引地達也(ひきち・たつや)
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆障害者の多様な学習
文部科学省は今年度から「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究」事業を開始し、公募の結果、全国で18件の事業を採択した。一昨年に当時の文部科学相が障がい者の生涯学習について政策検討する旨を発表し、文科省内の専門部署での研究を経て、外部での研究から得た知見を基本に具体的な学習の在り方を検討する予定だ。
これは知的障がい・学習障がいの方々が特別支援学校等を卒業した後の学習機会の乏しさや、特別支援学校卒業後にすぐに就労しなければならない雰囲気の中で、本来ゆっくり学んでいく彼ら彼女らに、卒業後の「学び」の場がないなどの問題を受けての事業である。
18件は大阪府や兵庫県教育委員会、千葉県教育委員会などの地方団体や国立大学法人筑波技術大学、国立大学法人長崎大学などの教育機関、医療法人や社会福祉法人、NPO法人など。その中で私が責任者として財団法人福祉教育支援協会で提案した事業「オープンキャンパスの実施等」(一般財団法人福祉教育支援協会)も採択され、障がい者の「学び」をよりよいものにするために実証していかなければならない立場となった。
◆特別支援卒業後の学び
全国的に動き始めた「専攻科」設置の中で、浮かび上がってくるのは「専攻科」の中での多様化だ。障がいによって学習の内容、スピードや教える側、サポート側の対応も変わってくる。
特別支援学校の高等部卒業後の学びについては、私立の特別支援学校が1969年に設立した「いずみ養護学校」(仙台市)が最も古く、現在までに「専攻科を設置する特別支援学校」は公立が「鳥取大学附属特別支援学校」(2006年)のみで、私立の特別支援学校が8校の全9校にとどまっている状態だが、最近ではNPO運営のものや福祉型など多様な形で「学び」の場は広がっている。
大学をはじめとする高等教育機関で教えた経験のある元大学教員らが教える名古屋市の「見晴台学園」型もあれば、福祉スタッフを中心にレクレーション等を充実させて「学び」につなげるスタイルである。
その形は来る学生らの特性によって変わってくることもあるし、学校の方針として当初からターゲットを絞る方法もありそうだ。いずれにしても、障がい特性が多様であるのに対応するのが「学び」を確実にするために必定となる。地域のニーズや学校のスタイルは今後、多様化していくことになるが、それは自然なことなのだろう。
◆オープンキャンパス開講
障がい者向けの就労移行支援事業の経験から「学び」の場づくりは、徹底的に訓練ではなく、学びのスタイルを貫けるかがカギになりそうだ。文科省の研究委託事業で今年度は5回の「オープンキャンパス」を埼玉県和光市などで行い、特別支援学校の卒業生や在学生に向けて、大学の教員らの講義をサブティーチャーのサポートを交えて、学びの内容やスピード、形態などの適正化を検討し、同時に映像化による遠隔での参加の可能性も探ることにしている。
基本は受講生たちが、学びの楽しさに気づき、その人たちの人生をそれぞれ豊かにすること、である。
それが直接的に就労につながる、という思想ではなく、自分の教養や知識が広がり、物事を判断することが楽しくなり、結果としてよい就労につながっていくことを目指したい。「出口」ありきでの学ぶのは、厚生労働行政の「訓練」に近い形になってしまう可能性が高い。今回の「学習」は、自らのために新しい発見をすることから始めることから始まる。それを望む学生はもちろん、それを望む保護者や地域そして社会と共に歩みたい。
そんなオープンキャンパスに是非、ご参加ください。受講生、ボランティアともに募集中です。詳細は下記の法定外シャローム大学のホームページからご覧ください。
■いよいよ始まる!2019年4月開学 法定外シャローム大学
http://www.shalom.wess.or.jp/
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
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