山口行治(やまぐち・ゆきはる)
株式会社エルデータサイエンス代表取締役。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
経済産業省は2018年8月から5回にわたって理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会を行い、その結果をとりまとめたものを今年3月26日付で「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える~」として公表し、数理資本主義を提唱している(注)。「~」を読み飛ばして、「代数学パワー」であれば素晴らしいと思うのは、Google検索と筆者だけだろうか。
京都大学数理解析研究所望月新一教授のIUT (宇宙際タイヒミュラー)理論を一般向けに解説した『宇宙と宇宙をつなぐ数学』(加藤文元、角川書店、2019年)を一晩で読みふかし、何年も積読していた『代数学とは何か』(シャファレビッチ、シュプリンガー・フェアラーク東京、2001年)を思い出した。加藤先生の本は空間概念を代数化したアレクサンダー・グロタンディークの写真に始まり、群論を創出したエヴァリスト・ガロアの似顔絵で終わる。かっこよすぎる。
デジタル社会主義として、社会概念を代数化したら、どのようなことになるのだろうか。世界の人口は32ビット程度。256ビット暗号キーの桁数を見ていると、100億人の社会であっても計算可能になるような気がする。脳の神経細胞の数を100億個程度とすれば、全世界の神経細胞の数は10の20乗個程度なのだから、10の78乗である256ビットには、まだまだ余裕がある。大きな空間のイメージではなく、人間の感覚を超えた時間分解能によるデジタル社会計算の世界、不気味だ。
経済産業省の努力に文句を言うつもりはない。厚生労働省と、文部科学省とともに、「代数学のパワー」で認知症に挑んでもらいたい。認知症患者では認知機能の「座標」が壊れているように思われる。図形や方程式の解の対称性の研究から始まり、関数空間に座標を導入した代数学の発想を、認知症治療に応用できないだろうか。望月先生の理論は、認知症患者との対称性通信におけるひずみも復元できるかもしれない。
(注)経済産業省の理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会の関連サイトhttps://www.meti.go.jp/shingikai/economy/risukei_jinzai/index.html
WHAT^(ホワット・ハットと読んでください)は、何か気になることを、気の向くままに、イメージと文章にしてみます。
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