引地達也(ひきち・たつや)
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆福祉で地域中核に
文部科学省の「専修学校による地域産中核的人材養成事業」として採択を受けた「障害者に関わる方のための障害者のライフステージに寄り添う地域サポーターの育成事業」が昨年末になって始まった。
この事業は、専修学校を舞台にして新たな教育モデルを形成することが目的で、特に私たちが進めるのは「地方創生に向けて、各地域課題の解決や発展に向けた将来構想を策定し、構想の実現に今後必要となる人材に必要な能力の養成に向けたモデルカリキュラムを開発する」(文科省)事業である。
この枠組みを利用して、福祉領域で働く有資格者に再度、リベラルアーツ(一般教養)の学習を行うことで、より高次元かつ広範囲での支援を可能としてもらいたい、そしてその支援者が地域の中核を担うことで、おのずと障害者も地域の中心に近づけるのではないか、との想定をし、カリキュラムを開発する予定である。
◆遅れた福祉は福祉から脱するべき
文科省への提案では、私自身が日々支援者として活動する中で、支援者を取り巻く環境や支援の質の問題で、支援が行き届かない現実を目の当たりにし、社会が福祉に関心を持ってもらうのと同時に、支援者の質を上げる努力を追求したいとの思いを率直に示した。
それには背景があり、課題があり、一つひとつを抽出しながら、それを乗り越えるべきだと書き示した。その問題点とは「遅れた福祉には、福祉から脱する必要性を認識していないこと」「日独米の障害者への意識の違いで浮かび上がる日本の特異性への自覚と行動」「精神疾患者の増加と『社会で生きる』への未対応」「地域で障害者の『ライフステージ』に寄り添うメインプレーヤーの不在」「障害者雇用支援における長期的なフローにおける施策の未確立」であり、これを克服する支援者の育成が急務とし、求められる支援者像が「幅広い教養を身に着けた受容性」であり、「障害者とともに成長や発見を喜ぶパートナーとしての役割を自覚」していること、と示した。
今後3年で、この問題意識を基本とした開発プログラムに賛同してくれた13人の委員とともに検討を進める予定だ。
◆ガイドラインがない中で
委員には実際にカリキュラムを試行・実施する予定の東京福祉専門学校(東京都江戸川区)、埼玉福祉・保育専門学校(さいたま市大宮区)、甲府医療秘書学院(甲府市)や行政機関として埼玉県和光市、さらには社会福祉士、精神保健福祉士、社会保険労務士、企業の人事担当者、当事者家族らで構成した。
初回の会合ではそれぞれの立場から、福祉及び障がい者、支援、学習の切り口で意見を表明していただいたが、総じて言えるのは、福祉的サービスを受ける立場の人の増加や社会で障がい者とのかかわりが広がる中にあって、いまだに「社会」には適切なガイドラインがなく、誰もが支援してもよいはずだが、その支援への導き手がいないことである。
想定している学問領域は「福祉学」「社会学」「教育学」であるが、基本的にディスカッション方式で学び合う時間に重きを置き、加えて自分が携わっている福祉分野以外や社会問題の解決に向けての活動に一定時間身を置いて実習することも取り入れたいと考えている。自分の今までの経験と新たな経験の中で自問しながら、それを仲間たちと検討・討議する「学び合い」ができれば、新たな支援者としての自分が確立できるのではないだろうか。カリキュラム開発は3年の予定だが、昨年12月に始まったばかりの1年目は3月に初年度が終わる。
◆意識調査にご協力を
今年度は方向性を示すために、社会福祉士、精神保健福祉士、福祉事業従事者、社会保険労務士、企業の障害者人事担当者、それぞれ100人を対象に意識調査を行う。調査分析と同時に教育現場や支援現場でのヒアリング調査を実施予定だ。意識調査はネット上でも可能なので、1人でも多くの人に協力してほしい。
■いよいよ始まる!2019年4月開学 法定外シャローム大学
http://www.shalom.wess.or.jp/
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
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