この4つで、モチベーションは上がる、はずである。実際に、これに通じるのが、江戸時代で言えば上杉鷹山(うえすぎ・ようざん)の「してみせて、言って聞かせて、させてみる」であり、近代になって山本五十六の「やってみせて、言って聞かせて、やらせて見て、ほめてやらねば、ひとは動かず」となる。

金井教授の4つの行動に一致している彼らの言葉だが、近代になって「褒める」のが条件となるところが面白い。現代では山本の言葉の末尾に「それでも動かねば、お願いしてみて、褒美を上げねば」と付け加えなければならないかもしれない。

◆4つのステップ

この4つは、①見本を提示=目で見せる②話す=聞かせる③やってみる=体感④褒める=うれしいという感情と他者とのつながりの意識を刺激――と言い換えられる。モチベーションは頭だけではなく、心も体も伴う体験が必要で、しかも「関わり合い」への実感が伴って完成するという考えだ。

私はこの4つを「モチベーション誘発コミュニケーション」と位置づけている。実際に言葉を使うのは②と④だが、①の見せてやることは「行動を見せる」というコミュニケーションであり、③の場合は、自分自身の内面との対話を促すもので「内面とのコミュニケーション」である。

人が動くには動機があり、人が高度な機能を備えた脳を持っている以上、条件反射だけではモチベーションは維持できない。内面と対話するプロセスに、脳で感情や動作を確認することは欠かせないのである。

言葉を使う言語コミュニケーションの②と④に関しては、適確な言葉が必要だが、この適確さは「傾聴」によって相手の話を聴き、相手が何を求め考えているのかを把握するのが前提。その上で、適確な言葉をより「鋭く」するには、私の専門領域でもある「エニアグラム」(人間を9つの基本的な性格に分類する性格タイプ論)など気質を知る方法が有効である。

人の気質から、その人が「受け入れやすい言葉」を選択することである。例えば「純粋だ」と言われて、「ピュアなイメージでうれしい」と喜ぶ気質と、「単純って意味なのか」と怒る気質がある。気質によって言葉という刺激に対する反応が違うから、アドバイスの言葉も自分が有効だと思っても相手に響かないことは、この気質が見抜けていないからである。傾聴した上で気質が分かれば、無駄な言葉はなくなるはずだ。

◆アドバイスを「金言」に

最近、大企業や有名企業を退職した人、もしくは退職間近な人のコミュニティーづくりについて相談を受けたが、彼ら経験を積んだシニアは、その経験を活かしたい、との強い意志を示されることが多い。それはよくわかるが、その強い意志ゆえにその経験を若者や下の世代に「教えたがる」傾向がある。「教える」目的は、モチベーション向上そして人を活かす、ことだから、一方的に「教える」姿勢だと、下の世代は「うっとうしい」となることもある。

従って、まず傾聴することが重要だと話した上で、傾聴で信頼関係が生まれ、傾聴で得られた相手が欲しているものが分かれば、アドバイスの言葉は適確になり、うざったい先輩の説教が、一瞬で「金言」に変わりますよ、と説明している。シニアの方々は「なるほど」との顔をするが、実際に人前に立つとやはり、相手の言葉を制して話してしまう人は多いらしい。やはり、人間を教えることは難しい。

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