引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、シャローム大学校学長、一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆いきもってなんだろう?
先日、障がい者と市民が共に学び合うシャローム大学校の「オープンキャンパス」が今年度の初めての講座を埼玉県和光市で行った。昨年に引き続き五つのテーブルに5、6人の当事者にサブティーチャーをつけたスタイルで行う体験型の学びは、これまでの経験を生かした工夫の上、新しい者同士の「交じり合い」と「学び合い」が狙いにある。
今回の授業のテーマは「いきものってなんだろう?―いのちから私たちを考える」で、講師は杏林大医学部の先生だった佐藤玄(さとう・はじめ)・シャローム大学校教授。DNA研究が専門の佐藤教授が主導し、いきものの設計図であるDNAをクイズ形式で考え、実際に野菜や豚のレバーからDNAを取り出して、見る、という実験を行った。
和気あいあいとした雰囲気の中、初めて見るDNAに歓声を上げたのは、障がい者も一般参加者もサブティーチャーも関係ない。これが学びのよさなのだとつくづく実感する。
◆佐久と伊東での周知に難しさ
この講義は文部科学省の「障害者の生涯学習」の確立に向けた委託研究事業の一環として昨年度に引き続き実施する事業。2014年に日本が批准した障害者権利条約に基づく「障害者の生涯における学び」をどのように保障するかの課題に正面から取り組んだ試みだ。
文科省が本格的に取り組み始めたのが3年前で外部へ研究委託したのが昨年から。その昨年から私は文科省とともに、「障害者の学びの拡大」に向け奮闘しているが、やはり「障害者の生涯学習」への認知度が低い、というこの全体環境へのアプローチは困難だ。
特に今年度は昨年実施した地元の埼玉県和光市やさいたま市を飛び出し、地域モデルを確立しようと長野県佐久市と静岡県伊東市での開催に向け準備を進めているが、周知の段階から難しさを痛感している。
この地域モデルの先駆けとなる佐久市と伊東市での講義テーマは、午前が「物理学の実験からコミュニケーションを考える」(九里秀一郎・浦和大教授)、午後が「コーラスと歌って触れ合うコミュニケーション」(ピアノコーラスグループ、サーム)の予定。今年度初回の講義と同様で、集まった人同士が触れ合い、学び合うスタイルなので、基本的に楽しむためにきてほしいと考えている。
「うちの子は落ち着きないから」という心配する親御さんもいらっしゃったが、いすに座っていなくても、スペースは広いから、自由に過ごしてもらって構わないし、座らないことをとがめるつもりもない。それが特別支援教育を内包したこの学びの場だし、どんな人でもその空間で一緒にいることで、何か「つながる」可能性はあるはずと信じることが、この学びの場の基本姿勢である。
◆学びの可能性に一人ひとり
この新しい学びの場の可能性や私たちの思いや方針を伝えるのは、難しい。新しい枠組みの新しい概念だから、一人ひとり、一か所一か所、丁寧に説明し仲間を増やすしかない。
シャローム大学校の「オープンキャンパス」がむしろ、大学校の宣伝ではないかと誤解されている場合もある。地域でやりたいのは「モデル作り」だけで、その地域で地域の方々が学びの場をそれぞれ作っていただくのが目標だから、シャローム大学校の名前は気にしないでほしいし、なくてもよいとも思っている。
今年の地域モデル確立に向けて、集まる方々への呼びかけはなかなか難しいが、今年に限らず、来年も地域の方々とともに動くことも目標にして、取り組んでいきたい。
佐久市は9月25日10時から14時30分まで、佐久市の佐久市民創練習センターで、伊東市では10月9日に伊東市観光会館別館で行われる。障がいの有無にかかわらず、すべての人に来てほしい。
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