Factory Network Asia Group
タイと中国を中心に日系・ローカル製造業向けのビジネスマッチングサービスを提供。タイと中国でものづくり商談会の開催や製造業向けフリーペーパー「FNAマガジン」を発行している。
米中貿易戦争が収束の動きを見せる一方、米国とイランとの緊張の高まりや英国の欧州連合(EU)離脱など、2020年も依然として世界経済には先行きの不透明感が漂う。そうしたなか、産業界で期待が高まる分野の一つが、次世代通信規格「5G」だ。
中国にとって2019年は、5G元年だった。6月に中国政府が中国電信(チャイナ・テレコム)、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)、中国広電(国家新聞出版広電総局)に5Gの営業ライセンスを与えると、中国広電以外の3社が11月からサービスを開始。それに先立ち、華為技術(ファーウェイ)を筆頭に端末メーカー各社は、5G対応機種を発売している。
中国政府も重点分野と考え、中国信息通信研究院が公表した「2020中国5G経済報告」によると、5Gが経済産業に直接与える影響は、20年の5000億元(約8兆円)から30年には6兆3000億元(約99兆円)まで拡大すると予測する。また、間接的な影響についても、20年の1兆2000億元(約19兆円)から30年には10兆6000億元(約166兆円)まで拡大すると予測する。
かなり楽観的な数字に思えるが、それが誇張に見えないのは、中国人の5Gに対する熱量の大きさにある。北京字節跳動科技(バイトダンス)は、「今日頭条5G業界ビッグデータ洞察白書」を公表。それによると、同社のニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」での5Gの露出度は急上昇し、関連記事の投稿は累計1400万を超え、累計閲覧数は130億を超えるという。
その盛り上がりを裏付けるように、5G対応スマートフォンの売れ行きも好調だ。中国信息通信研究院が発表した「2019年11月国内携帯電話市場運行分析報告」によると、同月の5G対応スマホの出荷台数は249万台に達した。9月は50万台弱だったので、急激に増えた形だ。
5Gの普及を心待ちにしているのは消費者だけでない。産業界も熱い視線を送っているが、とりわけ期待が大きいのは当のバイトダンスだろう。同社は今日頭条のみならず、短編動画アプリ「抖音(Douyin)」が大ヒット。その国際版である「TikTok」が日本をはじめとする世界各国でブームになったのは18年だが、19年になっても失速することなく勢いを保ち続けている。
米調査会社センサータワー(Sensor Tower)によると、19年第3四半期の世界のスマホ向けアプリのダウンロード数は、TikTokがメッセンジャーアプリ「WhatsApp」に次ぐ第2位。アップル社のApp Storeに限れば第1位だった。バイトダンスの発表によると、同年11月にはTikTokの全世界でのダウンロード数は15億を超えた。また、本家の抖音についても、同年7月時点で日間アクティブユーザー(DAU)が3億2000万を超えたと発表している。フェイスブックやツイッター、インスタグラムといった米国発のSNSが世界を席巻しているのは、米国が4Gの覇権を握ったからだという指摘がある。その伝でいけば、中国が5Gで覇権を取れば、TikTokが米国産アプリを超える可能性もある。
◆日本では製造現場での実証実験が相次いで開始
こうした世界からは大きく出遅れてしまった日本だが、製造業においては必ずしもそうではない。
ファナックと日立、NTTドコモは19年9月、5Gを活用した製造現場の高度化に向け、共同検討を開始すると発表した。ファナックの工場ではCNC装置、ロボット、工作機械、センサーなどの産業機器との5G接続および無線制御の検証をするほか、日立の大みか事業所内(茨城県日立市)では、制御ネットワークへの適用性検討や高精細映像のリアルタイム共有などによる遠隔保守作業支援の検証をするなど、製造現場のさまざまな環境で5Gの有用性の検証を行うとしている。
またNECと三菱電機は11月、製造現場における5G活用に向けた共同検証をすると発表した。それによると、たとえばローカル5Gの活用により、工場内の多数の無人搬送車をよりスマートに動かすことができるようになり、さらにハイブリッド5Gにより工場内の情報と公衆網の情報をつなげることで、エンジニアリングチェーンやサプライチェーン全体を最適化し、需要変動にフレキシブルに対応するスマート生産の実現が期待できるとしている。
バイトダンスは先述の「今日頭条5G業界ビッグデータ洞察白書」のなかで、「4Gは生活を変え、5Gは社会を変える」と指摘している。その変化の波は、製造現場にも確実に訪れるだろう。
※本コラムは、Factory Network Asia Groupが発行するFNAマガジンチャイナ2020年新春号より転載しています。
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