п»ї 「暴力の世紀」から生み出された米国の精神障がい 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第129回 | ニュース屋台村

「暴力の世紀」から生み出された米国の精神障がい
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第129回

4月 09日 2018年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆疾患の社会の一部

「精神障がい」は社会が作り上げている側面もあるから、社会的な治癒により幸せな生活を送れるようになる、という思いが、精神障がいとの関わりにおける私の原動力になっている。

絶対評価として病気と診断され、症状として社会生活が送れなく状態と、周囲の理解がないことで、社会に出られなくなってしまう状態は同じではない。後者は社会の問題である。それは大きくとらえれば、私たちが作り上げた社会の構造の一部である。マッチポンプ的に社会が障がいを作り上げている事実は、例えば米国が「戦争を作り上げている」ことに無関係ではない。

ジョン・W・ダワーの『アメリカ 暴力の世紀 第二大戦以降の戦争とテロ』(田中利幸訳、岩波書店)は、私にとって、そのつながりを明確にしてくれた。

◆トランプは米国の気質

同書は、ドナルド・トランプ大統領の誕生はアメリカという国の本質を浮かび上がらせたとし、それを暗黒の部分と評する。つまり「トランプの極端な言語表現と行動を好む性癖は、もともとアメリカの気質なのである。彼は、アメリカの国家と社会には力があり、その力が第2次世界大戦以来、繰り返し自国の高貴な理想を唱導し、推進してきたと考えている。しかし、同時に、実はそれが、アメリカの軍事化と世界的規模での非寛容性と暴力行使に積極的に加担してきたのである」とする。

アメリカは暴力を生み出してきた。それは「この後者のアメリカは、常に、偏狭な行為、人種偏見、被害妄想とヒステリーを生み出してきた。ドナルド・トランプのような扇動政治家で残酷な軍事力を重要視する人物は、こうした状況でこそ活躍するのである」とし、「いわゆる『アメリカの世紀』のこの暗鬱(あんうつ)な戦後史の側面の分析が、この小箸のテーマである」という。

◆6人に1人が精神疾患

戦後、日本は日米同盟を基軸に外交政策を打ち立て、米国が唱導する民主主義に追随する社会の仕組みを目指してきた。そのすべてが間違いとは言わないが、米国が「東南アジアの戦争では、アメリカ軍はベトナム、ラオス、カンボジアに、1945年に日本の60を超える都市に対する破滅的な空爆で使った爆弾の、40倍以上にのぼる量の爆弾を投下」した中で、日本が加担した事実は揺ぎ無い。

湾岸戦争や2001年9月11日の米中枢同時テロ以降のアフガニスタン、イラクへの攻撃でも日本はその「貢献」について議論し、それなりの献身さで戦争に加担してきた。ここで立ち現れ、そして私が強調したいのは、メンタルヘルスの問題だ。「戦争で打撃を受けた地域では、(通常は10人に1人のところ)6人に1人が精神障害を患うといわれている。アメリカ軍兵員に関してだけ言うなら、心的外傷に真剣な注意が払われるようになったのは、アメリカ軍がベトナムから撤退してから7年後の1980年からであり、そのとき初めて心的外傷後ストレス障害(PTSD)がメンタルヘルス問題として公式に認められた」ことを出発点に考えると、私たちはそれを作り出してきたともいえるのだ。

◆構造化された圧迫

私たち日本が「貢献」したアフガンスタンとイラクの戦争について、同書では「2001年10月から07年10月までの間にアフガニスタンとイラクに派遣された、164万人のアメリカ軍兵を対象とする大規模な調査が2008年に行われたが、その結果、『約30万人が現在PTSDか重度のうつ病を患っており、32万人が派遣中に心的外傷性脳障害(TBI)と思われる症状を経験した』との推計」を紹介しているから、被害者はアフガニスタンやイラクの兵士や市民だけではない。ここに、私たちが知らない間に、精神障がいを作り出している現実があぶり出されている。

社会の構造化された内部に、気持ちを押しつぶさせてしまう事実が含まれている。それは戦争では顕著であるし、私たちの日常生活にもそれはある。戦争という暴力装置が作動する状態にあってもなくても、人を圧迫する装置は、無自覚にあっても加担することにもなり得る。

私たちは、戦争はもちろんだが、社会の構造化された中で、人を圧迫していないのか常に検証する必要に迫られている社会に生きているのだ。

※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第124回 福祉ではなく、「教育」をやる覚悟について
https://www.newsyataimura.com/?p=7192#more-7192

精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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