п»ї 政権末期、首相と官房長官のすきま風―閣僚辞任、郵政、カジノという連鎖 『山田厚史の地球は丸くない』第154回 | ニュース屋台村

政権末期、首相と官房長官のすきま風―閣僚辞任、郵政、カジノという連鎖
『山田厚史の地球は丸くない』第154回

12月 27日 2019年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「ゆるみ、たるみ、おごり」と入力すると「自民党」が出てくる、と聞いてやってみた。確かに、出てきた。

 安倍晋三首相は12月27日、任期8年目に入った。憲政史上例のない長期政権なったものの、求心力が急速に衰えてきた。

 報道各社が12月に行った世論調査で、首相の支持率はおしなべて低下。朝日新聞の調査では支持率は38%、前月(11月44%)より6ポイント下がった。不支持率は42%(11月36%)に上昇、ついに支持率を上回った。

 もともと徳のある政治家ではない。高い支持率で求心力を維持していたのだから、人気が下がれば人は離れる。ポスト安倍を意識してか、自民党内に暗闘の兆しが見えてきた。

◆日本郵政上席副社長の辞任が意味するもの

 12月27日、日本郵政グループの社長3人がそろって辞任した。全国の郵便局でかんぽ生命の保険を違法に販売していたことの責任を3社長に取らせることは既定路線だった。

 ニュースは、日本郵政の鈴木康雄上席副社長も辞任させられたことだ。鈴木氏は菅義偉官房長官と昵懇(じっこん)の間柄だという。「郵政のドン」とも呼ばれ、辞任する長門貢嗣(ながと・まさつぐ)社長の後任に取りざたされていた。一転して外されることになったのは「情報漏洩(ろうえい)問題」である。

 日本郵政に対する処分を協議する総務省内部の密談が、総務次官から鈴木副社長に漏れていた。高市早苗総務大臣が「私の発言をなぜ鈴木副社長が知っているのか」と次官を問い詰めて「白状」させ、事実上の更迭へと動いた。副社長は表に出て釈明せず、日本郵政も「ノーコメント」を通したが、責任を問われる形で決着した。 

 次官が大臣室での密談を、処分する相手に伝えるなど前代未聞である。というより、そのことが事実として公表され責任を問われる、ことなどまずない。あったとしても、身内の恥は秘密裏に処理するのが役所にやり方だ。

 高市大臣が「次官が漏洩していました」と公表したのは、筋を通した出来事だが、見ようによっては過激な対応である。

 新聞に載った12月19日の「首相動向」によると、「午後3時5分から28分まで高市早苗総務相」とある。次官更迭の前日だ。総務相は安倍首相のもとに駆けつけて顛末(てんまつ)を報告し、了解を取ったのだろう。高市氏は「安倍と仲良し」の政治家である。

 鈴木副社長が菅官房長官の「知恵袋」であることは総務省幹部の間では知られたことだった。総務官僚の最高位である次官が、断りきれず密談の内容を伝えたのは、副社長の背後に菅氏の存在を意識したからではないだろうか。

 鈴木康雄氏は1973年郵政省(当時)に入り2005年郵政行政局長になった。小泉純一郎首相が「郵政民営化」をぶち上げていた時期だ。総務大臣は竹中平蔵氏、菅氏はその下で副大臣を務めていた。翌年、菅氏は総務大臣になり、鈴木氏を情報通信局長に就けた。浮力がついた鈴木氏は9年7月総務次官になる。

 その直後、民主党が政権を取り鈴木氏は半年で次官の座を追われたが、政権に復帰した自民党政権で2013年6月、日本郵政の取締役副社長に送り込まれた。

 菅氏は官房長官でありながら「携帯料金の引き下げ」など大衆受けする通信政策を掲げ、「情報通信は任せろ」と言わんばかりに振る舞っている。総務相時代の人脈が、ブレーンで元締めの鈴木氏だと言われる。

◆政権内部の「仲間割れ」

 その鈴木氏が高市総務相によって引きずり下ろされた。安倍首相は長期政権になったが、同じく菅官房長官も7年が経ち、歴代最長。官邸主導の政治で官房長官の権限は肥大化し、特に「霞が関人事」に介入する菅氏の強権政治に自民党内からも反発が強まっていた。

 鈴木氏の「解任」は、総務省に根を張る「菅人脈」への切り崩しとみられる。高市氏は2度目の総務相。情報通信やメディア対策という重要案件は「自分の縄張り」という意識があるようだ。「情報漏洩」と騒ぎ立て、一気に菅氏の羽根をへし折った。こうなると総理と官房長官のそれぞれに応援団がついて、勢力争いを演じているようにも見える。

 参院選後の内閣改造で、菅氏が押し込んだ閣僚2人が、スキャンダルが露呈して辞任した。法相に河井克行氏を据えたのは、近く交代する検事総長の人事への布石、とも噂(うわさ)された。

 週刊ポストの報道によると、来年8月に定年を迎える稲田伸夫検事総長の後任は黒川弘務(ひろむ)・東京高検検事長と林真琴(まこと)・名古屋高検検事長が有力とされる。法務・検察の官僚組織では林氏を推す声が強いが、菅氏の覚えがめでたいのは黒川氏だとういう。黒川氏は2月に検事長の定年になる。その前に稲田検事総長を勇退させなければ黒田氏の目はない。河井法務相(当時)はそのお膳立てをする役回りだった、というのだ。

 真偽のほどはわからないが官僚組織によくある話だ。話題になるのは、菅氏は官僚人事に口を出す政治家という定評があるからだろう。

 河井氏や経産相だった菅原一秀(いっしゅう)氏のスキャンダル情報が週刊誌に載ったのは、「反菅」の機運が政界に高まっていることの反映ともいわれる。菅氏の側近である和泉洋人(いずみ・ひろと)首相補佐官が、厚生労働省の「美人官僚」を伴って京都に公務出張したことも報じられた。誰かが刺したのだろう。政権内部の「仲間割れ」ではないか。

◆「菅案件」に暗雲

 内閣府のIR担当副大臣だった秋元司(あきもと・つかさ)衆議院議員が業者から賄賂を受け取っていたとして、25日に東京地検特捜部に収賄容疑で逮捕された。

 カジノ=IRは安倍政権が掲げる成長戦略だ。内外の業者が利権の匂いを嗅(か)いでロビー活動に走っているのは、この「ニュース屋台村」でも書いてきた。政府のIR事業の仕切り役は菅官房長官である。自らの選挙区である横浜市が「カジノ誘致」に動いているは「菅案件」とされている。市民や港湾業者に反対の声は強く、菅氏の政治力で突破できるか予断を許さない。

 カジノ推進の突撃隊長のような秋元氏に検察の捜査が及んだことは、菅氏の政治基盤を危うくしかねない。

 欲得と利権が渦巻くのがカジノだ。来年には、業者や自治体の選定が本格化する。パンドラの箱が開くかもしれない。

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