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コーポレートガバナンスを改めて考える―『ザ・粉飾』を再読して
『国際派会計士の独り言』第8回

11月 16日 2016年 経済

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国際派会計士X

オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。

先日、東京の自宅近くの本屋に平積みされていた『ザ・粉飾 暗闘オリンパス事件』(山口義正/著、2016年、講談社+α文庫)をスキャンダラスな題名にも惹(ひ)かれて購入。読み始めたら、実は以前読んだ単行本『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(山口義正/著、2012年、講談社)の文庫版でした。

オリンパスの会計不正事件の暴露に至る経緯を綴(つづ)ったこのノンフィクションは4年くらい前に読んだと記憶します。また、その前にこの本のベースとなった月刊誌Fの一連の関連記事を読んだ印象とともに、強い衝撃は受けたものの半面バブル景気崩壊の後遺症とも言えるこのような事件は二度と起きて欲しくないという思いが強く残った程度でした。

そして、その一方でコーポレートガバナンスの制度改革や会計監査の厳格化などもあり、もうこのような大規模な粉飾事件は起きにくいのではという根拠無き安心感がその時にはありました。今回は、私が思い描くコーポレートガバナンスについて改めて考えてみました。

◆有効で健全な監督・監査ができるための課題とは

著者が文庫版のあとがきでも書いている「企業経営者の暴走を防ぐための監視体制」、つまりコーポレートガバナンスの不整備が大きな課題と捉えていますが、オリンパス事件の発覚から4年の間に東芝の不適切会計事件が新たに発覚しました。東芝は先進的にコーポレートガバナンス体制を整備し、この面でも日本のリーディングカンパニーの一つと見なされていました。しかし実際には「仏作って魂入れず」的にうまく機能せず、大勢として意図しなかった形とはいえ経営者主導の暴走につながったとも言え、日本中を騒がす大きな事件に発展してしまったのではないかと思います。

この点については既に多くの機会で様々な方が指摘され、その結果、現在までに様々な施策が導入され、または検討中で今後更なる整備が進むとみられます。これにより、世界でもかなり先進的なガバナンス制度になり、経営するトップによる会計不正を含め、今後は抑止できるものと期待しています。

そこで重要な要素が、有効で健全な監督・監査ができるための会社法上の仕組みと社外取締役や監査役の質の向上という課題です。

基本的に、上場企業でいわゆる大会社は、3人以上の監査役(うち複数以上は社外監査役)を有する監査役会設置会社、社外取締役が過半数を占める監査、報酬、指名などの委員会を設置する指名委員会等設置会社の二つ、いずれかの機関設計により企業統治体制、コーポレートガバナンスを担保してきました。

しかし、更なるガバナンス体制の整備と適性のある社外取締役の複数以上起用など、実務的な環境的制約もあり会社法上の第3の機関設計として、過半数の社外取締役を含む取締役3人以上が必要な監査等委員会設置会が、内部統制制度の整備を通じた適正な情報開示なども含めた経営陣などの業務執行の監督と監査を目的として2015年に制度化されました。

また、日本政府の「日本再興戦略」をもとに、責任ある機関投資家を志向する日本版スチュワードシップ・コード(資産運用受託者としての責任ある行動)が策定されるとともに、上場企業として中長期的な企業価値の向上に向けた企業統治体制を志向するコーポレートガバナンス(CG)・コード(上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針)が15年に策定され、日本の上場企業における企業統治のルールが強化されています。

このCGコードは、企業に対して当該ルールに従うか、さもなければその理由を説明せよ(comply or explain)というものです。基本的なスタンスは企業の自主性に委ね、従わない場合は説明責任を果たせば、後はステークホールダーの判断に任せるというものです。

◆コーポレートガバナンス・コードの五つの基本原則

CGコードは、金融庁と東京証券取引所が主導して出されたもので、①株主の権利と平等性②株主以外のステークホールダーとの協議③適切な情報開示と透明性④取締役会などの責務⑤株主との対話――という五つの基本原則で構成されています。

このうち、特に③と④に財務情報開示に関する重要な施策が設けられています。主な内容は以下の通りです。

・取締役会の役割と責務を明確化し、的確な形で情報開示が行われるよう監督、内部統制やリスク管理体制を整備する

・監査役会は取締役の職務執行上の監査や外部監査人の選任や契約などの権限をより強く行使される

・取締役会の役割と責務を有効に果たすための知識・経験などをバランスよく備えるべき。また、監査役には少なくとも1名以上は財務会計の知見を持ったものを選任すべき

・外部会計監査人について、適正な選定が行われ、評価されるプロセスが設けられるとともに、監査人が必要十分な時間と必要なトップとの対話を確保する。また、監査役や内部監査との連携を向上させ、不備不正などが見つかった場合の対応を確保する

このほか、内部通報制度の確立と報告先の明確化、経営トップではなく監査役や外部取締役とすることなどは特筆されると思います。

会計監査の品質信頼性向上に向けた取り組みは更に進んでいます。まだ検討段階ですが、自律的な統治体制のために監査法人のガバナンスコードの設置が検討されているようです。また、この他にも従来から会計監査の目的を超える形での不正会計に焦点を当てた監査手続きの導入なども特筆される動きだと思います。

こうした取り組みを強化し会計不正などをなくしていくためには、外部会計監査人が取締役や監査役との対話が今まで以上になされ、監査役・内部監査・外部監査人が有効に連携することが必要だと思われます。

◆松下幸之助翁の箴言

松下幸之助翁の随想集『道をひらく』(1968年、PHP研究所)の中に「眼前の小利一人の心得違いが大変な結果を招く」というような言葉があったと思います。それが、まして企業のトップの場合には更に大変な結果を招きます。

その意味で、コーポレートガバナンスや監査人の整備・向上のみならず、長期的な視点で企業価値を高められる適切な経営トップの任命・報酬などに関しての権限が担保されることは言うまでもないと思います。

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