北川祥一(きたがわ・しょういち)
北川綜合法律事務所代表弁護士。弁護士登録後、中国関連国際法務分野においてトップローファームといえる大手法律事務所(当時名称:曾我・瓜生・糸賀法律事務所)に勤務し、大企業クライアントを中心とした多くの国際企業法務案件を取り扱う。その後独立し、現事務所「北川綜合法律事務所」を開業。中国、台湾、マレーシアなどのアジア国際法務及び国内企業法務を取り扱い、最新の証拠収集方法も駆使し、紛争の解決・予防に尽力している。
引き続きデジタルフォレンジックに関連した話となりますが、今回は少し切り口を変えて、そもそもこのデジタルフォレンジックによって収集された証拠が、法的な紛争問題、訴訟においてどのような位置付けでその解決に資するものとして利用されるかという観点からのお話をしたいと思います。
みなさんは、法的な紛争(訴訟やその前段階としての紛争交渉等において)では、何が争われていると思われますか?
法廷ドラマなどの影響により、六本全書を傍らに置きつつ条文を引いて、「◯条の◯項にこう書いてあるではないですか」というように、法律の適用・あてはめや法律の解釈の主張をしているようなイメージがあるかもしれません。
しかしながら、実は、法的な紛争で争われているのは、そのような法律の適用・あてはめ、法律解釈上の争いでないことがほとんどなのです。
結論から言えば、法的な紛争においては、その多くが、事実の存否、すなわち、「ある事実があったのか、なかったのか」という点こそが大きく争われていると言えるでしょう。
分かりやすく説明するために、例えば、売買契約を考えてみましょう。
② Aというものを100万円で売ると約束した【事実の存否】
② ①の事実があった場合、法的に売り主及び買い主にどのような請求権が発生するか【法適用・解釈】
この例でも明らかなように、売買契約に関して仮に紛争が発生するとすれば、あるものを「10万円で売ると言ったのか、100万円で売ると言ったのか」、あるいは、「Aというものを売ると言ったのか、Bというものを売ると言ったのか」、という事実の存否に関する争いとなります。
売買契約について、事実の存否に争いがなければ、②の法適用・法解釈の部分で争いが発生することがないであろうことはご理解頂けると思います。
すなわち、売買契約が締結されれば、買い主には目的物引渡請求権が発生し、売り主には代金支払請求権が発生するのは明らかであり、この点について争う当事者や代理人はいないことでしょう。
デジタルフォレンジックにより収集した証拠は、特定の事実の存否の証明に資するものであり、それはすなわち、先述のとおりまさに多くの法的紛争において中心的に争われている事実の存否の立証に資するということになります。
しかも、人の証言による立証等に比べて客観性がある証拠といえ、その意味で証拠としての価値も高く、デジタルフォレンジックの重要性がご理解頂けるところだと思います。
ところで、この法的紛争で中心的に争われる事実の存否の立証方法は、技術の進歩や社会状況等により次々と新たな方法での立証が検討され、創造されていくこととなります。
まさにデジタルフォレンジックによる事実の存否の立証は、かつては存在しなかった新たな立証方法と言えるわけですが、今後も時代とともに新たな立証方法が発生してくるものと考えられます。
従って、法律家もかつての経験に基づく立証方法のみならず、常に新たな方法での立証について模索・研究していく必要があるところです。
デジタルフォレンジック、及びデジタルフォレンジックにより収集された証拠が、法的な紛争においてどのような位置付けをされるものであるかという点、現代社会において法的な紛争の解決に重要な位置を占めているという点がご理解頂けたかと思います。
※北川綜合法律事務所
https://www.kitagawa-law.com/
※『企業法務弁護士による最先端法律事情』過去の関連記事は以下の通り
第4回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その4)
https://www.newsyataimura.com/?p=5556
第3回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その3)
https://www.newsyataimura.com/?p=5173#more-5173
第2回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その2)
https://www.newsyataimura.com/?p=5063#more-5063
第1回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?
https://www.newsyataimura.com/?p=4960#more-4960
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