東洋ビジネスサービス
1977年よりタイを拠点として、日本の政府機関の後方支援に携わる。現在は民間企業への支援も展開、日本とタイの懸け橋として両国の発展に貢献することを使命としている。
今回は、「解雇補償金」をめぐるトラブルについてご紹介します。
A社でタイ人従業員を解雇することになりました。A社の人事担当者が解雇補償金を計算したところ従業員と認識が違っていたため、ご相談を頂きました。タイの労働者保護法では、解雇補償金は勤務期間によって以下のように定められています。
勤続120日未満 解雇補償金なし
勤続120日以上1年未満 最終賃金30日分
勤続1年以上3年未満 最終賃金90日分
勤続3年以上6年未満 最終賃金180日分
勤続6年以上10年未満 最終賃金240日分
勤続10年以上 最終賃金300日分
その他、会社によっては社内規程で特別補償金を設けているところもありますので、就業規則や社内通知の確認も忘れないでください。
解雇補償金の計算根拠となるのは、基本給、役職給、言語手当等の「毎月定額で支給しているもの」のみで、残業代は含まれません。交通費、食事代等は定額支給であれば計算の対象となります。
なお、解雇補償金が不要なケースも労働者保護法で定められており、就業規則に記載されているはずですので、そちらも併せてご確認ください。
◆訴訟権利放棄に関する書面も必ずもらう
解雇補償金の支払いは、法律上は解雇日から3日以内と定められていますが、通常、勤務最終日に小切手か銀行振込で処理をされることが多いようです。解雇に関する書類に従業員がサインをした上で、解雇補償金の受領書と訴訟権利放棄に関する書面にもサインをもらうようにすると安心です。
タイでは日本と比べて労働者が手厚く保護されているのですが、このような書面があれば、万が一、従業員が労働裁判所に申し立てをした際にも役立ちます。
会社が従業員の解雇を決定した際には、1給与期間前(月給制の場合1カ月前)までに、書面で解雇を告知をする必要があります。試用期間でも同様の扱いとなります。例えば毎月25日が給与支給日の場合、当月の25日かそれ以前に、翌月25日をもって解雇をする旨を告知しなければなりません。
もし、解雇の告知が解雇日まで1給与期間未満の場合または即時解雇の場合は、給与1カ月分を解雇補償金に上乗せすることになります。また有給休暇残余日数については買い取らなければいけないため、そちらも日割りで計算をしてください。有休消化で最終日まで出社しない場合は、その旨を書面で残しておくことをお勧め致します。
◆定年退職は「会社都合の解雇」
試用期間に関しては、法律で試用期間が定められているわけではなく、前述の通り、勤続120日以上の被雇用者は解雇補償金の対象となることから、通常、雇用主が採用日から119日までを「プロベーション」と呼ばれる試用期間としています。
試用期間と言っても雇用をしていることには変わりはありません。先に述べた通り、解雇の際には1給与期間前の事前告知が必要となります。また本人の能力が雇用主の期待に添えない場合に解雇ができるように、あらかじめ雇用契約書にその旨を記載する会社もあります。
最後になりますが、タイでは定年退職は「会社都合の解雇」となりますので、定年退職する従業員にも同じ計算方法で解雇補償金が発生しますのでお気をつけ下さい(※注1)。
(※注1) 本稿執筆時点。2017年9月に発効した改正労働者保護法により新たに、これまで定年退職年齢を社則で規定していなかった場合は、満60歳を定年とし、定年時の解雇補償金の支払いが義務付けられることになりました。これに違反した企業には6カ月未満の禁固刑または10 万バーツ未満の罰金が科されます。
この定年退職に関する法律はタイで働く日本人にも適用されるのでしょうか?
タイで働く日本人に適用されるかどうかとのご質問ですが、契約の相手と契約書の内容によって適用される場合とそうでない場合があります。弁護士による契約書と会社規則の内容確認をおすすめします。(東洋ビジネスサービス)
今からでも、定年退職年齢を55歳等60歳未満で、社則化することは可能でしょうか?
また将来、定年退職者の内、会社の希望する人材だけを日本での嘱託のような
雇用形態で再雇用することは出来ますか? その際の給与を従前の60%とするような規定化は問題ありませんか?
今からでも就業規則において定年退職年齢を55歳に設定することは可能です。
また、退職金を支払っていれば、会社の希望する人材のみについて再雇用することが可能です。
ただし、ポジションおよび業務内容などが従前のとおりであれば、
会社が支給する賃金・福利厚生・他の手当などを変えることは困難です。
(労働関係法 第20条に違反)
したがって、支給する賃金・福利厚生・他の手当などを下げる場合には、
契約書の中で今後の業務内容・ポジション・役割などがどのように異なるかを明記し、
労働者本人に承諾してもらうことが重要です。