п»ї 人の心に向かい合う情報誌「ケアメディア」創刊します『ジャーナリスティックなやさしい未来』第82回 | ニュース屋台村

人の心に向かい合う情報誌「ケアメディア」創刊します
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第82回

7月 01日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆疾患者と社会の媒介

メディアは人を癒やせるのか?の問いへの答えを探す研究をしている私の実践として、7月にA4版全12ページの情報誌「ケアメディア」を創刊する。精神疾患者を支援する就労移行支援事業所や精神科系の医療機関や各支援機関を通じて当事者や関係者、家族に向けて届けつつ、最終的には社会全体に向けて精神疾患者と社会の媒介役=メディア=になるのが目標だ。季刊発行で初回は1万部。年間で5万部を発行する予定である。

「ケアメディア」のコンセプトは、研究アプローチで概念化を追求している最中ではあるが、3月に「ケアメディア推進プロジェクト」を立ち上げ、テーマ曲として「明日へ」(歌唱:奈月れい)を全国リリース。歌手の奈月さんもライブや自らのラジオ番組のほか、就労移行支援事業所でのミニライブなど、ソフトコンテンツから普及活動を始めている。

枠組みよりもコンテンツ優先で取り組んでいる様相だが、関係者の「思い」が先行している結果として、私としては、小さな輪が広がっている実感があり、温かな社会の可能性を感じている。その広がりをさらに大きくしたいという願いを込めて、情報誌が世に出ていく。

◆疾患者と社会の媒介

数年前の話。某全国紙の販売店を束ねる「某地区連合会」から「新聞社本社が経費削減で地域ニュースを伝える記者が少なくなった。これでは地元とのつながりは薄くなってくるから、自分たちでフリーペーパーを作りたい」という要望を受け、「力を貸してほしい」という依頼があった。

ニューヨークやパリ、ソウルでは、広告とともに報道が「薄く広く」掲載しているフリーペーパーが情報源になっており、そこに地域性を打ち出して都市メディアとして機能しているケースは少なくない。無料で配り、広告費で稼ぐビジネスモデルだが、編集が合理化されている分、経費はそれほどかからない。

それゆえに都市で成り立つメディアビジネス。しかし、日本では業界団体がそれを作らせない。紙面の半数以上が広告ならば、新聞ではない、という規制も障壁。その連合会の神輿(みこし)の上に乗った私だったが、要望を片手に対面にした新聞社本社の販売担当者は「これをやられたら、本体がつぶれるでしょ」と、つれなかった。

時を経て、創刊するフリーペーパーは対象と目的が精神疾患者とその周辺としていることで、マスメディアと一線を画すが、これは戦略でもある。社会の啓蒙を目指す内容だから射程としては一般の社会までを想定している。

「ケアメディア」なる新しい言葉に、「意味が分からない」と言われる方もいるが、高齢化社会の日本で介護保険制度のスタートにより「ケア」が高齢者向けに使う印象が強くなったように、「社会が言葉を作る」という社会と言葉の関係上の特性を考えれば、「ケア」が広く「関わり合い」にまでに一般で消化できるように、社会に「ケアメディア」を露出していきたいと考えている。

◆ケアなる1枚

誌面の内容は、人の心に向き合うためのヒントや精神疾患者ら当事者の発信など。コストと発行部数の関係で紙幅が限られているから、すべてを表現できないが、コンセプトとエッセンスを盛り込んで創刊号は作ったつもりである。

特集企画は、医師であり脳科学者であり、教育学部教授という立場で、学習障がいや脳のストレスなどを研究する成田奈緒子さんのインタビュー。発達障害者に半世紀以上関わり続け、知的障害者の大学を作る運動を続けてきた愛知県立大学名誉教授の田中良三さんにもお話を聞いた。「ケアメディアを探して」というタイトルで、音楽や演劇などの「生公演」のパフォーマンスからケアを考察する連載もスタート(初回は小田純平ライブ)。さらにパニック障害の当事者による映画批評はフランク・キャプラ監督の「素晴らしき哉、人生」を取り上げた。

表紙の写真は、アマチュア写真家・工藤久雄さんの作品で、秋田県大仙(だいせん)市の奥羽本線、刈和野(かりわの)-神宮寺(じんぐうじ)間の鉄橋を渡る蒸気機関車(C6120)と手を振って見送るおばあちゃんや子供たちが収められている。

青空の下、煙突から白い煙を出しながら進む機関車には、出発と疾走の元気のよさと、世代を超えて手を振る人の温かさが表現されている。編集長の私としては「ケアなる」1枚として最高の表現と自負している。是非、見ていただきたいと思う。

関連記事は以下です。
舛添都知事の「肝いり」障がい者雇用政策の向かう先
https://www.newsyataimura.com/?p=5571
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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