水野誠一(みずの・せいいち)
株式会社IMA代表取締役。ソシアルプロデューサー。慶応義塾大学経済学部卒業。西武百貨店社長、慶応義塾大学総合政策学部特別招聘教授を経て1995年参議院議員、同年、(株)インスティテュート・オブ・マーケティング・アーキテクチュア(略称:IMA)設立、代表取締役就任。ほかにバルス、オリコン、エクスコムグローバル、UNIなどの社外取締役を務める。また、日本デザイン機構会長、一般社団法人日本文化デザインフォーラム理事長としての活動を通し日本のデザイン界への啓蒙を進める一方で一般社団法人Think the Earth理事長として広義の環境問題と取り組んでいる。『否常識のススメ』(ライフデザインブックス)など著書多数。
過去4回にわたってトランプ米大統領は非常識なのか?否常識なのか?について考察してきたが、就任から半年経った今、新たに火を吹いた「ロシアゲート」疑惑にもかかわらず、依然低位ながら40%前後の支持率が保たれているのはなぜなのだろうか?
これはひとえに、米国の繁栄の陰に取り残されていた白人層の支持が依然続いているからに他ならない。
昨年の米大統領選の期間中に、「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域出身の作家J.D.バンスの作品『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(日本語訳は2017年、光文社)が全米で話題になった。
彼は、まさにそのプアホワイト層の出身で、母も薬物依存患者でありながら、祖母の助けで、エール大学ロースクールで学び、シリコンバレーで投資会社を営むことができた。そして今は、オハイオ州で、薬物依存に苦しむ家庭支援の非営利団体を運営している。そういう経歴だけに説得力がある。
ここで重要なのは、白人といっても、WASP(ホワイト、アングロサクソン、プロテスタント)ではなく、アパラチア山脈一帯で労働者として働くプアホワイトたちを、今まで民主党も共和党も認識しきれていなかったという事実だ。つまり二大政党は、数十年にわたってこの労働者たちの期待に応えられなかったのだ。
*参考URL:(インタビュー)取り残された白人たち 作家、J.D.バンスさん
http://www.asahi.com/articles/DA3S12973928.html
ラストベルトのシンボリックな場所に、かつて自動車産業の中心地だったデトロイトがある。1980年代には、その凄惨(せいさん)さが極まっていたというが、現在では、それまでの自動車産業に頼らない新規事業によって、一部の領域で再び活況を取り戻しつつあるという。しかしそれは、これらのプアホワイトの人々とは無関係な世界だ。
だから、トランプのいうように、自動車関連工場の国外流出を抑えたくらいでは、この大きな経済問題は解決されない。しかしながら、トランプを信じて、再びアメリカンドリームの復活を待っている人々が依然少なくないことも事実なのだ。
だが、そこには大きな矛盾があると思っている方も少なくないだろう。
例えば、エスタブリッシュメントを批判して支持されてきたトランプだが、彼自身も、そのカラクリを利用して大金持ちになったという矛盾。あるいは、このシステムの頂点にいたゴールドマン・サックスの幹部の多くが、政府内の要職に就いているという矛盾。社会保障を求めているプアホワイトたちが、小さな政府を志向する共和党になぜ投票したのか?などだろう。
しかし、これらに対して、トランプは一応の答えを出している。たとえば、これらのインチキを使って富を築いてきた自分だからこそ、それを立て直せる。それを熟知している金融マンだからこそ、それを打ち壊せる。民主党がやってきた社会保障システムは、カリフォルニアや、首都ワシントン、ニューヨークなど大都市の労働者のためであり、トランプが目を向けるプアホワイトとは異なる人種への政策だ、云々。米国社会の1%対99%の分断に目を向けたという至極当たり前な政策なのだ。この格差是正が実現されるのか?否か?で、トランプが否常識な大統領たり得たのかの答えが見えてくる。
「ロシアゲート」がどうのという前に、米国民の99%の暮らしと夢の実現という身近な問題解決に答えがあるのだ。
だからトランプには、農民や国民、さらに食文化を守るために、オバマ時代に急速に進んだ農業政策、つまりTPP(環太平洋経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)で、モンサントなどの「多国籍アグロバイオ企業」が、種子や農薬の世界市場を牛耳ることを絶対に許さないでほしい。
そこで今回は、「多国籍アグロバイオメジャー」の企みによる「農業と食」の危機を、拙著『愚者の箱』(あの出版、2014年刊)から、加筆引用してみよう。
◆わずか10年間で化学会社が種苗会社を飲み込んだ理由
まず、この驚くべき表を見て欲しい。
1997年当時、世界の種子会社の売り上げランキングには、いわゆる遺伝子組換え作物の種子を販売する、モンサント、デュポン、シンジェンタといった企業名は皆無だった。
*1997年2位のノバルティス社は、元チバガイギーという製薬会社だったが、農業部門で種苗を販売していた。
だがたった10年の間に、遺伝子組み換え技術を持つ化学会社が上位を占めるようになっている。これらの企業は97年当時上位にあった種苗会社を買収や吸収して、「多国籍アグロバイオ企業」として一気に種子の世界へ進出してきたのだ。
モンサントもシンジェンタもデュポンも、もともと種苗会社ではない。化学薬品、農薬等を製造し、販売する巨大企業だ。そんな大きな化学会社が何故急に種苗会社を買収し始めのだろうか。それは当然のことながら、自社製品の農薬、除草剤などの化学薬品の販売量を増やすためだ。
遺伝子組換え作物が増えれば、それとセットとなる農薬、除草剤、化学薬品、医薬品の消費量が増える。逆に強力な除草剤が売れても、それに耐性を持つ遺伝子組み替え作物の種子が売れることは必至だ。
その結果、モンサントによって、世界中に「ラウンドアップ」という強力な除草剤とそれに耐性を持つ「ラウンドアップ・レディ」という遺伝子組み換え種子がばらまかれた。このセット販売の機能を果たしたのが、種苗会社を飲み込んだ巨大な化学会社・モンサント自身だった。
それにしても、これだけの急速な買収が行われたのは脅威だ。
しかも、買収されたのは先進国の種苗業者だけではない。例えばインドでは、ある時期、ほとんどの種苗業者が同じように買収され、綿花の大半がラウンドアップ・レディになってしまったという。
Our World 2.0の記事ではこのようにいっている。引用をしてみよう。
(以下引用)
モンサントは2002年にインドに進出した。遺伝子操作された種子を使えば綿の収穫高が、当時生産者たちが収穫していた1エーカー当たり4キンタル(約180キログラム)から、5倍の20キンタル(約900キログラム)にまで増えるとうたっていた。モンサントは自社の種は値段こそ高いが、その分の利益は賄えると誇大宣伝していたわけだ。
だが残念ながら、モンサントのラウンドアップ・レディ綿は宣伝されていた1エーカーあたり20キンタルには全く及ばなかった。実際の平均収穫高は1エーカー当たり、1.2キンタル(約63キログラム)でしかなかった。収穫が終わるまでに4キンタルを超えたところはインドのどこにもみあたらなかった。しかも、モンサントの綿から生産された繊維は質が低いこともわかった。通常なら1キンタルにつき86ドルだったものが、1キンタルあたり36ドルでしか売れなくなってしまったのだ。インドの数千、数万もの農家がこのような事態に陥った。多くは借金に苦しみながら、異なる種類の遺伝子組み換え綿を植え、いつかは十分な収穫が得られこの悪循環から抜け出せるものと信じていたが、それは蟻地獄だった。悲しいことに多くの農民は現実を抜け出す別の道を選んだ。
2002年以降、インドの農民たちは、モンサントの罠にはまり、平均で30分に1人の割合で 自殺しているという。またインド最大のコットンベルトであるビダルバの農民たちは、2006年一年間で1044人が自殺したという。それは8時間に1人の割合だった。その多くは「ラウンドアップ」を飲んで命を終えたという。(以上引用)
http://ourworld.unu.edu/jp/monsanto%E2%80%99s-cotton-strategy-wears-thin/
なんとひどいことだろう。
◆「モンサントの不自然な食べもの」
ところで、最近話題になった『モンサントの不自然な食べもの』という映画をご存じだろうか?
もともとフランスのテレビ局のために制作された作品で、かつてNHKでも放映された「巨大企業モンサントの世界戦略」というフィルムを劇場用に編集したものだ。
http://www.uplink.co.jp/monsanto/
この中に出てくるモンサントの世界戦略を見ていると、かつてキッシンジャーが使った言葉「兵器としての食料」の真の意味が分かってくる。同時にまた、この武力を使わないが恐ろしい世界侵略が、キッシンジャーの知恵によってもたらされたものだということも理解できる。
世界を支配するには、武力だけでは不十分ということなのだ。
http://blog.goo.ne.jp/yamanooyaji0220/e/052458c4568fb3d7ea1ac73f7a7bb3b4
あるいは、 9・11以降、1兆ドルの資金と、150万人の兵士、4500人の戦死者、3万2千人の戦傷者を出し、あまりにも多くのものを失い、さらに終わってみれば「大量破壊兵器」というでっち上げまでばれてしまった「イラク戦争」というイベントのコストパフォーマンスの悪さと、主役を演じたブッシュジュニアの頭の悪さに、いささか呆れてしまったのかもしれない。
だから次にスポットライトをあてたのが、「兵器としての食料」なのだろうか。
◆すでに蝕まれている日本の農業
*日本の意外な真実
TPPは米国の脱落で反故になりそうだが、代わりに日米FTAができる。そこで心配されることのひとつに、遺伝子組み換え種子が無制限に日本に導入されるのではないかという問題がある。NAFTA(北米自由貿易協定)で、メキシコやカナダで起きたのと同じ問題だ。だが、それを論じる前に、知っておかねばならないデータがある。
それは、世界の農薬使用量のデータだ。我々日本人は、農薬といえば、中国での使用量が多いに決まっていると思い込んではいないか?
かくいう僕もそのひとりだった。
木村秋則『百姓が地球を救う』(東邦出版、2012年)より
数字は1ヘクタールでの使用量だが、他国と比べて日本の使用量はこうも多いのだ。
肝心のアメリカなどと比べても多すぎはしないか。
もっとも中国では農薬の使用量は少なくても、日本の数百〜数千倍もの重金属による土壌汚染問題があることを忘れてはならない。
話がいささかそれるが、「週刊文春」2013(平成25)年2月14日号に掲載された「中国「猛毒米」年間5万トンが日本人を破壊する」という記事がある。
「汚染された農地で作られた農作物が日本の食卓に上がっているというのだ。
東日本大震災後から、本格的に輸入されるようになった「中国産米」については、典型的な地域では『日本の数千倍の土壌汚染』だという。
日本の土壌汚染の基準値である『土地汚染対策法の基準値』は2002年に公布されたものだが、この数字と長江河口の検査数値を比較すると、水銀は244倍、鉛は3500倍、ヒ素は1495倍、カドミウムでは4・2倍と日本の基準とは比較にならないほど高いと指摘している。
2008年以降、中国では環境汚染による重大事故が100件以上起き、このうちヒ素やカドミウム、鉛などの重金属によるものが30件以上。2009年に起きた湖南省瀏陽市のカドミウム汚染事件では、2人が死亡、500人あまりがカドミウム中毒になったという」
だから決して中国の作物が安心というわけではない。
日本の農薬使用量が多い理由としては、温暖多湿な気候で、病気や害虫の発生が多いということもあるが、それだけとは思えない。
つまり、農協の供給システムによって、安易に農薬や除草剤が与えられた結果、その楽さに中毒症状になってしまったのではないか。農薬が次第に害虫や雑草に効かなくなると、その使用量を増やすという、麻薬と同じような悪循環に陥っているのだろう。その仕掛け人が誰だかは知らないが、あまりにも情けない事実だ。
前掲のグラフは、木村秋則の『百姓が地球を救う』という本から転載したものだ。彼は完全無農薬・無化学肥料でリンゴの栽培に成功するなど、有機農業に取り組んでいる人だ。
彼はその不思議な実態に触れている。
(以下引用)
「日本の農作物は、本当に危険な状態になっています。
(中略)
各種データを見てみると、日本は単位面積あたりで世界第1位の農薬使用国です。知らされていないだけで、本当は世界で最も危険なおコメや野菜、果物を食べている国民かもしれません。
第2位の韓国は近年、国を挙げて減農薬に取り組んでいます。かつて2005年前後は日本と同じくらい農薬を使用していましたが、ここ5年で約30%の削減を達成しています。
中国は数年前まで『どれだけ農薬を使っているかわからないから、怖くて食べられない』といわれてきましたが、実際は日本の約20分の1という少なさです。
20年ほど前、1990年の資料によれば、チューリップの生産で有名なオランダが世界一の農薬使用国でした。しかし各国から、「農薬の量が多いので、おたくの花は買わないよ」と批判され、国を挙げて使用量の削減に着手しました。そして、80%近くの削減を成し遂げ、いまは第3位になっています。
ほかの西欧諸国も、軒並み30%以上の削減をここ数年で達成しており、先進国のなかで上昇傾向を見せているのは日本だけという現状です。
日本は農薬のほか、おコメを生産する際に使われる除草剤の使用量も、調べてみると圧倒的に世界一でした。
農薬がこれほどまでに使われてきた背景のひとつとして、日本は気候が温暖で雨が多いために病気や害虫の発生が多いという、やむを得ない事情があります。
農薬は害虫をいちいち手で駆除する手間をなくし、除草剤は草取りという重労働から農家の人たちを解放してくれました。ただ、農家はその恩恵にどっぷり浸かってしまい、もはや農薬や除草剤なくしては生産できないと思うまでになってしまったのです。
病気の発生を抑えるために畑の土は消毒されます。そのときに使う農薬は、防毒マスクをしなくてはならないくらい刺激が強いのです。
そして、多くの田んぼからカエルやドジョウがいなく、畑は収穫したい農作物だけが整然と並ぶ場所になりました。こうしてできたおコメや野菜、果物を日本人は毎日食べているのです」(以上引用)
つまり、世界で依然として農薬使用量を増やし続けている国は、先進国では日本だけなのだ。
◆つけ込まれる日本の農薬依存体質
日本の農業の問題体質につけ込まれつつあるのが、農薬をあまり使わなくても栽培できるというふれ込みの、除草剤耐性や殺虫性、耐病性などの「遺伝子組み換え米」なのではないか。
ここにTPP、いや FTAが登場する。
農薬や除草剤の使用量を減らそうという大義名分を掲げて、今まで以上に遺伝子組み換え種子とより強力な除草剤、農薬をセットで売るのではないだろうか。
まさにこれは、手を変え、品を変えた悪魔の誘惑だ。
TPPやFTA以前に、日本農業の体質は、つけ込まれやすい弱点が満載なのである。
今、開発されているコメは、除草剤耐性、殺虫性、耐病性のものだけでなく、健康によい(と称する)もの(低アレルギン・コレステロール抑制)、栄養価の高いもの(鉄分増量・トリプトファン高蓄積・リジン高蓄積)、酒用(低グルテリンのコシヒカリより栽培が簡単で、しかも表面を削らなくてもいいので安価な酒ができる)などの消費者にとって付加価値の高い(と称する)ものもあるという。
だが、こういう高い機能を遺伝子に組み込めば組み込むほど、人体にとって、未知なる危険性が増すことも事実なのだ。また種子自体に思わぬ弱点が出てきたり、さらに強い耐性を持った雑草や病原菌が出てきたりして、結局はもっと強い農薬と、それに耐性を持つ、新種の遺伝子組み換え米をつくらねばならなくなるという、止めどもない悪循環が始まる。
日本の農業は、こうした悪循環に慣れてしまっているのかもしれない。米国でも承認されなかった「枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えトウモロコシ」を受け入れてしまった背景には、そうした問題体質があるのだろう。
しかし、米は日本の主食であると同時に文化そのものなのだ。
TPP以前にそれを守ろうという気概が日本の農業にあるのだろうか?
それがなければひとたまりもなく日本の米生産はねじ伏せられるだろう。
実は、TPPを待つまでもなく、日本ではすでに遺伝子組み換え米が作付けされている。モンサントも愛知県農業総合研究所と共同研究で開発した、除草剤耐性のラウンドアップ・レディ米「祭り晴」を開発、出荷しているようだ。
だが、その資料を読む限り、素性は分かり難くなっている。
そこには、
「『祭り晴』は1984年に愛知県農業総合試験場において『愛知56号A』(後の『月の光』)を母、『ミネアサヒ』を父として人工交配を行った後代から育成されました。 1990年に『愛知92号』の系統名を付名され、1994年に『祭り晴』と命名されました。 神奈川県においては1992年から1994年および1996年から1999年に奨励品種決定調査を実施し、特性及び生産力を検討したところ有望と認められました」
としか書かれていない。
「遺伝子組み換え」という言葉は使わず、「人工交配」という曖昧な言葉を使っているが、これは除草剤耐性を遺伝子に組み込まれた米であるはずだ。除草剤の成分を分解する性質を発現させる遺伝子を、米の遺伝子に挿入することによって、除草剤に強い米をつくるのだが、人体に何の影響もないとは誰もいい切れない。
◆米国での「モンサント訴訟」ラッシュ
米(コメ)は自家受粉だが、花粉は数キロも飛ぶ可能性がある。非遺伝子組み換えの米が、この飛散した遺伝子組み換え種の花粉によって、汚染される危険性も指摘されている。
そのとき怖いのが、米国の大豆農家で頻発した「特許訴訟」トラブルだ。
これは、飛散した花粉によって自然交配されてしまった農家に調査員が乗り込み、自然交配した種子について、モンサントが持つ特許を侵害したと法廷に持ち込む事件が多発したという事実だ。
百数十件の訴訟が起こされたというが、巨大企業・モンサントの経済力に勝てる農家は皆無で、せいぜい示談に持ち込むのが精いっぱいだったという。
そんな中で、ニューヨーク・タイムズが取り上げた裁判記事がある。全米が注目しているそれは、米連邦最高裁で2013年4月に判決が出る遺伝子組み換え種子の裁判だ。
フェイスブックで遺伝子組み換え食品問題に取り組む岡本よりたかの記事によると、ことの起こりはこうだった。(以下引用)
「米国インディアナ州の農家・ヴァーノン・ボウマンが、地元の穀物倉庫(穀物種子業者)から購入した大豆の種子に遺伝子組み換え大豆が混入していたことで、モンサントから訴訟を起こされたというのだ。彼は一般種を注文して購入したにもかかわらず、その地域の90%で遺伝子組み換え大豆が栽培されていたために起きた悲劇であり、そのような土地で非遺伝子組換え大豆栽培を貫く彼のような農家への嫌がらせとしか思えない。彼は、連邦地裁で敗訴し、最高裁へ上訴しているのだが、争点は、大豆のように簡単に自己複製する作物に対して、農業サイクルのどこまで、企業が特許権を主張できるかという点だという。次々と子孫を作り続ける種子の特許を永遠に認めてしまえば、世界中で栽培されるすべての大豆、コーン、菜種等が、モンサントのような多国籍アグリバイオ企業の特許により、所有権を奪われる事になるからだ」(以上引用)
http://goo.gl/oCDfq
モンサントは同様の訴訟を、NAFTA締結後のメキシコでも行っている。こちらが自分勝手に交配させたものではなく、むしろ迷惑だと感じている被告が損害賠償を払わされるという不条理がまかり通っているわけだ。
こうした現状がさらに進めば、海外に進出した企業が不当な扱いを受けた場合に相手国を訴える「ISDS条項」にも関わってくる。つまりモンサントから、在来種の管理ができていないという理由で日本国が訴訟をされるということにもなりかねないのである。
米国では遺伝子組み換え作物をさらに推進する前提として、2012年に「食品安全近代化法」を成立させ、そして2013年には、通称「モンサント保護法」と呼ばれる「農業・地方開発・FDA及び政府関連機関歳出法」を通した。これらは、どちらもモンサントを応援する目的の法律だといわれるものだ。
「食品安全近代化法」は、近代的な安全基準を食品に持ち込むという美名の下に議会を通った法律だ。しかし「グローバルリサーチ」という団体のHPによれば、その真の狙いは、農家が自ら採種した在来種の種子を保存したり、播種することを禁じたりするというとんでもない内容を含んでいるという。前にも触れた、遺伝子組み換え種を拒み、先祖代々伝わる在来種を育て続けている農家を完全に撲滅させる目的だと指摘されている。
FDAにとって「食の安全」とは、農薬や除草剤に強い遺伝子組み換え種からつくった「薬品まみれ」の食品を指し示すらしい。なんとも恐ろしいことだ。
http://www.globalresearch.ca/the-food-safety-modernization-act-the-us-government-s-assault-on-food-freedom/22073
通称「モンサント保護法」の方は、正式には、「農業・地方開発・FDA・関連政府機関歳出法」という何とも長く意味不明な名称の法律だが、米国の「ナチュラルニュース」というウェブサイトで読む限りでは、安全審査を経ていない遺伝子組み替え作物の耕作が可能になるものだという。それ故に「モンサント保護法」と揶揄(やゆ)されているらしい.
http://www.naturalnews.com/036477_Monsanto_immunity_GM_crops.html
これについて思い当たる節がある。それは、2012年12月5日に日本で認可が下りたモンサントの遺伝子組み換えトウモロコシがあったという一件だ。先ほども少し触れたが、なんとこれが米国では許可が下りなかった代物だという。
ことの起こりはこうだ。
今まで主流だったモンサントの除草剤・ラウンドアップに耐性を持つ雑草が出現してきたため、彼らは次世代の除草剤を開発せざるを得なくなった。そこで開発したのが、なんとベトナム戦争で使われた枯れ葉剤(オレンジ剤)=劇薬の2・4Dと同じ成分を持つ除草剤だった。そして次に必要となったのが、このオレンジ剤に耐性を持つ新たな遺伝子組み換えのトウモロコシというわけだ。
さすがに、この2・4D耐性の遺伝子組み換えトウモロコシの承認に対して、アメリカでは市民の猛反対が起こり、36万5000人の反対・パブリックコメントが提出され、承認されなかったというのだ。
それを簡単に認可してしまった日本政府は問題だ。だが、このようなものを米国内でも許可なし栽培できるようにするのが、この法律なのではないかと思っている。
◆国家の主権をも脅かすモンサントという存在
今、中南米では、ブラジル、アルゼンチン、コスタリカなどほとんどの国でモンサントとの紛争や、裁判が起きている。その中でもパラグアイでの出来事は、まさに「モンサントのクーデタ」と呼んでいい。国家の主権をも脅かす悪質さだ。フェイスブックの友人、印鑰智哉(いんやく・ともや)のこんな記事がある。
(以下引用)
「パラグアイで貧農の立場にたつ大統領として初めて選ばれたルゴ大統領を追い出した『モンサントのクーデタ』のきっかけとなった事件、掘り起こせば限りなく謀略であった可能性が高くなる。
土地をめぐる紛争で警官と小農民の相互の発砲で双方から死者が出たとしてルゴ大統領が非難され、事件発生から短時間の間に真相究明もないまま弾劾されてしまった。
しかし、農民が持っていた武器では警官の装甲は貫けない。警官は別の高度な武器を持った集団に狙撃されたと直後からいわれていたが、この記事ではヘリコプターからの銃撃で殺害されたという。警官も農民もこのクーデタを作り出すための犠牲者だったということになる。
この件の貴重な生き証人である小農民のリーダーが2012年12月1日に殺害された。
このクーデタの後のパラグアイの変わりようは露骨だ。
ルゴ大統領が止めていた遺伝子組み換えトウモロコシ、木綿などが相次いで承認され、以前は農薬の空中散布の時には周辺住民が避難できるように警告することが義務づけられていたのにその義務が撤廃される。
それはまったく、パラグアイという国家の中に、モンサントによるパラレル国家が作られたようなものだとこの記事は分析する」(以上引用)
http://www.diagonalperiodico.net/global/asesinan-lider-indigena-paraguay.html
このパラグアイの事件は、南米諸国の中でも最もひどい一例だろう。
このように南米では、モンサントと農民との死闘が繰り広げられている。
1996年以来、遺伝子組み換え大豆の耕作はアルゼンチンに多大な被害を与えてきた。昨年12月、遺伝子組み換え作物の包括的な禁止を求める集団訴訟が起こされた。
彼らは、議会に補償と生態系を守るための法制定を求めている。
それに加えて、コスタリカも頑張っている。
コスタリカは、原発もなく、自然エネルギーへの依存度が高く、軍備を持たない小国だが、そのコスタリカをもモンサントは侵略しようとした。
だが、コスタリカの遺伝子組み換え種との闘いは前進したという。
すでに36の自治体が遺伝子組み換えフリーゾーンを宣言。モンサントの遺伝子組み換えトウモロコシによる遺伝子汚染の危機に対して、多くの自治体が遺伝子組み換え拒否宣言の声をあげているという。
http://ow.ly/hRVMQ
◆人類の「浅知恵」は続かない
日本の農業はどうか。農薬への安易な依存などを見る限り、決して褒められたものではない。だがその一方で、遺伝子組み換えなどには目もくれず、有機農法によって、高度な食の安全を追求している木村秋則や石井吉彦(ナチュラルシードネットワーク代表)のような人がいることも事実だ。
だから、TPPについて農業的な立場から反対すると、こんなことを言われるときがある。「いくら遺伝子組み換え作物が入ってきたとしても、チャンとした安全な食品を買って食べればいいじゃないの」という反論だ。
たしかに、それができれば、食文化は守られるだろう。だが、特許裁判の事例で見てきたように、非関税障壁撤廃という中には、それすらできなくなる可能性が潜んでいることを心配しているのだ。国内法では到底判断できない問題なのだ。
すると、さらにいわれるのが「『遺伝子組み換え作物』で農業の生産性を上げなくては、日本の農業自体が持たないだろう。関税がなくなって安価な食料が輸入されて来たときの、効率よい農業実現のためには、旧態然とした日本の農政をぶち壊す必要があるのではないか」という意見だ。
これは一見正論にように聞こえるかも知れない。
だが問題なのは、このような最先端のバイオテクノロジーさえも、大自然の前では結局無力だということだ。
細菌を抗生物質で叩けば、必ずそれに耐性を持つ細菌が出現してくる。除草剤を撒(ま)けば、必ずそれに耐性を持つ雑草が出てくる。大自然の前では最先端の技術といえども、弄(もてあそ)ばれてしまうことになるのだ。
こんな事実も明らかになってきた。
ウィスコンシン大学教授のトム・フィルボットの研究によって、モンサントのラウンドアップ・レディの種子類を含む数種類の遺伝子組み換え種子は、従来の種子より収穫量が低いと発表されたのだ。
遺伝子の複合的な組み合わせをすると産出高が減少していくため、生産者の採算が合わなくなるという。要するに、人が植物遺伝子に干渉するほど、産出高はより低くなるという研究結果が発表されたのだ。これは、前出のインドの綿花栽培でも証明できることだ。
http://grist.org/article/gmo-fail-monsanto-foiled-by-feds-supreme-court-and-science/
近代科学の最先端と思われていた「原発」に汚染された日本の農業や漁業を考えてみて欲しい。その上に、また怪しげな遺伝子組み換え作物や、ますます強力な農薬や除草剤を使わざるを得なくなり、土壌が汚染されたら、質という意味での日本の食料のアイデンティティと文化は完全に失われることになる。
幸か不幸か日本の少子高齢化は止められるとは思えない。だからこそ、農業でも量よりも質の農業を取り戻さなければならないのではないか。
たしかに、いまだに増え続ける発展途上国の人口爆発問題も重要だ。しかし、そのために食糧問題を解く答えと、食文化先進国の日本の食品を考えるのはまったく別の問題なのだ。
明らかに、モンサントのような多国籍アグロバイオ企業の真の狙いは、日本のような農業自体の生産量の高が知れている国にはなく、アフリカやインド、中国などの大きな国土の食糧供給にあるはずだ。事実、そこでもすでに巨額の支援金を背景に、巨大なビジネスが実現している。
だが皮肉なことに、こういう地域でも彼らの狙い通りにいくとは限らない。
アフリカでは、国連お墨付の「緑の革命」として、遺伝子組み換え作物と農薬、それと大量の水を供給するための井戸掘りをセットに進出した。しかし、塩分を含む水と、農薬が残留する土壌で、生産量は思い通りに伸びず、数年で挫折したという。
前にも紹介したインドでは、モンサントが種苗業者の買収を進め、ほとんどの綿花の種子をランドアップ・レディに切り替えさせた。ところが、病気や害虫で綿花栽培が破綻し、インド最大のコットンベルトであるビダルバでは、2006年1年間で1044人の自殺者を出したという。
大自然の前では、モンサントの浅知恵が通用しなかったのみならず、多くの犠牲者までを出すことになったのだ。
◆究極の愚行は「ネオニコチノイド」か?
数年前から、世界中でミツバチの大量死が報告され、あるいはどこかに消えてしまう事件が起きている。当初は様々な憶測があったが、最近になって、おそらく農薬に含まれる「ネオニコチノイド」によってミツバチが方向感覚を失ってしまい、帰巣できなくなるのが原因だろうといわれるようになった。
そして2013年1月16日に、EUの「欧州食品安全機関(EFSA)」がネオニコチノイド系農薬の3物質がその原因である可能性を発表した。
これによると、
「EFSAに依頼されたEU(欧州連合)加盟国の専門家チームは、ネオニコチノイド系農薬3物質(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)のハチへの影響について、「花粉や花の蜜」「粉塵」「植物の葉から排出される水分」の3つの場面でのリスク評価を実施。その結果、例外やリスク評価未了を除き、いずれの場面でもハチへの危険性が認められる場合があることが分かった。分解しにくく、しかも植物内部に浸透するネオニコチノイド系農薬は、従来の有機リン系などの農薬よりも使用量が少なくて済み、近年は国内でも需要が伸びている。また、ペット用ノミ取りや台所用コバエ取りなど、家庭でもネオニコチノイド系物質を使った製品が普及している。
ところがその一方で、空中散布などによるネオニコチノイド系農薬の使用後にミツバチが大量死する問題が世界中で明らかとなり、これまで同農薬とミツバチ大量死の因果関係が強く疑われてきた。また、従来の農薬よりも人体への毒性が少ないとされている同物質だが、ネオニコチノイドの人体への影響についてはデータが少なく、未解明な部分が多いともいわれている。EFSAでは今後、データ不足を補うなどして、今年春までには農薬類のハチへのリスク評価に関するガイドラインを公開する予定であるとしている」
という。
ちなみに、EUではアセタプリミド(これもネオニコチノイド系農薬)の残留農薬基準を0•6ppmに設定しているというが、日本ではなんと3ppmまで許容している。基準が5倍も緩いことになる。
EUでは、こうしたネオニコチノイド規制が進みつつあるが、残念ながら我が国の意識は「ネオニコチノイド系農薬中止を求めるネットワーク」などの活動を除いてはまだ低いといわざるを得ない。
たかがミツバチではない。生態系の中で授粉という大切な役割を持つこのリンクが切れることの怖さを理解しなければならない。
前表は、害虫の方向感覚を狂わすネオニコチノイド系の殺虫剤の残留基準値の比較だ。
それぞれの野菜や果実ごとに数値は異なるが、ほとんどが欧米よりも高い。とりわけ、欧州の厳しさは抜きんでている。とくに取り合わせとして生で食べる機会の多いキャベツが欧州(検出限界値)の300倍、熱湯で出す茶葉においても300倍なのは心配の限りだ。
これもまた日本の安全神話を裏切る数値である。
アインシュタインが「ミツバチが絶滅すると4年以内に人間が滅亡する」と予言した通り、これこそ相当にまずい事態なのだ。ミツバチによる授粉ができなくなったら、そこで生態系が途切れてしまうからだ。
最近出てきた遺伝子組み換え種子の中には、ミツバチによる授粉を必要としないと謳(うた)っているものもあるようだ。これぞ究極の傲慢(ごうまん)さであり、大自然に刃向かう神をも怖れぬ愚行ではないか。
ちなみに、このネオニコチノイドの農薬をつくったのもモンサントだ。ここでも新たな「愚者の箱」が開きはじめている。
ミツバチの無事と復活を祈るばかりだ。
◆さらなる愚行の連鎖と、トランプの否常識への期待
以上の文は、かつて電子書籍で2014年に出版した拙著『愚者の箱』の第5章に加筆したもの
だ。
その後、「多国籍アグロバイオメジャー」の世界では、2016年にバイエルがモンサントを買収し、デュポンはダウ・ケミカルと合併、シンジェンタは中国の中国化工に買収されるという、ダイナミックな合従連衡が起きている。農業をめぐる化学メジャーの世界戦略が露骨なまでの拡大の連鎖を続けているのだ。
ということで、今回解説してきたこれらの出来事は、オバマ大統領時代の動きである。食品安全近代化法にせよ、TPPにせよ、オバマは完全に多国籍メジャーをはじめとするグローバル企業の意のままに動かされていたことは明らかだ。
その常識(むしろ非常識)を否定して大統領になったトランプに、世界の食糧問題を考えて
もらいたい。
「多国籍アグロバイオメジャー」が考える食糧生産の効率化は、かつては農薬の毒性強化とそれに抵抗力を持つ種子の遺伝子組み換えだった。だが雑草の耐性力もさらに強まり、そのために農薬の毒性をさらに強化し枯葉剤起因の領域にまで踏み込む一方で、種子の遺伝子の中に殺虫性の遺伝子を組み込むという、人間への安全性を無視したタブーに足を踏み入れるようになってしまった。「害虫も食べない毒入りの野菜を我々が食べる」としか言いようがない状況なのだ。
それでも、在来種の種子が残っていれば、なんとか解決法は見つかる。ところが現在の種子はほとんどが色形よく品種改良されたF1種になり、自家採種しても育たないように品種改悪がされている。その極め付きが、「自殺する種子」といわれるものだ。この技術を種子に施せば、その種子から育つ植物に結実する第二世代の種子は自殺してしまうという。したがって、アグロバイオ企業から毎年種子を買い続けなければならないことになる。
これ以上は、人類の浅知恵の連鎖では解決できないことに気づくべきだ。
「なにか変だ!多国籍アグロバイオメジャーのイカサマではないか」と気づいたトランプの、「否常識」にせめてもの願いを託したいところだ。
コメントを残す