引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。文部科学省障害者生涯学習推進アドバイザー、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆当事者から見えるもの
LGBT理解増進法(LGBT法)が6月に施行されたのを受けて、シンポジウム「LGBTQを考える ダイバーシティー雇用とインクルーシブなかたち」をこのほど開催した。ゲイの立場からLGBTQへの理解を推進する「LGBTコミュニティ江戸川」の七崎良輔さんからの話を中心に、発達支援研究所の山本登志哉所長と渡辺忠温主任研究員が質問者として対話する形式で行った。
七崎さんの著書『僕が夫に出会うまで』(文藝春秋)は世界9か国語に翻訳、マンガ化もされるなどの反響を呼んでおり、LGBTQ当事者の世界は潜在的な存在から可視化、実在化され、それが社会の中で融合する方向で動いている中で、反発する人の存在もまた鮮明化している。
七崎さんの話から知る、当事者から見えるものに、理解を進めようとする私も多くの発見があった。マジョリティーによって傷つくマイノリティーの気持ちはやはり対話で知るしかない。コミュニケーションの継続が人の尊厳を維持するのだと、再度確認する機会となった。
◆他人事ではない
七崎さんも説明したのが、一般的に言われるLGBTQの割合は8.9%、13人に1人。これは日本でいうと佐藤、鈴木、高橋、田中の姓の人の合計より多く、左利きの人とほぼ同じ割合である。私たちの周囲には誰かしら上記の姓の人がいることを考えると、おそらく身近にいるのがLGBTQ当事者である。それに気づけば、もはや他人事ではない。
そして、それらをゲイ、レズビアンとひとくくりに表現するのではなく、性の多様性として理解するために以下の四つのパターンで考えると、理解もスムーズである。
それは「こころの性」=自分が認識する性(性自認)、「からだの性」=生まれた時に染色体や内外性器の形状などから判断された性、「好きになる性」=恋愛感情や性的な関心がどの生別に向いているか(性的指向)、「表現する性」=言葉遣いやしぐさ,服装などどんなふうに周りから見られたいか表現する性、である。これらは人によって違いがあり、それぞれに度合いがある。それはグラデーションとしてつながっており、自分がどの度合いにいるかで、その人の性的指向は認識される。
◆無理解の現実
国際的にはSOGI(Sexual Orientation/Gender Identity)との言葉で理解される。これは性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)を指すが、反発する人は「性的嗜好(しこう)」という言い方をする。
嗜好は「嗜(たしな)むこと。常々その物事を好んで親しむこと。また、それぞれの人の好み」(広辞苑)とされるから、当事者にとってはまったく的外れの認識と憤るし、実態を表現してものではないことは確かだ。
このような無理解による攻撃が、自分の性に関する表現が自由にできない社会を形作っており、LGBT法成立後もまだ自由に言える状況からは程遠いのが現実であろう。七崎さんが示した就労に関する以下の問題ではその現実を表している。
「大学キャリアセンターにカミングアウトをし就職活動をしたい旨を伝えたら、どこも受からないと言われた。大学の恥になるからと口止めされた」
大学が学生の多様性を否定するような事例に愕然(がくぜん)とするが、これが私たちの社会で起こっているのである。
◆私たちはつながっている
さらに「職場でレズビアンであるとカミングアウトしたら『治してやる』『男を知れ』と言われ性的暴行を受けた」「就業後の飲み会で、酔った上司から『お前ホモか? 気持ち悪いな、もっと男らしくしろ』と怒鳴られた」「パートナーの存在を隠していたら、単身者だとして転勤させられた」「会社の更衣室・制服・社員寮・宿泊研修棟に男女分けがあり、戸籍性しか利用できなかった」――。
おそらく当事者目線からすれば、枚挙にいとまがないほどに私たちの社会は差別にあふれている。七崎さんと山本所長、渡辺研究員の対話では、その生きづらさを作る社会を客観的に見つつ、人の存在そのものがグラデーションの中にあり、発達障がいも性的指向もすべてがつながっていることの一環として、自分の存在があることの確認ができないか、との問いが出された。
そう、私たちはつながっていることを深く理解し、LGBTQとともにある社会にしたいと思う。
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