Factory Network Asia Group
タイと中国を中心に日系・ローカル製造業向けのビジネスマッチングサービスを提供。タイと中国でものづくり商談会の開催や製造業向けフリーペーパー「FNAマガジン」を発行している。
中国の電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)がパワー半導体の製造部門の新規株式公開(IPO)を検討していることが2019年年9月、明らかになった。各社の報道によると、それはIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)を製造する部門だという。
電力を直流から交流に変換したり、電圧を上げ下げしたりするパワー半導体は、モーターを低速から高速まで精度よく回したり、太陽電池で発電した電気を無駄なく送電網に送ったりと、安定した電源を供給するのに欠かせないデバイス。家電などの民生機器から産業機器まで幅広い領域で活用されている。パワー半導体デバイスのトランジスタ分野に分類されるのがIGBTであり、省エネ性能に優れる特徴がある。IGBTはEVにも組み込まれるが、IGBTは1台のEVの生産コストの7〜10%を占め、電池以外で最も高額な部品とされている。充電器にも使用され、IGBTはEV業界にとって欠かすことのできないモジュールとなっている。
◆EV市場拡大にともない国産化を推進
台湾の市場調査会社、集邦科技(TrendForce)によると、世界のIGBTの需要は、EVの出荷台数増加にともない拡大。2018年の市場規模は、前年比16%増の47億500万ドル(約5177億5000万円)だった。19年は中国の自動車市場低迷の影響で、3%増の48億3600万ドル(約5271億2400万円)にとどまる予想だが、21年には52億4900万ドル(約5721億4100万円)に達すると予測する。
一方、中国のIGBTの市場規模は、集邦科技によると、18年の市場規模は前年比19.91%増の153億元(約2379億1500万円)に達し、25年までに522億元(約8117億1000万円)まで拡大すると予測する。
中国のパワー半導体市場は世界市場の半分を占めるといわれているが、同分野は三菱電機や富士電機、独インフィニオンテクノロジーズなど日本や欧米メーカーが強く、特にIGBTについては、9割を輸入に頼っているという。そのため、納期は数カ月から最悪の場合、1年もかかってしまう。右肩上がりのEV市場において、それは大きな足かせとなる。IGBTの国産化は、中国にとって喫緊の課題なのだ。
それを実現する国産メーカーの筆頭が、中国鉄道車両最大手、中国中車(CRRC)系の株洲中車時代電気とBYDだ。株洲中車時代電気は鉄道車両向けにIGBTを製造しているため、EVにおいては、BYDがほぼ唯一の中国メーカーといってもいいだろう。
BYDは、05年にIGBT事業に参入した08年に寧波中緯半導体を1億7100万元(約25億5900万円)で買収し、研究開発を加速。18年12月には、電力消費を約20%削減、電流出力能力を約15%向上させる「IGBT4.0」を発表した。さらには、高い省エネ効果が見込める炭化ケイ素(SiC)を使った半導体の研究開発にも取り組んでいる。元々は、19年に発売されるEVにSiCデバイスを搭載する計画だったが、その後の発表はまだない。
香港財華社によると、同社第六事業部の陳剛総経理は、2019年末までにIGBTウエハーの生産能力を月産5万枚まで引き上げると打ち明けている。1台で1枚のウエハーを使用するとすれば、5万台分に相当する。同社は自社のEVに搭載するだけでなく、他社にもIGBTを供給する狙いだ。しかしこの生産能力では、中国のEV市場の拡大に追いつけない。BYDはIPOで資金調達することによって、増産に踏み切りたいのだろう。
BYDを巡っては、トヨタ自動車が去年11月にEVの研究開発会社設立に向けた合弁契約を締結したと発表したばかり。今年もBYDの動向から目が離せない。
※本コラムは、Factory Network Asia Groupが発行するFNAマガジンチャイナ2019年12月号より転載しています。
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