引地達也(ひきち・たつや)
法定外シャローム大学学長、一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆ちょっと遠い寛容性
3月末に女性同士の結婚式に招待され、出席した。
場所はオーストラリアのキャンベラ郊外。日本に留学していた四半世紀前の知り合いのオーストラリア人の女性だが、レズビアンだと知ったのはここ数年のこと。実際に彼女には「生理学的な」夫がいて、その間に二人の子供がいる。
今回の結婚は一昨年に同国での同性婚の合法化を受け、2人の子供の母の立場を保ちながら、愛するオーストラリア人女性と一つの家庭を築くための大事な通過点。両家の家族はもちろん、生理学的な優しい元夫や親戚、友人たち約120人が集まり、自然に囲まれた小屋の中で盛大なセレモニーとパーティーが行われた。
LGBTを取り巻くコミュニティーは合法化された制度とその事実によっても作られるし、同時に制度を作ろうとするコミュニティーの総意が雰囲気を作り上げる。それは多様性への寛容さが基本であることは間違いないが、私たちの国や社会がそこにたどり着けるかは、ちょっと遠そうな印象だ。
◆町にレインボー
オーストラリアが同性婚を合法化したのは2017年12月。その1か月前にオーストラリア政府は強制力のない郵便投票の形で、同性婚の是非を国民に募り、61.6%が賛成した。これを「賛成多数」と判断し、法案は議論を戦わすことなく、無修正で可決した。
当日の報道では、オーストラリア議会の内外や街角に同性愛者を象徴するレインボー模様の旗やデコレーションで祝う姿があちらこちらで見られたようだが、私自身、合法化前と後では、街角でレインボー模様が目に付きやすくなったのは気のせいではないと思う。
2000年に入り、同性婚が合法化された歴史は確実に欧州を中心に広がっている。オランダを皮切りにベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、イギリス、フランス、ポルトガル、ドイツなどの欧州、南アフリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチンなど、全世界で30か国近くに及ぶうちアジアでは今年成立した台湾が初めて。
日本では正式な法律ではない「パートナーシップ制度」が2015年に東京都渋谷区で始まり、同じような制度が東京都世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市で始まっている。
◆あるのは友人の幸せ
出席したこのオーストラリアのパーティーは、結婚した私の友人が大学に所属する芸術家であるから、コミュニティーはアカデミック領域の方、そしてゲイやレズビアン、老若男女が入り混じる。詩の朗読や歌、スピーチ、ダンスで盛り上がる。
当初は会場脇のグラウンドでクリケットも予定されたが、季節外れの風雨で中止。その代わりに外でたき火を囲んで語らう人もいた。新しいカップルの誕生を真ん中に、誰もが幸福に過ごしている様子は参加者としてストレスなく気持ちがよい。
日本の結婚式と同様に本人や両親のスピーチも涙とともに披露されたが、同性婚であるという特殊性を認識することは皆無だ。あるのは2人の幸せを心から祝福しようとする自然な思いだけ。最後には、パートナーの1人がスピーチで締めくくった。
「このパーティーで来られた方とのコミュニティーが幸せになる人を増やしていく」。
◆正面から議論しよう
結婚を祝福するパーティーはコミュニティー形成の場でもあり、この2人の幸せの門出に議論の余地などない。
日本から唯一の客であった私と妻に多くのオーストラリア人があいさつとともに職業を聞いてくるので、「障がい者向けの学校を作った」という話をすると、その反応に驚きはない。障がい者向けの学習が日本より充実しているオーストラリアでは、手法について本質的な議論ができる。
この基礎は同性婚を認める社会につながっていると思う。LGBTを「生産性がない」と口走る与党の現職議員がおり、それを擁護する論客がいる中で、この考えを正面から受け止め、そして反論し、同成婚の可能性を追求する議論が展開されないのは、新しい結婚の形がどのようなコミュニティーを形成し、社会に「生産性」を持たせるかを説けないからでもある(生産性の議論は無益だとの指摘もあるかもしれないが、いったん議論する可能性は考えたい)。
現在、同性結婚についての裁判も行われているが、同時に身近なところで多様性の議論をすることも必要のような気がする。
■学びで君が花開く! 特別支援が必要な方の学びの場
シャローム大学校
http://www.shalom.wess.or.jp/
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
コメントを残す