事件を乗り越え、グループホームがつなぐ夢へ
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第278回

2月 19日 2025年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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特別支援が必要な方の学びの場「みんなの大学校」学長、博士(新聞学)。フェリス女学院大学准教授、文部科学省障害者生涯学習支援アドバイザー、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。

◆失望に変えた事件

最近の障がい者向けのグループホーム事業の拡大は、障がい者が地域とともに生き、暮らす共生社会に向けた希望のはずである。その希望を失望に変えてしまったのが、障がい者向けグループホーム運営大手企業による食材費の過大徴収事件など、各種の不正事件であろう。

事業者が私腹を肥やすだけならまだしも、利用者に提供している食事が粗末だったのは、福祉事業者としての資格も見直すべき事案だ。このような事態は、グループホーム事業拡大で民間企業の参入が増える中で、懸念はしていた。「収益化が容易」とのうたい文句で事業参入を呼びかける広告が飛び交い、私にも「グループホーム事業に参入したいのですが……」との相談も定期的にやってくる。

障がい者に対応する社会の環境が不十分な中で、グループホームを運営するのは簡単ではない。事件を受けて、社会における障がい者を支援する社会福祉事業としてのグループホームの在り方を熟考できればと思う。

◆地域で暮らすが出発点

グループホームの出発点は、障がい者が地域と交わりながら普通の暮らしをするための場所であること、であろう。事件のひとつは、2022年5月に発覚した愛知県内のグループホームで利用者から実費の約3倍の食材費の徴収や勤務実績のない職員報酬の不正請求である。愛知県と名古屋市は24年6月、愛知県内の5カ所のグループホームの事業者指定を取り消した。

同社は12都県の計約100事業所を運営しており、厚生労働省は事業所を所管する自治体との連絡会議を開き、順次、事業指定の取り消しと定員ベースで2000人ともなる利用者への対応を協議。国は同社の全国の事業所の指定の更新を今後認めない措置を取ることにした。報道によると、武見敬三厚生労働相(当時)は「同社の責任は極めて重いと言わざるを得ない。厳正に対処する一方で、利用者やご家族の不安の声に丁寧に対応することも非常に重要。関係自治体と密接に連携し、万全を期したい」との方針を示した(24年6月26日の記者会見での発言)。

◆希望の扉として

先日、「みんなの大学校」の聴講生の母親から、長年の懸案だった「入居できそうなグループホーム」が見つかり、新しい生活が始まったとの歓びの声が寄せられた。新しく開設したホームの考え方や、その支援の方法は魅力的で、自分が亡くなってからの息子の生活を心配する母親にとっては安心で最善の選択となったようだ。

その安心の中には、同じ入居者や支援者、地域とともに暮らすことが保障されたことが確保されたことが大きい。またグループホームをめぐっては、障がい当事者から「いいところが見つかりました」との報告を得る機会があるが、それは入所先ではなく、就職先としての場合がある。

寛解状態の精神疾患者が病状と相談しながら、自分の体験を踏まえピアサポートの役割を担いながらケアするにはグループホームのスタッフが入りやすい。グループホームスタッフから支援者の道を歩んでいった人も私の周囲に何人かいるから、グループホームは希望の扉でもある。

◆震災からの懸案

2011年3月の東日本大震災で、避難所に入れない障がい者の親たち、地震や津波の記憶がフラッシュバックすることで起こる障がいのある人の発作に対応しなければいけない家族――。

震災に加えた二重の苦労を背負うことになる境遇の仲間が集まって出来た障がい者の親たちのグループ「本吉絆つながりたい」の夢は、地元の宮城県気仙沼市の本吉地区に障がいのある家族と仲間たちが一緒に暮らせるグループホームを作ることだ。

障がいのある人の震災のトラウマは消えないままであるが、障がいのある人が親亡き後も地域で安心して暮らすためには安心した場所が必要である。親の齢が確実に重ねていくと、身寄りのない障がい者の行き場への不安は増すばかりだ。そして、この切実さは被災地だけの問題ではない。障がいのある人の関係者がグループホームに託す夢は地域や事情が変わっても、普遍的な思いとして根強い。

だからこそ、今回の事件を乗り越え、グループホームの各地の夢をつなげなければならないと思う。

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