引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。文部科学省障害者生涯学習推進アドバイザー、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆公民館に期待
「障害の有無を超えて、共に学び、創るフォーラム」超福祉の学校(主催・NPO法人ピープルデザイン研究所、共催・文部科学省、渋谷区、東京都教育委員会)のシンポジウム「『共に学ぶ』の先にある『共に生きる』を考える」で、静岡県浜松市のNPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長の久保田翠さんは、市街地で障がい者と共に生きる機会を提供する中で、今後の広がりに向けては公民館に期待を寄せている。
「公民館には希望を持っている。中学校区に一つはあり、誰でも歩いて行ける場所にある。これがよくなればという妄想もある」と話す。
それまでの公民館は知的障がい者が「行けない」「怒られる」施設だったことから、訪れる側から自分たちが核となって、任意の公民館である「たけし文化センター」を作り、人に来てもらうようになった経緯を説明した。久保田さんが描く共生社会の舞台として、浜松市の公民館48か所(名称は協働センターもしくはふれあいセンター)は大きな希望にも見える。
◆混ざり合わない場所
生涯学習事業を担う公民館であるが、久保田さんによると、アンケート・ヒアリング調査によりスタッフの個性やスキルで施設のカラーが決まる実態が判明。障害福祉に関わる人や生活保護世帯がスタッフになると、それらの領域を公民館に取り込んでくる。
「福祉の共生社会と文科省の共生社会がバラバラ、市民にとっては通いやすい施設は公民館、通いやすいところで休める、話せる、勉強もできる。そこをうまくやっていくのがよい」と久保田さん。しかしながら公民館には「実際に多様な人が集まっていない」(津田英二・神戸大教授)状況だ。
久保田さんは「たけしがシェアハウスで生活、ヘルパーに支えながら生きている。ヘルパーと一緒にごはんを食べ、一緒に出掛ける。それはものすごく自由だが、下(福祉施設)には降りてこなくなった。自由を手にしたときに施設の不自由が分かった。同じ属性の人は収容所っぽくなってくる。いろんな人が混ざり合わなくなる。その塀をとっていくことがどういうことか」と参加者に問いかけた。
◆トライ&エラーで
津田教授は「公民館の職員の専門性が問われている。多様性を確保していないと、障がいのある人が来なくて当たり前の悪循環になる。これを止めるには公民館に現れる、利用することだと思う」と状況を変えるヒントを提示した。
人が集まる場所を作った久保田さんは「たくさんのお客さんがやってくる。それを障がいのある人が楽しみになる。人はいろんな人から刺激を受けて楽しくなってくる。親子だけでは面白くない、人から刺激を受けてわくわくしながら生きていく。出会ったほうがよい」との前提で、その場所が公民館だと説く。
しかし、そういった場所はなく、多様性の中で赤ちゃんと障がい青年が一緒にいることで事故が起こるリスクを考える人がいる事実が先立つ。それをどう乗り越えていくか。
「失敗をたくさんするのも大切。けがするかもしれない。それは織り込み済みで、人間はトライ・アンド・エラーをしながら、落としどころをそれぞれ作っていく」との信念は揺るぎない。その落としどころは「責任者は大変だが我慢する、それは人間への信頼です」とし、その結果として力がついてくると説明した。
◆ただただ遊ぶ、楽しむ
集団は簡単に「分ける」方向にいく。津田教授も「(スタッフの)力量がないとごちゃごちゃは生まれないのではないか」と問い、久保田さんは、すべては話し合いから始まると説く。
「みんなで話していく、そこでルールができる。排除しなくてけがをさせない。なんとなく答えは見えないが、自分の中でこんなふうであれば大丈夫というラインができてくる。上手な人がいてできるわけではなく、話し合いを起こしていく」
さらに「重度知的障害が(共生社会実現に向けた)考えるきっかけを作る。そういう人たちと出会えるためにも、福祉施設が開いていくと世の中が変わっていく。福祉施設ができない、というときにアートが大事で、内包できるものである。いろんな人を楽しい思いをする。ただただ遊ぶ、楽しむ、一緒にいる」、ということになる。
トラブルは起こるが、学びを提供するのが仕事だという施設が増えると思う」と強調した。福祉を変えるアートの可能性。それはまずは交わることから始まる。そこには確かな希望がある。
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