引地達也(ひきち・たつや)
コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。
◆大きな偉業
愛知県瀬戸市の陶原(とうげん)公民館で行われた1月8日の成人式で、新成人の代表の一人として記念品を受け取った池戸美優さんは「21リングモノソミー」(21番染色体環状線)という極めてまれな染色体異常があり、重度の障がいの中、生きてきた。成人式には、母の智美さんや地域の「同級生」たちが美優さんの晴れ姿を見守り、この日のために用意した赤い椿模様の晴れ着姿の美優さんとともに記念撮影におさまった。
生まれた時から命の危険にさらされながら、成人となった美優さんにとって、それは大きな偉業のように思えて、私からも美優さんに心から祝福を送りたい。すごいね、やったね、おめでとう!
「21リングモノソミー」は、一対になった2本の染色体がリング状になる染色体異常で、23対の染色体の21番目の染色体で起こるという。21番目の染色体が3本となるダウン症は染色体異常のうちで広く知られているが、ダウン症以外の染色体異常は極めてまれといわれ、約20年前の出生時には世界で100例ほどしかないといわれたという。
◆母は福祉の縁結び役
このため、美優さんは、てんかん、血小板減少症、脱臼、強度近視、心奇形、腎奇形などの合併症があり、てんかんでは何度も命が危険な状態となった。身長・体重も通常よりも小さく、聞こえるもののしゃべることができないため、表情やしぐさで意思表示をする。昨年の参議院選挙では選挙権を得た美優さんに投票をさせようと、智美さんとともに投票の練習を繰り返し、選挙当日に「清き一票」を投じた。
美優さんとともに歩んできた智美さんは、「林ともみ」として、地域でラジオパーソナリティーを務める。美優さんを出産する前は競輪番組のキャスターや中部地方の各地に出向くラジオレポーターとして活躍していたが、出産後はレポーターとして出向く先が、自然と福祉関係者に足が向き、現在は瀬戸市拠点のラジオ局ラジオサンキュー(RADIO SANQ)で、月曜日「SANQモーニング」を担当し、福祉コーナー「ともみとともに」は8年目となる。
このコーナーは「心のバリアフリーを地域に広めたい」をテーマに、福祉の視点でゲストを招いて話を聴くスタイルで、美優さんの母として、自然と備わった林さんの当事者へ寄り添う姿勢が貫かれ、地域で福祉関係者の「縁」結びの役割も果たしている。
◆林さん参加のフォーラム
林さんに美優さんの成人式の模様など語ってもらいながら、社会は「支援をこえて共生へ」向かうことを考える「ケアメディアフォーラム」が1月19日(午後1時~午後3時15分、入場無料)、名古屋駅前のLEC名古屋駅前本校で行われる。
ケアへの理解を深めながら、自分のできることを考えるネットワーク作りの一環でもあり、私がコーディネーター役を務め、林さんのほか、環境アレルギーの専門家である加藤美奈子さんに登壇してもらい、身近な支援から、つながりを必要とする大きな支援など、私たちができることを考えていきたい。その時に、美優さんの成人式の話は間違いなく、私たち支援する側にとって大きな感動を与えてくれると考えている。
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■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
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