引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、シャローム大学校学長、一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆9月11日にCDリリース
昨年11月から今年初めに行った、生きづらさを抱えた方らからの「ココロの詩」の募集は、予定よりも審査が難航しながらも、6月、最優秀作品に「なりたい」を決定し、季刊誌「ケアメディア」や月刊誌「歌の手帖」などの各メディアで発表された。作品はレコード会社「エイフォース・エンタテイメント社」で制作され、歌手の逢川まさきさんの歌唱でCD「なりたい」としてクラウン徳間から9月11日に発売されることも決定した。
先日、レコーディングを終えた逢川さんは就労移行支援事業所で初めて当事者を前にこの作品を歌った。聴き手の反応は敏感で、歌詞として表現された当事者からのメッセージは切ない中にも力強いことがあらためて実感できた。それは、人生が「うまくいかない」と生きてきたある男性の葛藤である。
◆双極性とうつの筆者
「なりたい」を書いた程島正幸さんは、1975年大阪市西成区生まれで、小学生の頃に父親を亡くし、複雑な家庭環境で育ちながら、高校卒業後、約10年トラックの運転手をした。母親との仲たがいによって家を出て、派遣の仕事で近畿地方や広島、山口、福井で過ごすが、リストラにより炊き出しでしのぐなどの支援を受けた後、現在は大阪市港区に住む。
双極性障害の冬季うつ病があり、冬季には極端に体調を崩してしまう。作品はその冬の時期、「状態の悪い時に書きました」という。それが「なりたい」だった。
なりたい
花になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
花になりたいのです
名前も知らない 野の花に
踏まれてもなお生きる 野の花に
鳥になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
鳥になりたいのです
島を巡る 渡り鳥に
自由に羽ばたく 海鳥に
風になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
風になりたいのです
綿毛を飛ばす 秋風に
潮の香(か)運ぶ 海風に
雲になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
雲になりたいのです
同じ形のない あの雲に
風たなびく あの雲に
みんなと同じになりたいけれど
普通に生きたいだけなのだけど
生まれ変わったら 今度も
私は 私になりたいのです
失敗ばかりの人生だけど
無駄ばっかりの人生だけど
生まれ変わったら こんども
あなたの子供で 在りたいのです
◆いじめと親との確執
双極性障害と診断されたのは3年前。リハビリの一環で毎日、文章を書くようになったが、子供のころにいじめにあって友達がおらず、休み時間のたびに学校の図書館で本を読んで過ごしていたのが役立っているかもしれない、という。リストラにあった後は、公園で暮らした時期もあったという。
現在は、公的な自立支援センターでの共同生活や就労移行支援事業所での訓練を経て、一人暮らしをしながら就労継続支援B型施設でパンを作っている。家を飛び出したのが「頑固な母親」との不和が原因であったが、その母親とはまだ和解はしていない。
程島さんは「まだ自分に自信がないからですが、今度生まれ変わって同じような状況になったら、もっとうまくやれると思うんです。それを詩に書きました」と語る。「なりたい」という切実な思い、再度生まれ変わっても不仲の母親の子供に「なりたい」のは、やはり深く美しい言葉の旋律のような気がしている。
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