п»ї 総裁三選、安倍時代が終わる 次は河野・小泉連合か 『山田厚史の地球は丸くない』第124回 | ニュース屋台村

総裁三選、安倍時代が終わる 次は河野・小泉連合か
『山田厚史の地球は丸くない』第124回

9月 21日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

国会議員票で82%を取りながら地方票で55%しか安倍晋三は獲得できなかった。主要派閥すべてを味方につけながら、圧勝しきれなかった。「安倍一強」の締め付けが効かず、離反が起き、政権の「賞味期限切れ」があらわになった。

終わりが見えた権力は求心力を失う。「飽き」が漂い、政権への離反が始まる。党内で新旧の攻防が始まるだろう。

◆「先祖返り」

安倍・麻生・二階・菅という旧勢力に対し、岸田・竹下・石原では新鮮味がない。河野・小泉・野田が手を組めば、有権者の支持を一気にさらうのではないか。大きく右に振れた自民党の軸がまた戻る。それが長期政権のバランス感覚だろう。

首相は23日から訪米して国連総会に出席し、トランプ大統領と日米首脳会談に臨む。だが蜜月を装う「ベッタリ外交」にはなりえない。アメリカの懐に入っていれば安心という外交はもう通じない。

首相は帰国後、内閣改造に踏み切る。政府や党の主要ポストを誰に配分するか。人事権こそ権力の源泉だが、骨格は変えようがない。総裁選で派閥のボスがこぞって安倍支持に回ったのは、この時に備えたものだ。人事は安倍の好き放題にできない。麻生財務相、二階幹事長、菅官房長官を中核とした党内権力は維持される。

この面々で有権者の歓心を買うことができるだろうか。「引き続き古い政党でございます」と語るようなものだ。

LGBTを巡る杉田水脈(みお)衆院議員、総裁選で「圧力問題」を指摘した斎藤農水相。この面々は自民党に漂う旧態依然の体質を見事に表現していた。有権者はこういうことに反応する。

高い支持率を保ってきたのは、民主党政権への失望と憤慨があったからだ。無駄な予算を削れば増税はいらない、と言ったのに消費税導入を決めた。沖縄の米軍普天間基地の移転先は「県外または国外」と宣言しながら取り消した。信用できない素人集団に政権は任せられない、と有権者は思い知った。

その陰で自民党内では「先祖返り」を始めていた。左派に政権を取られた反動で、政策の軸を右に振った。強まる保守色に乗ったのが憲法改正を悲願とする安倍晋三だった。

日本会議や在特会など右翼が我が世の春と勢いづき、「安倍親衛隊」のような未熟な議員たちが問題発言を繰り返した。

安倍政権は間もなく6年。リーマン・ショックから10年が経ち、景気は好転した。アベノミクスの成功というより中国や米国に支えらえれた外需依存の景気回復だが、政権にとって順風だった。皮肉にも悲願だった景気好転が「安倍政権でなくてもいい」という空気を醸し出している。

◆原発は権力をひっくり返す論点

安倍はこれから憲法改正を推し進めるだろう。だが国民の関心はそこにはない。力めば力むほど、民心との乖離(かいり)は広がり、そこを見透かした党内野党の動きが活発になるだろう。

東京五輪が近づき、海外の目が日本に注がれる。「フクシマはどうなった?」「日本は安全か?」と問う外国メディアに、いまだ帰還できない数万人の被災者や、汚染水を貯めた数千個のタンク群は異様に映るだろう。

放射能汚染水を水で割って海に流す、という政策に世界はどう反応するだろうか。

「原発は票にならない」と言われてきた。だが世論調査で「原発再稼働の是非」を問えば、2対1の比率で「再稼働反対」が多数を占める。この比率はどこのメディアの調査でも共通している。世論は「原発反対」なのだ。これは世界的な流れで、日本を除く先進国の多くが脱原発に向かっている。

3・11の悲劇にもかかわらず、日本に「原子力村」がいまなお力を持っているのは、重厚長大の旧勢力が支配する財界や経済産業省に取り込まれた安倍政権が存在するからである。

小泉純一郎元首相が「原発ゼロ」を主張しているのは、そこに安倍政権の弱点があるからだ。原発は権力をひっくり返す論点になる、と小泉は見ている。新旧自民党を鮮明に色分けするのは原発だと。世界の潮流から見て時代遅れになった原発にしがみつく政治は滅びる、と小泉はいう。

河野太郎は以前から「脱原発」。野田聖子もどちらかと言えばその流れだ。小泉進次郎は旗色を鮮明にしていないが、ここぞという時に「原発ゼロ」と言い出すだろう。

河野と進次郎が組んで「原発をゼロに」を宣言すれば、世論の流れは一気に決まる。

対極にいるのは安倍である。憲法改正以外の関心は薄く、どうみても官僚に用意された答案のような発言を繰り返す。記者会見でもインタビューでも国会答弁と同じ、聞かれたことに答えず、応答集にあるワンパターンな返答しか出ない首相に、まともな有権者はウンザリしている。

◆致命傷になりかねない改憲

「もう安倍首相はいいんじゃないかな」という空気は、モリカケ国会を経て世間に充満している。支持率が落ちないのは「代わる人がいない」ということらしい。確かに野党は力不足。取って代わる魅力的な指導者が野党にいない。であれば自民党で政権交代が起こることが期待される。

スタートの号砲は10月の内閣改造だろう。秋の国会に憲法改正の発議をするために布陣が敷かれる。だが一強体制に陰りが出始め、改憲を強行するだけの力はあるのか。

首相は、改憲に取り組むことで新たな求心力を高めたいと考えている。首相に近い右派を勇気づけるだろうが、自民党内でも改憲を急ぐことに異論は少なくない。党内論議も十分ではない。反安倍の蠢動(しゅんどう)が始まるのではないか。改憲に懐疑的な公明党が反安倍勢力と連携を模索するだろう。

悲願である憲法改正が安倍政権の致命傷になりかねない。新旧交代を促す政権交代に弾みがつくだろう。

総裁三選は安倍政権の終わりの始まり。その時、野党の役割は何なのか。日本政治は動乱期を迎えようとしている。(文中、敬称略)

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