п»ї 「格差と貧困」という視点:「社会保障改革について」その1 『視点を磨き、視野を広げる』第32回 | ニュース屋台村

「格差と貧困」という視点:「社会保障改革について」その1
『視点を磨き、視野を広げる』第32回

7月 17日 2019年 経済

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古川弘介(ふるかわ・こうすけ)

海外勤務が長く、日本を外から眺めることが多かった。帰国後、日本の社会をより深く知りたいと思い読書会を続けている。最近常勤の仕事から離れ、オープン・カレッジに通い始めた。

本稿の狙い

前稿まで5回にわたって日本の格差と貧困の現状をみてきたが、今回から格差・貧困対策としての社会保障のありかたについて考えてみたい。現在行われている参議院議員選挙では、社会保障が最大の争点となっている。老後資金「2000万円」問題をきっかけにして、野党は年金を始めとする社会保障の拡充を主張して与党を批判している。各政党の公約をみると、与党も含めてすべての党が具体的な政策を列挙して社会保障の充実を訴えている。それでいて今回の消費税増税に賛成しているのは与党2党だけであり、野党はすべて反対(凍結含む)している。しかし財源をどうするのかについて、野党の公約を見ても説得力のある答えは見当たらない(*注1)。選挙受けする社会保障給付の増加を並べて、不人気の増税は先送りにするという姿勢が見てとれる。一方自民党は、消費税増税を「全世代を対象とする社会保障の充実」と「財政再建」に充てるとしており(*注2)、社会保障の持続性に配慮している点は野党よりまだ救いがある。

とは言え、自民党の味方をしようというわけではない。むしろ野党に頑張ってもらいたいと思っている。なぜなら、政権交代こそが政治に緊張感を与え健全性をもたらすと考えているからだ。しかし、今回の野党のように「負担」を言わず「給付」増だけの人気取り政策をみていると、近い将来再び政権を担うという「志」を失ってしまったようで非常に残念である。だれでも年金は多いほうがいいし、貧困層を救済すべきだと思っている。しかし、現在の社会保障の問題の大部分は、少子高齢化に起因する構造的なものである。与党も含めすべての政党は、巨額の財政赤字と増え続ける社会保障費を前提にした制度の持続性の検証を行い、「給付」と「負担」のバランスをどう取るのかを説明してほしい。それがあって初めて、有権者に対して痛みを伴う改革が不可避だと理解を求めることができるのである。ただそのためには、目指すべき社会像の提示が必要だ。そこに自民党と野党の政治理念の違いが表現されることによって、「選択」が可能になるのである。

もっとも、すべての責任を政党に帰することはフェアではないだろう。わたしたち有権者も社会保障の現状に関する正確な知識を持つべきであり、それによって社会のあり方を考えなければいけない重要な時代の節目に来ていると思う。そう考えて、今回は社会保障について勉強した。必要な資料は、厚生労働省のホームページから簡単に入手できるので、基本的知識はこれで十分だ。また行政側の視点だけではなく、学者や専門家による批判的考察も欠かせないので、これはと思う本を何冊か選んで読んだ(参考書籍リスト参照)。

本稿においては、まず社会保障の仕組みを確認したい。次にその課題を整理することで、改革に向けての方向性の基本を押さえることができればと願っている。

社会保障の目的・機能・特徴

・社会保障の目的:疾病や失業、労働災害、退職などで生活が不安定になった時に、健康保険や年金、社会福祉制度など法律に基づく公的な仕組みを活用して、健やかで安心な生活を保障すること→社会保障の目的は「生活に安心を与えること」

・社会保障の機能

①生活安定向上機能:人生のリスクに対し、生活の安定を実現する(病気→医療保険、退職後→老齢年金・介護保険、失業→雇用保険など)

②所得再分配機能:所得を個人や世帯の間で移転させることにより生活の安定を図る(生活保護、公的年金、医療などの現物給付)

③経済安定機能:景気の変動を緩和し、経済成長を支える(雇用保険、公的年金)

・日本の社会保障の特徴

①国民皆保険・皆年金制度の確立:日本の健康保険・年金は戦時体制に起源をもち、生産力増強のための労働者福祉の一環として導入された(*注3)。戦後は平和主義と並んで福祉国家建設が日本の国是となり、1961年に国民皆保険・皆年金制度が確立された。この皆保険・皆年金制度を中核として、雇用保険、社会福祉、生活保護、介護保険等の諸制度が組み合わされて日本の社会保障制度は構築されている。健康保険や厚生年金は企業が保険料の半分を負担することで成立しており、システムの中軸に企業が位置づけられている。

②企業による雇用保障:日本型企業モデル(終身雇用、年功賃金)(*注4)は正社員の雇用を保障したので、失業率を低水準に抑えることができた。企業はこうして生活保障の中心的役割を果たすことで社会の安定に寄与した。企業による安定した雇用と充実した福利厚生、労使協調による定昇とベア(給与水準の引き上げ)の恩恵によって日本の労働者全体の生活水準が向上し、再分配前の所得における平等度が高められた(*注5)。こうして正社員からなる分厚い中間層が支える日本型の平等社会が形成された。

③世帯単位のモデル:男性正社員の夫と専業主婦からなる「世帯」をモデルとして社会を捉えており、世帯単位の平等を志向した。また、日本型企業モデルにおいては、終身雇用の代償として男性正社員は長時間労働、転勤を強いられ、女性が専業主婦となり家事、育児・教育、介護をケアするという、男は仕事、女は家庭という性別役割分担意識が形成された。

④高齢者世代向け中心の社会保障支出:年金、医療の占める割合が高いため、その恩恵を最も受ける高齢者世代向け給付の比重が大きくなる。一方、現役世代向け支出は、上記②の企業と③の世帯(家族)が生活保障の中核を担ってきたため、少額に抑えられている。その結果、社会保障の再分配機能による格差是正が高齢者に偏り、現役世代に対しては十分に機能していないという問題をもつ。

社会保障の課題と対策

・経済・社会構造の変化

①日本型企業(雇用)モデルの限界(上記「特徴」の①②に影響):経済のグローバル化、新興国の台頭による国際的な競争激化によって、コスト削減圧力が強まり、企業は、日本型企業(雇用)モデルを守るために、正社員の採用を抑制し非正規雇用を増やした。その結果、非正規比率の上昇が続き、現在では4割近くが非正規雇用となった。経営者側からは、今後は終身雇用の維持が困難になるとして、雇用のいっそうの弾力化を要望する声が高まるなど、日本型企業(雇用)モデルは、持続性への不安が広がりつつある。

②世帯構造・類型の変化(上記「特徴」の③に影響):戦後の高度成長とそれに伴う生活様式や家族のあり方の変化は、日本社会の世帯構造と世帯類型を大きく変えた。表1にあるように平成の約30年間における変化をみると、世帯構造においては、「(a)単独世帯」と「(b)夫婦のみ世帯」の世帯数と世帯割合の急増、「(c)夫婦と子どものみ世帯」の世帯割合の減少が特徴的である。「(a)単独世帯」は、787万世帯(1989年)から1361万世帯(2017年)に倍増しており、「(b)夫婦のみ世帯」も632万世帯(同)から1210万世帯(同)に同じく倍増している。両世帯を合計(a+b)した全世帯に占める割合は、36.0%(同)から51.0%(同)に増えており、すでに過半数を超えている。一方、「(c)夫婦と子のみ世帯」の割合は、39.3%(同)から29.5%(同)に減少しており、もはや社会保障制度が前提としていた最も一般的な世帯構造とは言えなくなっているのである。

また、世帯類型においては、「高齢者世帯(65歳以上のみ世帯)」が306万世帯(同)から1322万世帯(同)に急増している点が特筆される。「母子家庭」は55万世帯(同)から77万世帯(同)に漸増傾向にある。

こうした世帯構造と類型の変化を反映して、世帯人員は3.10人(同)から2.47人(同)に減少し、世帯数は3942万世帯(同)から5043万世帯(同)に増加している。(*注6)

③少子高齢化の急速な進展(上記「特徴」の④に影響):日本の年金制度は現役世代が高齢者世代を支える仕組みであるが、少子化と平均寿命の伸びによる高齢者世代の増加によって、現役世代の負担が増しており、制度の持続性に対する不安が高まっている。表2にみるように、皆年金が確立された頃と同時期の1960年と現在(2017年)を比較すると、「65歳以上」人口は、540万人から3515万人と約7倍に急増し、この結果高齢化率は5.7%から27.7%に増えている。高齢化率は今後も上昇を続け、2060年には高齢者が人口の約4割になる。それを反映して、年金や医療費といった社会保険支出も増え続けることが予測されており、財政面の裏付けを含めた社会保障改革は不可避なのである。

・社会保障の課題

①日本の社会保障は、正社員としての安定した雇用が支えるシステムであった。正社員比率が高かった時代(1984年の正社員比率は84.7%)は有効であったが、非正規雇用が増えて比率が4割近くになると問題が生じた。すなわち、正社員が非正規になれば、それまでの厚生年金が国民年金に代わる、あるいは失業すれば無年金状態に陥る可能性さえ出てくる。医療保険も同様の問題を抱える。また、非正規が長いと雇用保険の受給要件を満たさない場合も多い。失業して生活保護に助けを求めても、要件が厳しく受給は容易ではない。非正規雇用者にとってはセーフティネットの網の目は粗(あら)く、あっという間にアンダークラスに落ち込んで抜け出せなくなってしまうリスクと常に隣合わせだ。社会保障の再分配機能の見直しが必要であるが、下記③で述べるように財政の制約の中での改革は、痛みを伴う可能性が高い。さらに制度の見直しだけでなく、雇用モデルと一体の問題として考えていく必要があるが、既得権益層の反対も予想されるため、難易度が高い課題である。

②家族の規模・機能の縮小と単独世帯の増加という特徴を持つ世帯構造の変化は、社会保障の役割を拡大している。例えば、家族規模の縮小で、従来家庭の中で対処されていた高齢者の介護が困難になり、代わって行政が担うために介護保険がつくられた。また、高齢単独世帯の増加は、貧困率上昇の要因となっており、生活保護などの社会扶助の対象者の増大をもたらしている。さらに、女性の就業は、少子高齢化を背景とした労働力不足によって社会的な要請となっているが、その一方で女性は少子化対策のために子供を生むように期待されている。両方の要請に応えるために、女性が働きながら子育てできるような就労と育児環境の整備などの公的支援が行われている。ただし、働く女性の「社会進出」というポジティブなイメージの影で母子家庭の問題が存在する。母子家庭の貧困率は50%を超えており、将来的な貧困の連鎖を生み出す問題であることから、総合的な対策強化が課題である。このように社会構造の変化によって、社会保障の対象も規模も一層の拡大を求められているのである。

③社会保障給付金は118兆円(2016年度予算ベース)と巨額である。うち年金が57兆円(48%)、医療が38兆円(32%)と両方で8割を占め、福祉・その他は約24兆で2割である。しかもその約半分の10兆円が介護なので、残る1割強で子供・子育て、生活保護などを賄っている状態である。高齢者向けの社会保障給付は今後も増え続け、一方で現役世代の非正規雇用者への支援が十分に行われないという問題が顕在化しているわけであるが、年金や医療への給付を福祉に回すことは政治的なハードルが高く、増加額を抑制する努力だけで手いっぱいのように見える。

・課題解決に向けての考え方の基本を押さえる

①正規労働者と非正規労働者の所得格差の解消のためには、(i)就労支援や再教育支援によって非正規から正規労働者への移行を促進する、(ii)同一労働・同一賃金を実現することで賃金格差を縮小する、という二つの方向性を追求していく必要がある。前者に関しては、就職氷河期世代の非正規労働者に対する就労促進がスタートしている(「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」)。また後者については、政府の働き方改革の一環として取り組みが行われている。なお、中長期的課題としては、企業に依存するかたちで日本型企業モデルが果たしていた不確実性縮減機能を、公的なセーフティネットの拡充によって代替するという考え方がある。環境変化に対応して新しい「安心」の仕組みを構築するためには、こうした抜本的改革も選択肢の一つとして幅広に議論していくべきではないだろうか。

②社会構造の変化によって、社会保障の対象も規模も拡大を求められている。高齢単独世帯扶助拡大、子育て支援強化、貧困の連鎖を防ぐための教育支援の拡充など、早急な対策実行、拡大が必要な案件が目白押しであるが、社会保障費が年々膨れ上がっている中、問題は追加の財源確保である。

③年金にせよ、医療費にせよ制度の持続性は、すでに税金投入によって担保されるようになっている。政府が財政破綻すれば、社会保障は保険方式であっても維持が困難になってしまう。したがって社会保障は財政問題と一体で考えるべきなのである。

本稿の結論

社会保障制度の課題を整理すると、①皆保険・皆年金制度の持続性への懸念の高まり②セーフティネット拡充への対応(予算の増大、制度の再整備、捕捉率の向上)――の二つに要約される。①は社会保障制度の根幹に関わる問題であり、②は社会構造の変化に対応して社会保障制度を再編成すべきだという主張である。しかし、社会保障制度は社会構造という基盤の上に成立しており、次に述べるように構造の根幹をなす「雇用」と「財政」という二つの要因を考慮しなければ、現実的な問題解決にはたどり着けない、というのが本稿の結論である。

論点1:日本型企業(雇用)モデルの限界

日本の社会保障は、企業による雇用保障(終身雇用)によって支えられていた。しかし、経済のグローバル化によって絶え間ないコスト削減競争に直面した企業が、正規雇用を抑制して非正規雇用を増やした結果、非正規比率は全体の4割近くまで増加している。さらに企業からは終身雇用の長期的維持は困難という声が出始めている。

一方で、企業業績は好調が続き、企業は内部留保を446兆円(*注8)もため込んでおり、付加価値のうち労働者の取り分の割合を示す労働分配率は低下(*注9)が続いているという事実がある。終身雇用についても制度が崩壊したわけではなく、企業がコスト削減のために正規雇用を減らして非正規を増やしていることが問題なのである。そうであれば、企業に新卒の正規雇用を増やしたり、正規雇用の中途採用を増加するように求めたりしていくのが正論であるし、企業側にもそれに応える動きが見られる。ただこれだけ非正規比率が高まると、大部分が正規雇用であった時代に戻すのは無理ではないかと考えている。また、ITやバイオなどの新しい企業においては、旧来の大企業型の垂直統合組織ではなく、素早い意思決定を可能とするとともに仕事への意欲を引き出す水平分業型組織が成功を収めているが、そこでは終身雇用や年功序列にとらわれない組織作りがみられる。このような働き方の多様化の中で、ただ単に昔のやり方に戻すことは時代の潮流に逆行しているだけではないだろうか。企業活力を高めることで成長につなげて、その結果雇用や所得の増加が生まれるという好循環を目指すべきだという意見は説得力を持つ。この点に関しては、前稿で紹介したようにEU(欧州連合)が加盟国に推奨する「フレキシキュリティー」という雇用戦略が興味深い。解雇規制緩和などで労働市場を柔軟にして成長産業に労働力の移動をしやすくするが、一方で失業時のセーフティネットを手厚くして労働者の生活の安全を守るというものである。国家が社会保障を充実させることで雇用者の(失業という)不確実性を縮減するとともに、他方で企業を雇用の義務から開放することで企業活動を活性化させようという政策といえる。その基盤となるのは、高税率の所得税と消費税が支える高福祉・高負担システムであり、そのままでは日本に適用できないが、こうした成功モデルから学べる点はあるのではないだろうか。さらに同じ考え方の延長上に「ベーシックインカム(最低限所得補償)」がある。こうした新しいアイデアについて次稿以降でご紹介したいと思う。

論点2:財政問題

日本の国家財政は毎年赤字を続けており、債務残高はGDP(国内総生産)の2倍を超えて更に増加を続けている。政府の歳出は2016年度で96.7兆円、これに対して税収は62.3兆円で残りは借金である。歳出の内訳では社会保障費が32.0兆円(33.1%)あり、最大の割合を占めていることからわかる通り、増大する社会保障費が政府債務増加の最大の要因となっているのである。

こうして投入された税金と保険料収入でまかなわれる社会保障給付費は、年間118.3兆円に達する。GDPの22.8%と巨額だ。高齢化はまだまだ進むので、社会保障給付費は今後も拡大を続ける。給付の抑制に努めたとしても給付は増えていくので増税するしかない。政府が打ち出している「社会保障と税の一体改革」はそれへの回答であるが、今後も増大が予測される社会保障費に対応するには、さらなる増税が必要であることにかわりない。また、今回の「社会保障と税の一体改革」は、民主党野田政権時代の3党合意(*注10)に基づくことが示すように、社会保障と税の問題は国民に負担を求める必要があるため、本来は政争の具にすべきではない。痛みを伴う改革は不可避であり、それゆえに国会での議論を積み重ねることで国民に目指すべき社会像を提示して、粘り強く説得していくことが、政治の使命なのではないだろうか。

このように、社会保障制度は財政、さらに雇用のあり方と相互依存関係にあり、三つを関連付けながらどう改革していくかを考えていかなければならないのである。次稿では、下記の参考図書から得られた示唆に富む意見をご紹介したい。

<参考図書>

『平成24年版厚生労働白書―社会保障を考える』厚生労働省ホームページ

『教養としての社会保障』香取照幸著 (東洋経済新報社、2017年)

『格差社会――何が問題なのか』橘木俊詔著 (岩波新書、2006年)

『貧困を救うのは、ベーシック・インカムか社会保障改革か』橘木俊詔、山森亮著(人文書院2009年)

『ベーシック・インカム』原田泰著 (中公新書、2015年)

(*注1)「参院選 主な政党の公約」(朝日新聞2019年7月3日付)を参考にした。その中で日本維新の会が、公的年金の「賦課方式」から「積立方式」への移行をあげているのは抜本解決策であり興味深い。ただ詳細がわからず実現可能性に疑問がもたれ、現時点で本気度はわからない。また、自民党の安倍首相が、消費税を10%に引き上げた後「10年間増税は必要ない」と、選挙を意識した無責任発言をしているのは残念である。

(*注2)現在政府が進めている「社会保障と税の一体改革」は、「社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すもの」と位置づけられる。関連法案は2013(平成25)年12月に成立。政府は、「消費税率の引上げ分は、全額、社会保障の充実と安定に使われる。社会保障制度は、すべての世代が安心・納得できる全世代型へ改革される」としている(内閣官房ホームページより)

(*注3)医療保険は、1922年に制定された健康保険制度を母体として1938年「国民健康保険法」、1939年「職員健康保険法」が制定された。また、1941年に「労働者年金保険法」が制定され、これを母体に1944年に「厚生年金」ができた。これらの施策の目的は「戦時において動員された大量の労働者に対する最低の生活保障」であった。(野口悠紀雄『1940年体制―さらば戦時経済』より)

(*注4)日本型企業モデル:終身雇用、年功序列賃金、企業別組合といった特徴を持つ企業モデルを指す。第2次世界大戦期の総力戦体制構築のための生産力増強を目的に、1940年前後に政府主導で導入された。占領期の経済民主化政策に合致していたため生き残り、戦後の高度成長に寄与した。

(*注5)原田泰は、市場所得(再分配前の所得)では日本は平等な国であるが、再分配後の平等度が高くないこと、その理由は個人への所得再分配がすくないことを指摘している。(原田泰『ベーシック・インカム』より)

(*注6)2017(平成29)年「国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)より計数を抜粋。なお、世帯構造の「夫婦と子のみ世帯」は「未婚」の子のみ。世帯類型の「高齢者世帯」は65歳以上の高齢者のみで構成するか、これに「18歳未満の未婚の子が加わった世帯」と定義されている。

(*注7)原資料には一部に「その他(不詳)」という項目があり、1980年7万人、2000年23万人である。この数字を加えると総人口になる。他の年次は「その他(不詳)」は無い。

(*注8)内部留保:企業の貸借対照表の利益剰余金の金額。企業が利益から配当や設備投資に回さずに溜め込んだお金。(出所:財務省の平成29年度「法人企業統計調査」)

(*注9)労働分配率:企業が生み出した付加価値のうち賃金など労働者が手にする割合。2015、16年度は1990年度以来の低い水準となっている。企業業績は好調で、人件費は横ばいが続いているので、企業の取り分が(企業利益)が歴史的高水準となっている。(資料:「歴史的な水準まで低下した労働分配率」三菱UFJリサーチ&コンサルティング2018年1月10日付レポート)

(*注10)3党合意:2012年の民主党政権下(野田内閣)において、民主党、自由民主党、公明党の3党間において取り決められた、社会保障と税の一体改革に関する合意。本合意により、社会保障改革の方針(消費税増税と年金改正、子育て支援など)がすり合わされ、関連法案が同年の国会で成立した。(出所:Wikipedia)

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