東洋ビジネスサービス
1977年よりタイを拠点として、日本の政府機関の後方支援に携わる。現在は民間企業への支援も展開、日本とタイの懸け橋として両国の発展に貢献することを使命としている。
今回は、従業員の業務上横領のトラブルについてご紹介します。どのような状況で現金のやり取りがあり、横領が発生したのでしょうか? そしてなぜ、その横領が発覚したのでしょうか。
物流会社Tは輸出入の国際貨物の輸送サービス、フォワーディングを提供しています。この業務の中で、輸入通関したコンテナを港から引き取り、運送(デリバリー)をするという仕事があります。コンテナを港から引き取る際に、コンテナの所有者である船会社は取引する運送業者に「コンテナを無事に戻すように」という趣旨で、デポジット(保証金)を要求するのが慣例となっています。これにしたがって運送業者は、船会社の所有するコンテナを使って運送作業をする際に、船会社にコンテナを無事に戻すまでの担保としてデポジットを支払うのです。
もちろんデポジットですので、コンテナの返却が終われば、デポジットも返金されます。特に何も問題は無いはずです。ところが、このデポジットの支払いは、現金でやり取りすることが慣習となっているのです。
◆「戻ってこないはずがないお金」という思い込みが盲点に
日々、大量のコンテナが出入りし、そのつど確認が必要なデポジットについて、振り込みの確認や小切手の有効性などを確認している時間がない、ということかもしれませんが、何ともアナログな対応です。しかし長年慣れ親しんだこの商慣習はT社にとっても全く違和感の無いものです。いつものように商慣習に則り、現金を引き出して担当従業員に渡し、船会社へのデポジットの支払いを行っていました。
決算書を確認したT社の社長は、デポジットが計上されていることに気づきます。この時、このデポジットの内容を精査していれば良かったのですが、「デポジット=船会社への預かり金」という認識です。「戻ってこないはずがないお金」と考え、深刻に捉えていませんでした。
実はこの時点で、船会社は既にデポジットをT社に返金済みだったのです。正確にはT社の担当従業員に現金で返金されていたのでした。つまり担当従業員は船会社から返金されたデポジットを会社に戻さず、横領していたのです。
担当従業員はさすがに定期的に経理に返金している実績が無いとバレてしまうと考え、最近のデポジットで過去のデポジット分を会社に返金をするという自転車操業のような行為をするようになります。会社としては船会社の返金が少し遅れているという認識ですが、最初のうちはそれほど違和感がありませんでした。しかし、そもそも横領をするような従業員です。デポジット返金の自転車操業にもだんだん遅れが目立ってきます。そして、ついには6カ月もの遅れが出るようになりました。
帳簿を見ていたT社の社長もさすがに「なぜ1月のデポジット返金分が7月に入ってきているのか?」と疑問に思い、調査を行います。そこで発覚したのが前述のような事実です。担当従業員を問い詰めたところ、すべて認め、警察に通報するなり、好きにしてほしいというどうしようもない開き直りようです。
会社としてはいくらかでも取り返したい一心で個人の返済能力調査、親族への代理返済要求などできる限りの手を尽くしましたが、横領した金は既に使われ、一文無し状態。また、親族から関係は既に無いという返答しか得られませんでした。結局、T社は警察に通報するのみで終わり、戻ってこないデポジットは特別損失を計上することになりました。
◆現金のやり取りに透明性が確保されているか
売掛金の回収については、みな敏感になっています。帳簿を管理する責任者も営業担当者も注意を払っているはずです。しかし、デポジットとなると深く注意を払っている会社は少ないでしょう。戻ってくるはずのもの、という思い込みが盲点となってしまいました。しかも、信用できる船会社への支払いデポジットなので、なおさらです。しかし、いつの間にか、信用していた相手との取引が従業員のポケットに入っていた、というのが今回のケースです。
残念ながら現金のやり取りではこんな事態はいつ発生してもおかしくありません。今一度、御社の現金のやり取り部分に不審な点がないか、お確かめください。
コメントを残す