引地達也(ひきち・たつや)
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆社会で生きていない、のか
文部科学省の「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究」の委託を受けて、年間5回のオープンキャンパスを計画する中で、ある悩みが持ち上がった。それは予想した以上に、対象者である大人の発達障がい者・知的障がい者にたどり着くことが難しい事実である。
精神障がい者の場合は、医療機関やケースワーカーを通じてつながることができるし、何らかの呼びかけに対して、レスポンスがあり、その方に仲間・知り合いがいたり、コミュニティーを形成していたりすることもある。
しかしながら、知的障がい者は特別支援学校を離れて数年すると、つながるツールがなかなかない。この事実はつまり、彼・彼女らが社会の中で生きていない、のを意味しているように思えてならない。
◆「社会=働く」の構造
特別支援学校の高等部を卒業すると、一般企業に就労するか、就労継続支援の福祉施設の通所、就労移行支援事業所で就労までの訓練を行うなどが主な進路となる。多くは社会=働くための道筋として、特別支援学校を位置づけていると思われる。
それは社会の構造上、間違いではない。「もっと学びたい」への選択肢がほとんどなかったのだから、それは仕方がない。仮に「さらに学びたい」という意識があったとしても、実現できる仕組みはがないから、教員側が学びの継続を意識することは困難である。
ともあれ、教員は日々のハードな職務に翻弄(ほんろう)されつつ、就労にこぎつかせ、そしてまた新しい学年の就労に取り組む日々だ。そこに卒業生のフォローを手厚くできる時間的余裕はないから、当然、数年経てば、生徒との関係は希薄になっていく。
それは、確実に卒業生が仕事に定着して充実な日々を送っているのならばよいが、すべてそうとは限らない。離職率も一般に比べ高いのが知的障がい者雇用の実態。ならば地域で支えようという時にケースワーカーとかかわり、地域の福祉関係事業所とつながりを持てれば、コミュニティーの中での居場所もあるあるかもしれないが、それは個人や周囲の環境によるところが大きい。
当然ではあるが、何もしなければ、何も起こらないのだ。だから、巷(ちまた)に障がい者が見えない。オープンキャンパスで参加してほしい知的障がいのある「学びを求める人」へのアプローチが難しいのはこのためなのだろう。
◆ならば歩け、と
先日、私立の特別支援学校である「旭出学園」(東京都練馬区)を訪ねたら、OB会とOBの保護者による取り組みを定期的に行っており、それが結果的にアフターフォローになっているとのこと。そのような民間の取り組み「を地域で包括的に行うのはあまり見たケースがない。
今、私は地方自治体の担当課や自治体が運営する就労支援センターのほか、継続支援事業所、特別支援学校を回ってオープンキャンパスの出席を呼びかけているが、卒業生がどこにいるのかわからず、頭を抱えている。
彼・彼女らが幸せならばよいのだが、人によっては仕事から離れて、離れているうちに悪い方向にむかう人もいる。結果的に犯罪に近づき、犯罪に手を染める人もおり、それが累犯化する可能性もある。だからこそ、たどり着きたい。私の性分なのか、「ならば歩け」と日々、いろいろな場所に足を運んでいる。
■いよいよ始まる!2019年4月開学 法定外シャローム大学
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■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
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