引地達也(ひきち・たつや)
コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆昭和の路地裏
顔のペイントをトレードマークに「極悪ヒール」として、プロレス界で活躍したミスター・ポーゴ氏(本名・関川哲夫さん)が亡くなった。「活躍」とは言ってみたが、メジャーではなくマイナーな舞台を渡り歩き、「爆破マッチ」などデスマッチの帝王と呼ばれ、コアなプロレスファンにはなじみがある存在でも、一般的に知られてはいない。
ここで、ミスター・ポーゴ氏のことを書くのは、彼が与えた文化的なインパクトゆえである。全身でパフォーマンスを展開し、何かを表現するレスラーは、そのたたずまいや周辺にまとわりつく空気感は、文化というコンテクストなのだと認識しているが、私にとってミスター・ポーゴ氏は何かを語れる、そして語っていた存在だった。
それは、私とかつて交遊のあった日韓の頭突き王、故大木金太郎さんが背負っていた韓国人の宿命のような重さではなく、出身の群馬県伊勢崎市にあったであろう昭和の路地裏を思い起こさせてくれそうな、日本固有の土着な親しみをも帯びていたように思う。
◆悪玉だが良い人
しかしその路地裏には、憧れの米国にもつながっていたし、口裂け女のようなオカルト的な都市伝説にもつながっていた。ミスター・ポーゴ氏はそんな存在だ。前述した大木金太郎さんのつながりで、私は韓国プロレスの地方巡業でレスラーとともに韓国の地方都市をバスで旅をしたことがある。そこではリング上の善玉も悪玉も一緒に楽しみながらの時間があった。そこで分かったこと、そして教えられたことは、リングで凶器を振り回す「悪玉」レスラーは良い人が多い、ということ。そしてミスター・ポーゴ氏もそうであったと聞く。
父親は群馬県議を6期務め議長にまでになった出自も以外で、中央大法学部進学の同期はジャンボ鶴田というのも面白い。中退し大相撲の大鵬部屋に入門し、序ノ口で優勝。1972年に廃業し新日本プロレス入りし、翌年には米国で活動を展開、その際には日本でも活躍するザ・ファンクスやハリー・レイスらとの対戦を繰り広げたという。しかし日本では大仁田厚との電流爆破マッチでの対決などが印象的であり、鎌を手に「凶暴な」スタイルを貫いた。
何度も見ることになったビデオがある。それはミスター・ポーゴ氏が91年の結成に参加したプロレス団体、W★INGの旗揚げ戦の模様だった。当時、60分ビデオに格闘技のニュースを15分ずつ収録した内容の「ビデオマガジン」があり、そのうちの一つに私が所属していた格闘技ジムの先輩が後楽園ホールで戦った模様とセコンドでサポートする私が映っていた。その一瞬のために購入し、繰り返す見ることになったビデオでは、別のニュースの中でミスター・ポーゴ氏が暴れまわる姿が印象的だったのである。
リング上では飛び回る技を持たないから、凶器攻撃や反則技のほかは、ぶつかったり、エルボーを落としたりという単純な技の展開でしかないのだが、控室で外国人レスラーとだみ声の英語でやり合う姿に、北関東の土着感を備えたままの、世界観が展開されていた。その世界観に引き込まれている自分を当時も不思議がってみたが、今、わかるのは、そのミスター・ポーゴ氏のコミュニケーションに「外国人と全身でやり合う」という日本人が頑張ってきた姿への懐かしさを感じ取ったのかもしれない。
◆バブル終わってもそのまま
ちょうどバブルが終わりそうな頃だった。ぜいたくな消費活動に「それはダメなんだろうな」のような虚ろな気分が芽生え、時代は変わっていった。私個人の感慨では、過激なデスマッチは、その「だめ」なことに列席していて、ミスター・ポーゴ氏はそこに居続けたように思う。ダンプ松本もブル中野も普通の女性に戻っても、ミスター・ポーゴ氏はそのままだった。2003年に群馬県伊勢崎市議選に出馬したのは、そこからやっと抜け出そうとしたのかもしれないが、最下位で落選してしまったのは、やはり彼らしいとも思った。
そんなミスター・ポーゴ氏はやはり私にとって名レスラーだ。その時代を全身で表現した功績は大きく、これからも彼の名は私の記憶に刻まれ続ける。きっと、人には言えないけど、そんな気持ちでいる人は、少なからず、いるのだと思う。合掌。
精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
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