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繰り返されても教訓にならない銃による惨劇
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第22回

7月 08日 2016年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

フチ
 勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

◆銃規制を阻む厚い壁

米国の銃規制に絡んで前回(第21回)に引き続き、New York Times、 Opinion Pagesの記事(6月16日付)を紹介したい。記事の全訳は以下の通りである。

「アメリカには簡単に手に入る銃器がめっちゃあふれている。なのに、君は何をためらっているのだ」。(国際的テロ支援組織である)アルカイダのあるスポークスマンは2011年の志願者募集ビデオに登場してこう述べた。

この地球上において、テロリストが何十人もの人々をわずか数分の間になぎ倒す攻撃用武器を買うことが容易な場所は米国をおいてほかには少ない。(フロリダ州の)オーランドで先週(6月12日)に起きた驚愕(きょうがく)の大量虐殺は最近の一事例に過ぎない。そして、一連の惨劇は、すべて事あるごとに賢明な安全策をことごとく阻止してきた銃のロビイストのメンバーたちおよび自分の選挙地盤に対するよりも銃器製造業界に対しより忠誠を誓っているように見受けられる議員たちによって、いとも簡単に起こりやすくされてきた。このような形のテロリズムにおいて、彼らが果たしている役割への呼称がある。「共犯」という言葉だ。

この水曜日(6月15日)、民主党議員たちは銃規制立法案への投票を強制するために議事進行妨害を始めた。米議会が銃器使用のテロリストの脅威に真剣に向き合うつもりなら直ちに取り組み可能ないくつかの段階的措置が存在する。

最初に、テロリスト容疑者たちが銃を手にすることを難しくする、いわゆる「恐怖への隙間をふさぐ」ための適切な試みをサポートすることである。(昨年)12月、議会は民主党のダイアン・ファインスタインおよび共和党のピーター・キングの両議員を発起人とする法案の立法化を検討した。その法案とは、FBI(米連邦捜査局)に対し彼らがテロに関連していると見なせる根拠がある人物への銃販売阻止の権限を与えられたはずのものであった。法案はブッシュ政権時代の案に基づくもので、それに近い内容のものは多年にわたって議会通過にむけた努力がなされた。しかし、米議会(キャピトルヒル)では全米ライフル協会(NRA)およびほかの銃保有権利主張団体に恩義を感じている共和党議員によって、投票の結果否決されている。

このような展開は通常の環境においては説明不可能であろう。しかし、(過激派組織)「イスラム国」が単独テロリスト実行予備軍に対して、不特定のアメリカ市中での攻撃を公然と呼びかける事態となった今、前述の事実は正真正銘、国家安全保障上の危険を引き起こすものである。これらのテロリストたちがやることといえば銃を購入し、死のカルト組織であるISIS(イスラム国)に忠誠を誓うだけのことである。オーランドでの殺戮(さつりく)の犯人オマル・マティーンを含む少なくとも何人かのテロリストが現在あるいは過去からFBIの捜査上でマークされているのである。もし、ファインスタン氏の法案が成立していたなら、司法当局は殺人衝動をたぎらせていたテロリストたちの銃購入を少なくとも止める機会は得ていたのではないかと考えられる。

ある批評家によれば、政府の潜在テロリスト名簿があまりに多くの無関係な市民まで対象に含めているという。しかし、ファインスタイン法案が警察官に銃販売阻止の権限を与えるのはあくまで、リストに挙げられている購入者が実際にテロにかかわったことが判明しているかあるいはそう疑われている旨を示してからのことであった。もし、販売が阻止された場合、購入しようとする者はその販売差し止めを巡って連邦裁判所で争うことができる(一方、共和党のジョン・コーニン議員による競合法案は〈販売阻止を貫くためには〉、司法当局は容疑者がテロ行為を実行する恐れがあることを3日以内に証明しなければならないというもの――かなえることがほとんど不可能な条件である)。

ほかの効果的防止手段としては、家庭内暴力犯とか精神病者などのように銃所持が法的に禁じられている人たちを未然にさえぎるユニバーサル・バックグラウンド・チェック(一般的身辺調査);そしていくつかの州ですでに法制化されている弾倉容量制限が存在する。マティーン容疑者が49人もの人を殺すことができたのは主に、彼が使用したライフルは引き金を可能な限り速く引くことで30発もの弾薬を発射することができたことによるものである。世界のどこにいようと、非戦闘一般市民にそのような殺傷力を持つことが許されるべきではない。

流血事件を減らすための試みに一般大衆の賛同があるだけに、立法府の不作為がより一層腹立たしく思えるのである。圧倒的多数のアメリカ人が―それには銃の所有者とNRAのメンバーさえも含まれるのであるが―ユニバーサル・バックグラウンド・チェック(一般的身辺調査)を支持しているのと同時に、アメリカ人のまたかなり多くの人々がテロリスト容疑者への銃販売阻止と大容量弾倉の禁止を望んでいる。

ことここに至っても、NRAはテロリストたちが銃を入手すべきではないとするものの、前述のような措置を拒絶しているのである。代わりに、一般大衆が重装備することが米国市民を安全に保つ最良の方法であるとのばかげた幻想に固執している。その幻想はオーランドで破綻(はたん)している。すなわちそこでは武装した警備員が現場にいたにもかかわらず、殺戮を防げなかったのである。

米国を除く世界中のほとんどの国において、そのことにずいぶん前から気付いている。しかし、米国では銃製造業界とそれを支える取り巻きたちは、唯一の解決策がより多くの銃とより多くの銃弾が飛び交うことであると主張し続けている。銃製造業界はもう話にならない。しかし、政治家たちは彼らの選挙地盤の人たちに対し応える義務がある。不運にも新しい大量殺人が起きるたびにおびただしい数の人々がお悔やみの言葉と黙とうをささげる以外には何もしないのである。その沈黙が我々を苛(さいな)んでいる。(全訳終わり)

◆交渉が通じない究極の暴力にどう向き合うか

私は30代前半からアメリカ暮らしが長かった。しかし、その割には米国あるいは欧米全般の社会、文化について理解が浅い自分としては、フリーメイソンとか全米ライフル協会の存在は立ち入れない秘密の領域と捉えていた。特に、みんな本音ではそう思っていてもあえてそれは口に出さない決まりの類が本当に少なく、普通の常識が社会の正道として通じやすい国と思っていたアメリカにあって、かねてより全米ライフル協会は自分にとって、ちょっとあやしさも漂わせる特別の存在であった。

自分および自分の家族の安全を守るためには武器の使用をためらってはならない。それは独立した個人の権利でもあり義務である、との主張はある意味で建国以来アメリカの教義のようである。しかし、一方で銃の使用については軍隊経験など所定の訓練を経ないで所有していても逆に相手に使われ、より危険であるという職場のアメリカ人の同僚もいた。銃保有が真に自由で独立した個人としての象徴という感覚は、外国人の自分には頭で理解するにもかなり無理なことであった。

時代を経て、アルカイダ、イスラム国によるテロに向き合うことになったわけであるが、この記事に見る限り、全米ライフル協会もこれまでの銃保有に関する彼らの主張も思いがけない事態の結果、容赦ない批判にさらされることとなった。良くも悪くもアメリカのアメリカたるゆえんのかなり枢要な部分が崩壊の危機に瀕(ひん)しているとみるべきなのだろう。

それはそれとして、米国同様日本にとってもバングラデシュでの惨劇はテロがもはや他人事ではなく組織化され、交渉が通じない究極の暴力にどう向き合うのかを具体的かつ現実的に論じ準備すべきであろう。

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.nytimes.com/2016/06/16/opinion/the-nras-complicity-in-terrorism.html

※過去の関連記事
■第21回 米国の信じられない銃器流通の現実(2016年6月24日)
https://www.newsyataimura.com/?p=5631#more-5631

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