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神奈川の産業集積と地方創生
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第67回

4月 15日 2016年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住18年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

神奈川県は、道府県最多の県内に三つの政令都市(横浜市・川崎市・相模原市)をもつ東京に続き2番目に人口の多い都道府県(911万人、201527年9月1日現在)である。日本全体として人口減少が叫ばれ、消滅する市町村も出てくると言われている中、数少ない人口増加が続いている県でもある。それは神奈川県自体が持ちえている魅力が人を引きつけていること及び、大都市東京の隣の県としての地理的優位があるからであろう。

そんな神奈川県であっても将来を見越しての産業振興については常に考える必要はある。地方創生と言えば、多くの人が「観光」「特産品輸出」「六次産業化」を念仏のようにとなえる。

しかし、神奈川県自体が持ちえている産業的魅力などはなんであろうか。現状を分析することから見えてくる神奈川県の得意分野と、地方創生の一環として今後神奈川県が進むべき姿を考察してみたい。

第1章:現状分析・・・神奈川県の産業集積

1.工業統計から見る神奈川県のステータス

はじめに、神奈川県が作成している工業統計調査結果報告(2013年確報版)を基に神奈川県について示してみたい。工業統計調査結果報告とは我が国の工業の実態を明らかにし、産業政策、中小企業政策など、国や都道府県などの地方公共団体の行政施策のための基礎資料であり、経済白書、中小企業白書などの経済分析及び各種の経済指標へデータを提供することを目的としているものである。

・県内総生産・・・30兆2578億円(平成24年)=3,642億ドル
≒オーストリア(3,945億ドル)・デンマーク(3,152億ドル)のGDP
※1ドル≒83.08円(平成24年の平均円ドルレート)
・一人当たり県民所得・・・319.9万円(2008年)
・出荷額の多い都道府県・・・1位愛知県40兆円、2位神奈川県17兆円(2012年の工業統計調査)
・事業所数・・・・・8433件(都道府県別順位 7位)
・従業員数・・・・・355,292人(同 5位)
・付加価値額・・・・4兆7414億円(同 4位)
・県内主な製造品と出荷額
輸送機:3.5兆円、石油:2.8兆円、化学:1.7兆円、食料:1.3兆円、生産用機器0.9兆円

上記のように、産業分野において他都道府県と比較しそれぞれ高い位置にいることが分かる。

2.神奈川県の産業集積

それでは、どのような産業が神奈川県には集積しているのであろうか。

各都道府県で産業集積を生じている業種を割り出すのに使われる指標に「特化係数」というものがある。「特化係数」とは、各都道府県の付加価値構成比を、日本全体の付加価値構成比で割ったもので、他地域より多くの企業が地域内でまとまって生産を行っている業種において係数が大きくなるものである。下記図表をご覧いただきたい。

グラフにあるように、神奈川県では石油・石炭製品が2.92と突出して高いことが分かる。製造出荷額が一番多い輸送機械は1.03と係数が低く出ているが、実際に産業集積が起こっていても、輸出比重が大きい産業については他の地域でも産業集積が生じており、比率が低くなる傾向にあるためである。

次に、付加価値構成比、従業員構成比を見てみると、

製造業の中において、付加価値構成比は構成比率高いものから、

輸送用機械製造業17.4%、化学工業10.5%、食料品製造業10.3%

同じく従業員構成比は

輸送用機械製造業15.4%、食料品製造業13.9%、生産用機械器具製造業8.9%

となっている。

以上より、石油石炭製品製造・輸送機械製造・食料品製造が出荷額以外の指標を見てみても、神奈川県において構成比率が高い。つまり、産業集積が起こっていることが分かる。

3.石油石炭製品製造業・食品製造業

3-1石油石炭製品製造業

石油石炭製品製造・輸送機械製造・食料品製造それぞれについて帝国データバンク(日本において最大の企業データを保有している。日本の銀行が融資先の選定のために使用することも多い)を利用し、神奈川県における本社登録社数などを調査したところ、輸送機械製造業が群を抜いて多い。事業所数の多い輸送機械業については後述することにし、ここでは石油石炭製造業・食品製造業について簡単に触れたい。

石油石炭製品製造では、神奈川県の港湾部京浜工業地帯に位置する大手上場企業がその販売費等の大半を占めている。全国ベースで石油石炭製品製造業として登録されている企業をリストアップし、神奈川県内関連を調べたところ、わずか17社しか存在しない。大半は潤滑油などの製造する中小企業であった。規模からしても上場企業4社(上場13社の内神奈川に工場があることが確認できた社数)で付加価値額の大半を占めていると考えられる。また、付加価値構成率上は大きな比率を占めているがこの業界に注目しても臨海部の大企業のみで系統樹になる産業ではなく神奈川「全体」の活性化には直接繋がらないと考える。

3-2食品製造業

次に食料品製造。日本の食品製造業業績トップ100社(上場企業売上高順位)のうち大手を中心に3割以上の35社神奈川に工場あることが分かった。自動化されている部分も多いと考えられるが、食品製造業分野の従業員構成率13.1%となっていることからも、これらの工場が神奈川県にもたらしている雇用は大きいものがある。神奈川県に食品製造業が多い理由は、東京の後背地であるためと思われるが、神奈川県自体は食品産地としてはさほど大きくないため。食品製造業が今後大きな産業として、成長していく可能性は少ないものと思われる。

第2章:輸送機械製造について

それでは輸送機械製造についてはどうであろうか。ご存知の通り、一台の自動車には、ねじまで含めて約3万ものパーツがあり、自動車製造会社は多くの下請け企業を抱えて成立しているものである。神奈川県には、いすゞ自動車株式会社及び日産自動車株式会社の生産工場がある。また、神奈川県内には大小合わせて80個の工業団地があり、その多くに自動車製造に関係する部品製造会社の工場がある。

先述した帝国データバンクから、「販売先」に両自動車メーカーが含まれる会社(製造業)を抽出(これは自己申告制であり、正確性をもった一次サプライヤー数とは異なる)したところ、神奈川県・東京都に両社合わせて約300社(うちタイ進出が確認できた企業100社弱)あった。それらの会社を「1次サプライヤー」とし、その中でも大手の15社をピックアップし同様の作業をし「2次サプライヤー」を抽出したところ、200社程度(うちタイ進出が把握できた企業約20社)となった。すべてを勘案すると1000社に迫るのではないであろうか。神奈川県の事業者数(約8400社)を考えるととても大きな割合である。さらに、これらの企業にもそれぞれのサプライヤーが存在することから、自動車産業の裾野はきわめて広いことが改めて分かる。傘下の企業やその従業員数から鑑みても神奈川県の産業集積中心は自動車業界であると言える。

第3章:クルマをめぐる現状

その自動車業界で最近のトピックスは「テレマックス(IOT)」そして「自動運転車」である。神奈川県において産業集積の中心であり、関連企業が多くある自動車業界発展は県全体の発展に大きく寄与すると考えられる。今後の神奈川県繁栄における一つのキーワードとして上記「テレマックス(IOT)」そして「自動運転車」が上がってくるのではないであろうか。

1.テレマックス(IOT)

「テレマティクス」とは最近になり注目を集めているIOT(Internet of Things)のひとつである。IOTとはモノからインターネットを介してデータを集めて解析し、モノにフィードバックするそんな仕組みである。インターネットにて大量のデータを流せるようになったこと、センサー等が小型化・低価格化可能となったことにより、注目を浴びている技術である。

今現在実用化が考えられているのは、

1、タイヤの交換時期を走行距離などに応じて判断、自動的に新しいタイヤを注文する(あるいはメーカーにその情報を送り、メーカーから所有者に電話がはいる)もの。これはすでにFAXのトナー交換の時期お知らせなどで行われているもののタイヤバージョンというところであろうか。

2、ハンドルを握っている手の発汗量を計測し、運転手の気分を判断。その時に応じ、リラックスできる匂いのハーブを車内に噴出するもの。

3、自動車が自宅に近づいてきたら、家の中のエアコンのスイッチが入り、居住者が到着する頃に最適な温度にしておく。自動車内で聞いていた音楽が家の中に入っても続きを聞くことができる。

4、ナビと周辺情報を連携し、人気のレストランをナビが教えてくれる。

5、走行データを収集し、アクセルの踏み方などのデータから保険料率を算定する。

などである。

2.自動運転(Automatic Cruse)

自動運転については、日本の自動車メーカー各社が必死に開発を進めているところであるが、グーグルなど異業種も今後成長が期待出来る分野として、積極的に参入を図ってきている。

最近の日経新聞などにおいても、本件に関連する記事が多く出ている。

・自動運転タクシー 買い物客を送迎(2015年10月1日付 日経新聞)

自動運転タクシー事業化を目指すDeNAの子会社と政府が神奈川県藤沢市で実証試験を始める。

本件は神奈川県の平成27年度「公募型『ロボット実証実験支援事業』」にも認定されている。

・トヨタ、20年めど自動運転―高速道で実用化へ(2015年10月7日付 日経新聞)

周りの様子はカメラ及び赤外線、場所をGPSで把握し走行。政府が東京オリンピックに向けて自動運転を官民一体で進める方針を示したことから発表に至った。首都高において実際にデモンストレーションを行った。

・三菱電機、三菱自動車は大船市にある三菱電機工場において、電気自動車から家に電力供給するV2Hを行っている。(V2H=Vehicle to Home)

・また、日本自動車工業会は11月に自動運転に関するRoad Mapをまとめている。具体的には東京オリンピックのある2020年までが導入期(自動運転技術の実用化・高齢者運転支援、高速道路での限定導入)2030年までが展開期(自動運転の普及・一般道での実用化・トラックの隊列走行)2050年までが成熟期(自動運転の社会への定着)というものだ。

第4章:未来への提言

それでは3章でみたIOT・自動運転車が走る未来とはどんな姿なのであろうか。また、それはどのように私たちの生活環境に変化をもたらすのか。

1.テレマックス(IOT)での変化

IOTにおいて更なるキーワードは「結びつき(Linkage)」だと考えられる。

【IOTにて結びつく可能性のあるもの】
・鍵・エアコン・テレビ・音楽・電源の供給・パソコン・お風呂・冷蔵庫 etc
すべてはインターネットを通じて結びつく。日本において、都市部は電車通勤が多いことから、これらの結合は地方のほうが効果的と思料できる。

上記の結びつく可能性のあるものから分かるのは、この変化は自動車産業にとどまらない点である。家電業界、住宅業界、食品業界など多岐多様な業界との連携により他地域(あるいは他国)に勝てる先進的なIOT社会形成が可能となるのではないであろうか。

2.自動運転での変化

IOTが産業間連携の変化であるとすると、自動運転は都市インフラの変化を及ぼすものである。

自動車の種類は大きく「自家用車」と「商用車」に分けられる。それぞれについて見てみよう。

2-1自家用車の自動運転化

自家用車に対する自動運転は、「運転」をしている労力を「休憩」や「簡単な作業」あるいは「人とのコミュニケーション」に配分可能となる。ただし、それ以上の積極的な可能性が出てくることは少ないのではないかと感じる。なぜなら「移動時間」というくくりを脱しないからだ。例えば飛行機のファーストクラス・ビジネスクラスに乗っている人はどうであろうか。既に飛行中もWi-Fiが使用できるようになっているが、そこにて行っていることは「仕事」「読書」は少なく、「寝る」「食べる」に集約されると思う。さらに「運転」自体に魅力がなくなることにより自家用車保有率が減り、既に利用者が増加しているといわれているカーシェアリングなどの利用にシフトしていくことが想像できる。

2-2商用車の自動運転化

それでは商用車が自動運転となった場合はどうなるであろうか。現在既に自動運転が導入されているところがある。オーストラリアの鉄鋼山だ。ここではコマツ製の超大型トラックがGPS誘導を受けて無人で採集場から発送場所まで自動で動いている。高さ7メートル(タイヤだけでも4メートル)の超大型トラックが自動で隊列をなして鉄鋼山の悪路を走行している姿は、動画を見るだけでも圧倒される。他の商用車で自動運転化が行われた場合を考えてみたい。

2-2-1大型輸送トラックを自動運転に?

商業車両の代表である大型輸送トラックを自動運転化したらどうであろうか。トラック業界はただでさえ荷賃の引き下げなどを迫られており、少しでも燃料費を抑えるために、デジタルタコグラフを使用し、アクセルやブレーキの踏み方を調整させるなど努力をしている。また、運転手の人件費もトラック業界において費用面で大きな割合を占める。深夜のP.A.や工業団地での路肩駐車などもトラック業界においての害の一つである。

実際アメリカでは、世界で初めての商用自動運転トラックが行動を走行している。今はまだ人が運転席に乗っている状況ではあるが、人間の力量に左右されることないため、燃費向上が可能となっている。

大型トラックが行っている港や工場から物を積み込み、倉庫などに運ぶ作業は人間の考えや判断が必要な場面が少なく、比較的自動運転化を導入しやすい(導入しても弊害のない)分野だと考える。また、人が運転することで必要であった休憩時間などを削減することが可能であり、より短時間に効率的に時間に正確な輸送が可能となるのではなかろうか。

※トラック事業者数は6万3千社程度(国土交通省・平成26年3月現在)営業用トラック保有台数130万台(自動車検査登録情報協会)

2-2-2タクシーが自動運転に?

「乗客が乗り込むと音声で目的地を伝えるとひとりでに動く。音声で対応できない際は手元のタブレット端末で入力。もちろん多言語可能。そうなれば今のタクシーよりより便利になる。なにかあればオペレーションセンターにつながり、人がサポートする」

こんな光景が夢物語でなくなりつつある。日本は住所が分かりやすく登録されており、インターネット上の地図を検索しても正しい場所を示してくれる。お店などもネット上に評判が載っており、地図リンクもされていることから、自動運転タクシーも発展しやすいのではないであろうか。日本にいるとこれは当たり前かもしれないが、私が今いるタイではGoogleマップでさえも正確な場所を教えてくれないことが多い。

※タクシー運転者数は37万1千人(平成22年現在・一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会)

2-2-3宅配便を自動運転に?

今日本の街中で見かけることの多い商業車として宅配便のトラックも挙がるであろう。
サービスを第一に掲げた関係で、顧客の希望日時に配布するため、朝から夜まで宅配便のトラックが駆け回っている。

その宅配便が自動運転となるとどのような効果が現れるであろうか。より気軽に宅配を使うようになる(=宅配物が増加)するのではなかろうか。家から出ずに、テレビカメラを利用し現物を見て買い物をし、その購入したものが自動運転宅配便として家に届く。そんな世界が自動運転化により描くことが出来る。

2-2-4新たな商用車?

上記のテレマックス(IOT)及び自動運転になることにより新たな商用車が出現することが予測できる。

先に書いた買い物を自宅に居ながら行うもののように、今まで人が出かけて行っていた行動が自動運転車によって自宅に居ながらサービスを享受できるようになるのではないであろうか。

この形はすでに行われている分野がある(もちろん自動運転化はされていないが)。移動入浴車である。自宅のお風呂に自力で入れない高齢者のために、お風呂機能及び入浴補助機能のついた車で自宅まで出向き、入浴サービスを行うものである。

例えば学習車はどうであろうか。クルマが自宅まで来て、テレビ電話や学習に集中できる機能の備えた車内で勉強を行う。あるいは、スタジオ車。音楽が好きな人のために音響設備の整った小型スタジオ機能を搭載した車。または診察車。簡単な健康診断程度なら各家庭を自動運転車で回り、測定するような形も可能かもしれない。

いままではサービスを受けに行く、あるいはサービスを行いに人が来るなどの発想しかなかったと考えるが、今後はサービスを受けることができる「場所」が自動で来ることも自動運転化が図られることで描くことができる。

3.地方創生の課題

今まで見てきたように、今後の自動車産業は単体としての自動車産業では生き残れない可能性が高い。他業界や都市インフラと結びついた新たな自動車産業の仕組みを考えるうえで、神奈川県は最適な立地にあると考えられる。神奈川県にとって、自動車産業は将来にわたっても派生力のある有望な産業である。県・市による積極的な実検場の提供(あわせて規制緩和)と民間企業の積極的な取り組みに期待したい。

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事

大分県の地域再生―「小澤塾」塾生の提言(その3)    2016年3月18日
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