引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。フェリス女学院大学准教授、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆ロングではなく横幅で
共に学び、生きる共生社会コンファレンス(九州・沖縄ブロック)が大分市でこのほど開催された。テーマは「つなぐ~学校卒業後の学びへ」。大分県では文部科学省の委託研究事業を受託し、県教育庁が県内各地域に呼びかけ、大分大学や地域の公民館で障がい者の生涯学習が取り組まれている。
基調講演で國本真吾・鳥取短期大教授は「ライフロング」と訳される生涯学習について、障がい者を含めた生涯学習の充実には縦の「ロング」ではなく、横幅を広くとる「ワイド」の感覚を取り入れ、障がい者の学びの幅を社会で広げる「ライフワイド」の考えが重要だと指摘した。
そのうえで、障がい者が自宅と職場や通所場所以外の「サードプレイスづくり」の必要性を説いた。
◆「サードプレイス」も重要
國本教授が唱える「ライフワイド」は、自身の学生時代の障がい者との関わりから、実践・研究、地域での音楽活動での気づきなどから得た「生きた知見」として、障がい者の生涯学習を考えるにあたって重要な視点である。
今回のコンファレンスは行政が主催で、大分県教育委員会が受託した研究の成果の発表などの場であり、その枠組みが行政であればあるほど、生涯学習を、従来の位置づけでもあるライフロングの「縦」で考えてしまいがちだ。
國本教授は全国の専攻科の取り組みや福祉サービスを利用した学びの機会など、全国の事例とも関わっており、これら地域性のある障がい者の学びに必要な考え方として特に「ライフワイド」は親和性が高い。ただ、新しい概念はこれまでの取り組みへの見直しなど、受け入れるには地域差・個人差がある。
そのために、國本教授は地域の音楽活動で小学生の頃から「仲間」になった女性の成長を映像と画像で示し、ライフワイドの考え方の実例を示した。この実例には「ワイフワイド」だけではなく「サードプレイス」の重要性も加味され、多くの示唆を与えてくれた。
◆共生コースの開設
大分県では2022年度から文科省から事業受託し生涯学習を研究実践しており、23年度は「生涯を通じた障がい者の学び支援事業」として、「調査」「実践」「普及啓発」を柱とし、モデル公民館での公開講座や大分大での生涯学習講座、独自のポータルサイト「かたろいえ」の運営に力を入れてきたという。
宮崎県立延岡しろやま支援学校高千穂校では、調査研究を経て2023年度に開設した「共生コース」の活動を紹介。これは同じ敷地内にある高千穂高校と年間70~80時間の交流及び共同学習を実施するもので、開設セレモニーに向けて両校は共同で神楽を実演した。
両校は開設に際し「私たちは、これからも、誰もが互いに人格と個性を尊重し支え合い、多様な在り方を相互に認め合うことのできる共生社会の実現・発展に向けて、共に前へ進んで行くことを誓います」と宣言したという。
この日の発表で示された共生コースの「共に、前へ」のキャッチフレーズは今後の共生社会に向けたすがすがしいメッセージとなった。
◆「できることから」鮮明に
「サードプレイスづくり」をテーマにしたシンポジウムでは、コーディネーターの大分県教育庁の馬場尚登・社会教育課参事が障がい者に関する政策を福祉行政に任せてしまう全国的な風潮の中で「教育行政がやること」として「できることからやらなければいけない」との姿勢を鮮明にした。
大分大の岡田正彦教授が、生涯学習講座が学生ボランティア、特別支援学校のメンター、大学スタッフ・大分県社会教育課の3者で運営しているものの、1つの講座が次につながりにくいなどの課題を示した。
サードプレイスづくりに向けては、当事者の学習機会の情報入手が十分ではないことを指摘し、「情報と人、学ぶをつなぐ」ことの重要性を説き、「情報」「コーディネート」「自主的ネットワーク」のポイントを挙げた。大分のどの発表・発言にも未来に向けての可能性を含んでおり、今後取り組まれる障がい者の生涯学習がライフワイドに広がっていくような気がする。
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