北川祥一(きたがわ・しょういち)
北川綜合法律事務所代表弁護士。弁護士登録後、中国関連国際法務分野においてトップローファームといえる大手法律事務所(当時名称:曾我・瓜生・糸賀法律事務所)に勤務し、大企業クライアントを中心とした多くの国際企業法務案件を取り扱う。その後独立し現事務所を開業。前事務所勤務時代における中国留学経験も生かし、法令・契約書の中国語原文でのレビューも行うなど、国際企業法務の観点から中国、台湾、マレーシアなどのアジア国際ビジネスを総合的にサポートしている。
さて、これまで2回デジタルフォレンジックの話をしましたが、今回は多少視点を変えた話、外枠的な話となります。
デジタルフォレンジックにより、消去したデータの復元や、一見して見ることができないデジタル機器内部のデータの解析などが可能となりますが、実はそのような技術的側面以前に重要なポイントが存在します。
端的に言えば、そのポイントとは、「法的観点からの分析・検討・指示」ということになります。
消去したメールを技術的に1万件、10万件、100万件復元することができたとしても、そのうちどのメールが、特定の法律上の請求においてどのように有効に使用することが可能であるかという分析・検討が存在しなければ、それら復元データも「単なるデータのかたまり」に過ぎません。
そもそも、ある法律上の請求において、電子メールを復元すればその法的請求にとって有効な証拠資料となり得るのか、インターネットの閲覧履歴を解析すればその法律上の請求にとって有効な証拠資料となり得るのか、あるいはパソコンのデータ送信履歴・送信データ内容を解析・復元すればその法律上の請求にとって有効な証拠資料となり得るのか等々、法的観点からの分析・検討・指示なくしては、デジタルフォレンジックの対象とすべき項目の選定すらできないこととなります。
このようにデジタルフォレンジックは、技術的側面と法律的視点が融合して初めて、紛争解決・予防に有効な手段となり得るところと言えます。
もう少し実務的な話も付け加えますと、デジタルフォレンジックを実行するにあたっては、期間・費用などの点も考える必要があります。
デジタルフォレンジックの対象項目が多ければ多いほど、エンジニアが投入する労力・時間は多くなり、当然のことながらそれに応じて費用も増大します。
期間・費用をかけて、問題となる法律上の紛争に有効でないデータを復元・調査・解析を行うことには何の意味もありません。
また、デジタルフォレンジックに多くの期間を要するとすれば、ある意味では生ものとも言える法的紛争の解決が先延ばしになってしまったり、あるいは当該法的紛争の内容・タイミングによっては解決が難しくなってしまったりするような場合さえあり得るところです。
従って、このような実務上の観点からも、法的観点からの分析・検討・指示に基づく、的確な範囲でのデジタルフォレンジックの利用が求められることとなるのです。
デジタルフォレンジックという手法の有効利用には「法的観点からの分析・検討・指示」が極めて重要であり、技術的側面と法律的視点が融合して初めて、その効果を発揮するものであるということがご理解頂けたところと思います。
このような意味で「法的観点からの分析・検討・指示」を担う弁護士がデジタルフォレンジックに精通していることは重要なことであり、本コラム『企業法務弁護士による最先端法律事情』第1回において法的紛争の相談窓口・入り口でのデジタルフォレンジックへの精通度合いが法律相談の結論に差異を生み得ることを説明しましたとおり、デジタルフォレンジックに精通している弁護士の重要性は増していくものと考えられます。
次回以降は、もう少し技術的側面の説明なども加えながら、証拠価値を保全するためのデジタルフォレンジックの手順、デジタル証拠の偽造・変造の解析などの点について引き続き説明していきたいと思います。
※『企業法務弁護士による最先端法律事情』での過去の関連記事は以下です。
「デジタルフォレンジック」をご存じですか?
https://www.newsyataimura.com/?p=4960#more-4960
「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その2)
https://www.newsyataimura.com/?p=5063#more-5063
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