山口行治(やまぐち・ゆきはる)
株式会社ふぇの代表取締役。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
東京国立近代美術館で開催中のゲルハルト・リヒター展=東京都千代田区、筆者撮影
ドイツの画家、ゲルハルト・リヒターは90歳を目前にして、第一線で活躍している。若いころは、ボケた白黒写真のような絵画で有名だった。ナチスドイツのホロコーストを題材とした近作《ビルケナウ》は2016年作で、4枚の巨大な抽象絵画を写真に撮って、4枚組みで絵画と同サイズの写真作品としている。東京での展示では、リヒター独自の暗い鏡に《ビルケナウ》のイメージが映し出されていた。絵画としての作品を、どのように視(み)るのか、ということは鑑賞者の自由であったとしても、巨大な絵画を組み合わせて、実物とほとんど区別がつかない写真作品とすることは、作家の明確な意図と写真技術が不可欠だ。さらに鏡に映るイメージには、多くの観客の動きが無作為に重なる。《ビルケナウ》という作品は、写真と鏡のイメージも含めて、鑑賞者に同時代性を強要している。リヒターは、すごい老人作家になっていた。 記事全文>>