п»ї 日本企業のジョブ型雇用導入について:「リベラル能力主義」について考える(その7) 『視点を磨き、視野を広げる』第64回 | ニュース屋台村

日本企業のジョブ型雇用導入について:「リベラル能力主義」について考える(その7)
『視点を磨き、視野を広げる』第64回

12月 21日 2022年 経済

LINEで送る
Pocket

古川弘介(ふるかわ・こうすけ)

海外勤務が長く、日本を外から眺めることが多かった。帰国後、日本の社会をより深く知りたいと思い読書会を続けている。最近常勤の仕事から離れ、オープン・カレッジに通い始めた。

◆はじめに:本稿のねらい

今回は日本企業のジョブ型雇用導入について考えたい。日本経済新聞によると、上場および非上場有力企業813社のうちジョブ型雇用が約2割あるという(*注1)。この数字は想像していたより多い。確かに最近の新聞を見ていると、ジョブ型雇用という見出しが目につく。

前稿で取り上げた『ジョブ型雇用社会とは何か』の著者である濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)は、こうしたメディア報道を、記事の注目度を高めるために「ジョブ型」という言葉を使っており、「制度や中身の違いを本質的に理解していない」ものが少なくないとして批判的に論じている。ただ、濱口が言いたいのは、ジョブ型を正しく理解すべきだということだと思う。濱口は「ジョブ型」の名付け親であるが、欧米の雇用システムを「ジョブ型」と総称しているのであり、米国と欧州では同じジョブ型でも違いがある。したがって日本流のジョブ型があっても良いのかもしれない。また濱口自身、「日本企業がこれまでの賃金処遇制度に問題意識を持ち、新たな人事制度を取り入れようとしていること自体は理解できる」と述べて企業の雇用改革への努力に一定の評価をしている。

では、企業はなぜジョブ型を導入するのか。それは日本のメンバーシップ型雇用システムが機能不全を起こしていると考えているからである。日本経済団体連合会(経団連)は『経済労働政策特別委員会報告(2022年版)』の中で、「日本型雇用システムの見直し」と題して雇用システムの再点検、見直しの流れを加速化すべきだと述べ、解決策の一つとしてジョブ型雇用システムを位置付けている。そしてジョブ型を含めた様々な観点から見直しを行い、各企業にとって最適な「自社型雇用システムの確立」の検討を呼びかけているのである。最近、日本企業のジョブ型導入が相次ぐ背景にはこうした流れがあるのだろう。

前稿では、ジョブ型社会とは何かについて考えたが、それはマクロの視点での抽象的な議論であった。今回は、実際にジョブ型を導入している大企業を対象として、日本流のジョブ型雇用とはどのようなものか、今後の課題は何かについて考えてみたい。

◆日本流の「ジョブ型」

  • ジョブ型導入の目的

現在ジョブ型導入を表明している代表的な企業―日立製作所(以下日立)、富士通、N T T、K D D I、資生堂、三菱ケミカル、ダイキン、カゴメ、みずほF G―の導入目的を調べたところ、会社が置かれた環境によって若干の違いはあるものの、世界的な①グローバル化②デジタル化③リベラル化――の潮流への対応であることがわかる。

一つ目の「グローバル化」は、事業のグローバル化に伴い人事制度をグローバル基準のジョブ型に合わせることで世界中の人的資源を活用しようというもので、最もわかりやすい理由だ。二つ目の「デジタル化」は、人材の流動化によってデジタル人材の育成や中途採用を図ることが目的である。三番目の「リベラル化」は、長時間労働やハラスメントを是正し、多様化する価値観に対応した柔軟な働き方を提供するためである。どれも妥当な理由であり、納得感がある。

  • 「日本的ジョブ型雇用」

具体的な導入内容を見ると、従来のメンバーシップ型とジョブ型を融合したハイブリット型であるが、評価するにはもう少し専門的な知識が必要だと感じた。そこでパーソル総合研究所の湯元健治編著の『日本的ジョブ型雇用』(以下「本書」)を参考にした。同研究所は人材総合サービスのパーソル社の傘下にあるが、本書は親会社の宣伝臭は少なく、濱口がいうジョブ型の正しい理解についても問題ないと感じたので選んだ。

結論から言うと、本書では「日本的ジョブ型雇用」を推奨している。日本の企業風土や労働慣行とも適合する「日本型」を模索していくべきだということだ。前述9社を見てもジョブ型を取り入れているが、メンバーシップ型も一部残している。主な特徴を以下に挙げた。

  • 等級制度

人事制度の柱である等級制度は、日本では人を基準に考える「職能資格制度」である。これに対しジョブ型はジョブが基準の「職務等級制度」が基本である。しかし、日本でジョブ型を採用する企業はこの「職務等級制度」ではなく、両制度の中間的な「役割等級制度」を採る企業が多いとされる。この制度は、役割(役職×職務)を基準としてそれに応じて等級を設定しており、「職務等級制度」より柔軟性があるとされる。本書では、日本では欧米のような市場ベースの職業別賃金データが未整備であり、中間的な「役割等級制度」を採るのは、現実的な対応だとしている。

  • 採用

ジョブ型採用はジョブを特定した通年採用が基本である。ただ、今回のジョブ型導入企業を見ると、新卒一括採用も残して、そこにジョブを特定しないオープンコースを併設している会社が多い。これは入社時点でジョブを特定せず、一定期間ジョブローテーションを経験したのちに、自分の専門性を固めてからジョブを選ぶ方式のようだ。大学卒業時点で、専門スキルや資格を有している人は少ないという日本の現実を前提とした形であり理解できる。

しかし、ジョブの要件を読むと大学生ではそれを充足するのは難しいと感じるものもあった。大学生向けのインターンシップを長期化して業務の理解度を深めるとともに、その経験を加点するなど企業側のサポートが必要と思われる。また、ここから言えることは、企業のジョブ型採用が広がると、大学も従来の(企業が求める)ジェネラリストの養成という教育から、実務性、専門性を重視した教育に変えていく必要が出てくるということである。雇用システム改革は、大学も変えるのである。

  • 人事異動

人事異動についてはポスティング(ポストの社内公募)を採用している会社が多い。定期人事異動で会社の命令に従って転勤を繰り返す方式をやめ、希望ポストが公募されていたら自ら手を挙げて応募するのである。従来のように会社が職務や勤務場所を決めるのではなく、自分でキャリアを管理する自律型に変わるというのがポイントである。

ジョブ型では職務に必要なスキルが明示されているので、自己啓発によるスキルアップの目標が立てやすいというメリットもある。会社側も、学習ツールや研修を充実させることで支援を行っている。従業員のスキルアップは会社にとっても人的資産の質の向上につながるからだ。

ただし、本書によれば、ポスティングの対象は全てのジョブではない会社が大部分だという。ポストによっては不人気なものもあり、応募者がいないこともありうるからだ。その場合は、会社都合の人事異動が必要になってくる。運用面で工夫が必要だということであり、当面こうした試行錯誤が続くのだろう。

また、社内公募だけではなく、社外公募を掲げている会社もあるが、これも専門的スキルが必要なポストに限られるようだ。ただ、ジョブ基準で高い給与を提示しやすくなるので、採用の柔軟性が増すことは間違いないだろう。

◆「ジョブ型正社員」という概念

  • 「多様な正社員」

大企業のジョブ型雇用導入について考える場合、企業にはすでにいくつかの雇用形態が存在していることを理解しておく必要がある。日本はメンバーシップ型とされるが、正式メンバーになれるのは「正社員(無限定正社員)」だけである。企業ではこの他に異なる雇用形態である「非正規雇用の労働者」がいる。契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員などである。この「正規」と「非正規」の間に、「限定正社員」という雇用形態がある。

「限定正社員」は、厚生労働省の資料などで「多様な正社員」と呼ばれている区分で、職務、職場、労働時間が一つ以上限定されている無期雇用の社員をいう。一般的に「正社員」というのは「無限定正社員」を指しており、無限定の白紙委任状を企業に差し出して、その代償として「終身雇用」を保障されている「身分」のことをいう。「限定正社員」は、その「無限定正社員」と「非正規雇用」の中間に位置する「身分」といえる。

厚生労働省の有識者懇談会の報告書『「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書』(2014年7月)では、「非正規雇用労働者」から「多様な正社員(限定正社員)」への転換制度、及び「多様な正社員(限定正社員)」から「正社員」への転換(再転換も含む)制度を設けることを提言している。「非正規雇用」から「正社員」になれるルートを設けることで、正規と非正規の格差問題の是正を図ろうというものである。正規雇用の枠を広げて非正規雇用をそこに吸収しようという仕組みと言っても良いだろう。

同報告書は、「労働者のワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を同時に可能とするような、労使双方にとって望ましい働き方の実現」が必要だという問題意識を示し、その答えとして、「多様な正社員」を提言している。

具体的には勤務地限定正社員(育児や介護で転勤が難しいなど)、職務限定正社員(金融・I Tなどのプロフェッショナルなど)、勤務時間限定正社員(育児や介護で長時間勤務が難しいなど)の三つが挙げられている。こうした正社員の雇用区分を一つ以上導入している企業は約5割ある。また、同報告書の資料によれば、約2000社(従業員約158万人)を対象とした調査で「多様な正社員」は従業員ベースで約33%を占めている。従来の一般職から移行した人が多いのではないかと思われる。

  • 「限定正社員」=「ジョブ型正社員」

この「限定正社員」は、「ジョブ型正社員」とも呼ばれることが一般的である。政府の規制改革会議雇用ワーキング・グループ座長(2013〜2016年)を務めた鶴光太郎(慶應大学教授)は、ジョブ型を―職務、勤務地、労働時間のいずれかが限定された正社員の雇用形態を指す―と定義しており、「ジョブ型正社員」という呼称はそうした捉え方からの発想だろう。

今回の大企業のジョブ型移行は、本丸である「無限定正社員」のジョブ型転換を目指しているのであり、同じ土俵の話ではない。ではなぜこの話をするかというと、「多様な正社員」を検討する過程で、解雇規制が議論されているからである。今後、解雇規制の議論が出てきた時に参考になると思われるので、重要と思われるポイントを押さえておきたい。

◆ジョブ型で解雇規制はどうなるのか

  • 解雇規制をめぐる論点を整理する

ジョブ型雇用転換によって、「解雇規制」がどう変わるのか(変わらないのか)は重要な問題である。この問題を考えるにあたって、前述の有識者懇談会の報告書の中で「ジョブ型正社員」における解雇規制に関する見解が示されているので、それを参考にしながら論点を確認しておきたい。

議論のベースを理解するために、解雇規制について濱口の見解を以下整理した。ここでは解雇規制を「整理解雇」と「能力不足解雇」に分けて考える。

  • メンバーシップ型:整理解雇×(できない)、能力不足解雇×(できない)(*注2)
  • ジョブ型(欧州):整理解雇(ジョブがなくなればできる)、能力不足解雇×(一般層の人事評価をしないので解雇は困難)
  • ジョブ型上位層(人事評価があり、パフォーマンスが悪いと解雇もある):整理解雇、能力不足解雇である

⇨ジョブ型上位層という例外をあたかもジョブ型の特徴であるかのようにいうのは誤解であり、議論をミスリーディングする(濱口)

では次に「ジョブ型正社員(多様な雇用形態)」は有識者懇談会でどう解釈されているのかを以下整理した。

  • 「整理解雇」×:理由は、「勤務地や職務が限定されていても・・・整理解雇法理を否定する裁判例はない」である
  • 「能力不足解雇」×:「高度な専門性を伴わない職務限定では、警告に加え、教育訓練、配置転換、降格等が求められる傾向が見られる」としている。パフォーマンス評価での解雇はハードルが高いということなので×と考える
  • ただし「高度な専門性を伴う職務や他の職務と明確に区別された職務に限定されている場合」は例外であり、「整理解雇」である金融やI Tのような高度な専門性が必要な職務は金銭解決(退職金上乗せや再就職支援)による整理解雇はアリという解釈である
  • 同じ理由で、「能力不足解雇」もである:「教育訓練、配置転換、降格等が不要とされる場合もあるが、改善の機会を付与するための警告は、必要とされる傾向が見られる」。慎重な言い回しであるが、警告だけでもいいのでとした

以上をまとめると、一般的な「ジョブ型正社員」は、「整理解雇」は×、「能力不足解雇」も×。ただし高度な専門性が必要な職務では「整理解雇」○、「能力不足解雇」となる。これはジョブ型上位層と同じである。

この解釈が、そのまま「無限定正社員」のジョブ型転換で適用されるかわからない。ただジョブの専門性を巡ってどこに線引きをすべきかという議論は出てくるだろう。その際に、企業も労働者も「いいとこ取り」をしようとするかもしれない。企業側は、「整理解雇」、「能力不足解雇」としたいとすると、労働者側は、従来の判例法理を持ち出して「整理解雇」は×、そして「能力不足解雇」も×を主張するのではないだろうか。繰り返しになるが、ジョブ型の正しい理解は、「整理解雇」○、「能力不足解雇」×である。

◆まとめ

  • 総論

日本企業がジョブ型を導入するのは、①グローバル化②デジタル化③リベラル化――という経済・社会環境の変化に雇用システムが機能不全を起こしているという認識があるからだ。そこで、①グローバル基準に合わせる②人材の流動化を促してデジタル人材を発掘・育成する③リベラルな労働環境を実現する――を目的としてジョブ型を導入しようとしているのである。

その特徴は、全面的にジョブ型に転換するのではなく、従来の慣行を残しながらジョブ型を取り入れるというハイブリット形式にある。日本的な「ジョブ型雇用」と言ってもいいだろう。ただし両システムには長所もあれば短所もある。両方の長所が発揮されることへの期待は大きいが、反対に短所が現れてくる可能性もある。また企業の個別事情に依存する部分も大きい。今後の運用過程で試行錯誤が続くと考えるべきだろう。

ただ、社会環境は変化しており、若者の早期離職の増加に見られるように転職に対する抵抗感が少なくなっていることは、ジョブ型普及の後押しになると思われる。新卒(大卒)入社の3年以内離職率は31.2%、従業員1000人以上の企業に限っても24.7%と高い(*注3)。なお、正社員全体で見た離職者数は年間300万人を超えて推移しており、日本全体の正社員数(約3500万)人と比べて低い水準とは言えない(*注4)。

こうした意識の変化の背景には、社会のリベラル化の影響があるだろう。自由で多様な価値観は、柔軟な働き方を求める。また、新型コロナ禍による在宅勤務の増加や仕事のデジタルシフトも変化を加速化しているだろう。メンバーシップ型の「会社管理」ではなく、ジョブ型の「自由」なキャリア形成を支持する人は増えていくと思われる。

  • 課題:「リスキリング」

人事制度の大きな改革は、どうしても不利益を被る人たちが出てきて、年齢層による差が大きいという問題を抱える。そうした問題を乗り越えて改革を進めるには、「目的」を明確に示して社員の理解を深める努力をすること、そして経営者の強いリーダーシップが重要だ。すでにジョブ型導入を決定した会社は、そうした要件を満たしていると考えると、実施面での課題は、デジタルテクノロジーを活用して製品の付加価値を高めたり、生産性を上げたりすることである。そのために「日本的ジョブ型雇用」が目指すのは、「社内」労働市場の流動化と既存の社員の「スキルアップ」に軸足を置いた改革である。

企業がリベラルで働きやすい労働環境を整え、学習ツール・研修メニューを充実させてサポートする体制を作り、自律的キャリア形成に目覚めた社員が高いモチベーションで「リスキリング(学び直し)」に挑戦する。企業がジョブ型雇用導入に期待するシナリオである。今後の課題として「リスキリング」の重みが増しているといえるだろう。

さて、ジョブ型導入へ動き出した企業の中で先頭を走っているのは、日立である。濱口も日立は「本気」であると述べていた。その日立が、自社のジョブ型導入についてホームページで解説している。その中に興味深い一文があったのでご紹介したい。

  • ジョブ型社会の現実を垣間見る

日立の人財統括本部の担当者(*注5)は、「この10年日立が一番変わったのは、生え抜きの役員が減ったこと。社外からくる。外国人もいる」と率直に話す。続けて「この会社はずっと頑張っても、必ずしもトップにまで上り詰められるとは限らない時代になったというメッセージは社員にはすでに伝わっているのかもしれない」と語る。そして最後に「本当にプロの経営者になろうとするなら、日立でキャリアを積み上げていくのがいいのか、あるいは他の会社を一度は経験した方がチャンスは膨らむのか、もうすでに考え始めていると思う」という言葉で結ぶ。これを読んで、日立はジョブ型社会の本質を理解していると感じた。

会社を一つのピラミッドと見立てると、従来のメンバーシップ型においては、新卒一括採用でピラミッドの一番下から入社して、出世競争をしながら上位階層に昇っていき、仲間の一人が社長になる。ここでは誰にでもチャンスがあるという意味で平等主義が貫かれており、それが強い帰属意識を生んで会社の活力となっていた。

しかしジョブ型は違う。ピラミッドの階層が分かれており、違う入り口から入って同じ階層で働き続ける。学歴や資格による能力主義的階級社会なのである。したがって経営層エリートは最初から少数で十分である。

今までライフを犠牲にしてもワーク(会社)のために忠誠を尽くしてきた無限定正社員にとって、これは残酷な現実だ。そしてそれは、日本企業にとって「強み」であった平等主義による求心力が失われてしまうことでもある。ジョブ型雇用は、企業のあり方を変えていくだろう。

  • 日本にルーツを持つグローバル企業の強みを確立する

日本企業はどこに向かうか。日本のメンバーシップ型雇用においては経営者と労働者は企業というコミュニティーのメンバーである。これを「ウチ」とすると、株主はその「ソト」に存在する。ここ20年ほどの新自由主義的改革とは、「ソト」の存在である株主の発言権を増すことにあった。配当と自社株買いによって株主は潤った。株価が上がれば経営者の報酬も増えた。その分労働者が割を食ったが、コミュニティーの存続のために必要と考えられたし、内部留保で企業体力があるうちは、一生面倒を見てもらえそうだと思って我慢した。しかしこの方法では、さらに加速化する環境変化に対応できないと考えた経営者は、最後の手段として雇用システムに切り込んだというのが現在の姿である。

日本のメンバーシップ型雇用システムが維持困難だというのは事実だ。したがってジョブ型雇用導入はやむを得ないと思う。大切なことは、企業はどこに向かうのかということだ。

それは少なくとも、米国流の企業を株主と経営者の力のバランスの上に構築された仕組みと考えて(労働者の不在)、市場価値の最大化を追求する合理主義的な経営手法であって欲しくない。日本企業には別の道があるはずであり、それは原点である「企業理念」に書かれているのではないかと考える。日本の多くの会社に共通するのは、企業理念の中で、「社会」という言葉が重要な位置を占めることだ。例えば日立の企業理念は「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」である。

日本企業はこうした企業理念に立ち返って、「市場」万能ではなく「社会」との共存を重視した経営を目指すべきである。企業は社会と共にあるという意識を、全世界の社員と共有することで求心力が生まれるのだと信じたい。それができたときに初めて日本に軸足を置くグローバル企業として強みを発揮できるのではないだろうか。

<参考書籍>

『ジョブ型雇用社会とは何か――正社員体制の矛盾と転機』(濱口桂一郎著、岩波新書、2021年9月初版)

『日本的ジョブ型雇用』(湯元健治・パーソル総合研究所編著、日経B P、2021年11月初版)

(*注1)2022年11月4日付記事

(*注2)濱口は、こうしたメンバーシップ型の特徴は主に大企業に見られる判例法理を根拠にしたものであり、中小零細企業については異なるとしている

(*注3)厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(2020年度)」

(*注4)正社員(一般労働者・雇用期間の定めなし)の離職者数は2021年で314万人(厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要」)。正社員数は3555万人(総務省統計局「労働力調査」2021年)

(*注5)人財統括本部シニアエバンジェリスト高木真樹氏と一橋ビジネススクール楠木教授の対談の形式

コメント

コメントを残す