引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆関わるのが楽しい
今年度から埼玉福祉保育医療製菓調理専門学校(さいたま市大宮区)の社会福祉士養成講座で「社会理論と社会システム」を講義することになった。社会福祉士の国家試験の合格を目標に、実務経験や4年制大学の卒業等が入学資格となっているため、学生は明確に福祉分野で働くためのスキルアップのためにその門を叩いている。
社会福祉士の受験資格を得るという目的の中で、私が担当する科目は社会学の基礎などを学ぶもので、この学校に限らず、社会福祉士を目指す方にとっては退屈ですこぶる評判が悪い科目のようだ。しかし、今回私が引き受けたのは、この科目、社会学を学ぶことで仕事の幅が広がり、支援が面白い。
人と関わるのが楽しい、と思える素地が作られると思うからである。確実に福祉領域の中心的な役割を果たす学生のみなさんに、その仕事の質を上げて楽しい仕事をするための、よい時間になればと深く考えて、講義を工夫したい。
◆福祉の中の社会学
この専門学校とは2018年度から3年にわたり、障がい者のライフステージに関わる仕事に向けて、新しい学びのプログラムを構築する文部科学省の実践研究を共同で行った経緯がある。その時から、社会福祉士をはじめとする福祉領域で働く人たちが、支援が必要な人への幅の広い、未来を意識した、ライフステージに関われる支援をするためには福祉学だけではなく、社会学と教育学の素地が必要と説いてきた。
この取り組みは途中、コロナ禍により集合型の講義が中断され、オンラインでの開催で対応し、教材そのものは開発したものの、その後の活用・展開のエネルギーは残っていなかった。そんな中で同校での「社会学」を講じることは個人の思いからも、「福祉の中の社会学」の再構築の意味もある。
そして何よりも私自身が支援の中で社会学の視点を持つことで、仕事が充実するとの確信もある。これからは、その確信を、一緒に学び合いにしていくのが大きな喜びだ。
◆ストーリーづくりがカギ
この社会学。テキストは「社会理論と社会システム」と題され、なおさらに取っつきにくい印象がある。初回はオリエンテーションとして、社会学の創始者であるフランスのコントを源流としながら、イギリスのスペンサーやフランのデュルケーム、ドイツのマックス・ウェーバーら近代社会学の基本の話をしたが、それらの名前たちは実社会とは遠すぎて、名前を出したとたんに学生たちが遠のいていく印象だ。
近代国家の礎を気づいた板垣退助や森有礼らがスペンサーからも学んだことなどの話を差し込むと少しは関心を寄せてくれるかもしれないが、社会福祉士の試験はそこまでは求めないらしい。もちろん、学生らは社会福祉士になるため、そして講義する私への作法として一生懸命聞いてくれるのだが、それが自分事にならないと心にすっと入ってはこないだろう。各理論を支援に結びつけるストーリーづくりが今後の鍵に握りそうである。
◆問題を論じ合いながら
社会学は社会問題の学びであり、人と人の関係の学問ともいえる。学生に関心のある問題を聞いたところ、「人口問題」との返答。これはさまざま領域から語られる問題であるが、社会を結成する単位の人の数の問題は大きい。
人口減の課題は誰もが危機意識を持ちながら、政府が異次元の少子化対策をするまでになっている。例えば、恵泉女学園大学の学生募集の停止は少子化の結果でもある。現在ある大学のうち学生数を確保できる割合は当然ながら人がいないことで淘汰(とうた)される。しかし地域での高等教育機関は残さなければいけないから、私立大学を公立化する動きもある。その中で恵泉女学園大学のようなキリスト教教育をする学校が公立化できない実態もある。
ここに日本社会特有の政教分離の考えや法律が介在してくる。人口減少というマクロな社会と宗教に関する法律、そして東京郊外にあるという事実などマクロとミクロの社会問題が募集停止という事実に結びついている。
1つの問題から論じ合いながら社会理論に結び付けて、社会学を自分のものにして、支援活動に役立ててもらいたいと思う。そんな講義を作りたく、これから工夫を重ねる日々が始まる。
コメントを残す