п»ї 中国・深圳の今と将来―再訪して考えたこと 『国際派会計士の独り言』第9回 | ニュース屋台村

中国・深圳の今と将来―再訪して考えたこと
『国際派会計士の独り言』第9回

11月 21日 2016年 経済

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国際派会計士X

オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。

最近、中国広東省深圳(しんせん)を再訪する機会がありました。現地では、幾つかの民営企業で活躍する日本語が堪能な中国人会計士の後輩の1人が、週末に深圳の今の姿を見せようと連れ出してくれました。そして、彼女が現在働いている華為技術(ファーウェイ)の内部の一部も見せてくれました。

ファーウェイは中国の通信設備・スマホ最大手の企業です。以前見た鴻海(ホンハイ)の深圳会社、フォックスコン(富士康)の企業村近くに位置します。従業員でもアクセスが限られている試験研究棟に代表される近代的なビルが何棟も続く約7万人が働く大きな企業村でした。試験研究には力を入れており、売上高の10%近くをR&D予算に向けているそうで、例えば特許出願数は4千件近くに及び、企業の出願件数としては世界一だといいます。

今回は、世界有数の製造業の集積地として知られる珠江デルタを形成する深圳を再訪し、考えたことなどを綴(つづ)りたいと思います。

◆「独身の日」の「爆買い」に驚嘆

中国では、11月11日は「光棍節」(こうこんせつ、光棍は子孫を持たない木のこと)で、数字の「1」が四つ続くことから「独身の日」と呼ばれ、ネット通販最大手のアリババグループ主導で世界最大の消費イベントが行われる日です。この日に合わせて中国のネット通販業者が一斉に割引するのです。日本でも大きく報道されましたが、アリババの営業企画の一環でほんの数年前に始まったばかりです。

景気低迷がうわさされるにもかかわらず、中国国内でも社会の大きな課題となっている独身男女層の心と財布をうまくつかんだアリババ傘下の二つの電子商取引市場、淘宝網(タオバオ)と天猫(Tmall)が今年のメイン会場となった深圳の会場で売上を集計・発表しましたが、2兆円に迫る勢いの桁外れの一日なったようです。5億人を超えるといわれる登録ユーザーを抱えるタオバオとB2C (Business to consumerの略。企業が個人消費者を対象にして行う電子商取引)サイトのTmallを通じた、中国での「爆買い」に代表される消費力のすさまじさを改めて感じました。

インターネットを通じてeコマース(電子商取引)サイトにアクセスして購入するわけですが、英BBCの報道では、その購入の4分の3がスマートフォンを通じての購入であり、またその代金支払いも登録者ユーザー数3億人以上のアリババが提供するオンライン決済サービス支付宝(アリペイ)が中心です。

このアリババの売り上げを支えるeコマースのプラットフォームのためには、最高レベルのIT環境が必要だと思われますが、やはりサーバーを含めかなりの部分にファーウェイの製品が使われているということでした。また、ファーウェイ製のスマホの最近の中国でのシェアは20%に迫るといいます。

中国民営企業の雄であるファーウェイは、携帯電話やタブレットに代表される一般消費者向け製品、通信向け無線ネットワークやルーター、サーバーなどのネットワーク製品などの企業向け製品、そしてクラウドコンピューティングやビデオ会議製品などが主力事業です。中国南部の珠江デルタに位置する深圳に1980年代後半に設立された企業で、その後急成長し、2015年の売上高は7兆円を超えました。

◆グローバル企業へ急成長する民営企業の代表格

私は香港に在住した2000年から13年まで、深圳の成長過程を身近なものとして見てきました。「世界の工場」とネーミングされるほどの珠江デルタは、低賃金の出稼ぎ労働者などを雇った日本含む海外からの委託加工中心の製造拠点でした。しかし、人件費と人民元の「ダブル高騰」などから従来の労働集約型モデルに揺らぎが生じ、東南アジアなどへの工場移転も徐々に出る中で、深圳がどう生き残っていくのか大変興味がありました。

私は深圳について、30年ほど続いた成長の中で集積してきたサプライチェーンの厚みと技術の深みなどを基盤として、民営企業を中心に新しい産業が大きく伸びているのではないかと思います。

これらの中には、ファーウェイだけでなく、やはり携帯電話製造で伸びたZTE(中興通訊)、中国を中心に登録ユーザー数が11億人を超える無料メッセンジャーアプリWeChat(微信)などを展開するテンセント(騰訊)、この他にも商用ドローン製造で世界一のDJIや電気自動車で名をはせたBYD(比亜迪)などはその代表格であろうと思います。その成功理由の一つとして、資金調達が比較的容易であるだけでなく優秀な人材や先進的な情報が豊富な香港が間近にあるという利点もあるのではと思います。

深圳の2015年の実質経済成長率は上海や北京を上回って8.9%と素晴らしいものでした。他地域からの人口流入も続いており、ニューエコノミーの台頭などもあり、不動産価格も中国国内で一番の伸びを見せており、うねりのようなダイナミズムを感じるのは自分だけではないと思います。

他地域からの人口流入が多いということで、香港や他の珠江デルタでよく耳にする広東語ではなく、普通語(プートンファ)、北京でも使われる中国の共通語が一般的に使われるということも特筆されます。また、深圳には上海と並んで証券取引所があり、その中に中国版ナスダックとも言える新興市場向け市場の創業版もありますが、これも国内外の投資と人材を呼び込む一つの大きな基盤となっていると思います。

ファーウェイは創業者が軍部出身ということが影響してか、米国など一部の先進国で政府調達などの参入に苦労しているようです。しかし、アジアの新興国、中南米やアフリカなどの発展途上国では大成功しており、深圳本社から何万人もの社員が日本含め海外に駐在員として派遣されているといいます。こうした一例からも、ファーウェイは更なるグローバル企業へ急成長する民営企業の代表の一つと言えます。

◆街中で垣間見た近未来の姿に隔世の感

深圳を再訪したある晩、街で広東料理に舌鼓を打ちましたが、そこでも驚きがありました。

テーブルについても、だれもメニューを持ってきません。まずはスマホのQRコード(ちなみにQRコードは日本のデンソーが開発した2次元コードとのこと)をかざすと、スマホにメニューが表示され、それを見ながら注文します。

支払いも、スマホ経由でのテンセントのモバイル決済機能、微信決済を利用して済ませました。食事中に聞いた限りでは、同じテーブルを囲んだ友人たちは普段はほとんど現金を持たず、キャッシュレスで生活ができているようです。この日財布に入っていた現金は、1人は100元(約1500円)、もう1人は20元(約300円)と少なく、驚きました。

これが金融とテクノロジーの融合した「フィンテック」の世界の一つなのかという思いがありました。私が中国に出張していた2000年代には外資系など一流ホテル以外は香港のHSBCのクレジットカードはほとんど使えず、止むを得ず現金や人民元をかなり持ち歩いたという記憶があり、まさに隔世の感でした。

夕食後は中国版ウーバーの配車アプリ、滴滴出行(DiDi)を使わず、泊まっていたホテルまで腹ごなしもかねて歩きました。夕涼みがてら親子連れがラフなパジャマ姿で散歩しているのは当時も今も同じで、なぜか懐かしく感じました。両親など含め家族とのひとときを大切にする中国の普通の人たちの日常の一コマなのでしょう。10数年前にはあまり無かった摩天楼の高層ビル群が立ち並び、街中では若者がセグウエイ(電動立ち乗り二輪車)を乗り回したり、宅配で急ぐ電動自転車が行き交ったりする光景は、ハリウッド映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などで見た近未来の形の一つなのかなという思いもありました。

「トランプ・ショック」が世界を駆け巡り、米国のアジアに対するこれからのスタンスが不透明な時代に突入する中、日本の企業、特に製造業にとって歴史的になじみもあり、言葉を含め日本に対してかなり親近感を感じてくれている深圳。その人材と彼らの持つダイナミズムにぜひもう一度着目して、日本経済活性化に向けた一つのソリューションになってくれればと願っています。

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