引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場「みんなの大学校」学長、博士(新聞学)。フェリス女学院大学准教授、文部科学省障害者生涯学習支援アドバイザー、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆適切への道筋
文部科学省の「障害者の生涯学習推進アドバイザー」派遣事業の一環で行われた講演「障害者社員のモチベーションUP! 効果的な『評価』制度で、働きがいのある職場に」(3月13日)は、私が企業向けに評価制度の正解を伝えるものではなく、企業が仕事を「評価」するにあたってはコミュニケーションの質が問われることを説明する機会でもあった。
評価は管理のためではなく、能力開発・育成のためにある、との内容である。その講義に参加した株式会社ハピネット(東京都台東区)は、私が示した考え方をすでに実践し、運用しているとのことで、早速、同社を訪問した。
2016年から障がい者雇用を進め、現在では必要な障がい者雇用率を上回る雇用を行う同社には、安定就労や職場定着に向けた努力を積み重ね、現在運用する「適切な評価」に至った道筋がある。そして評価の運用には、確実に担当者の質の高いコミュニケーションが実在していることが欠かせないことを確認した。
◆社内での浸透
ハピネットは「玩具、映像音楽、ビデオゲーム、アミューズメントの4分野すべてにおいてトップクラスのシェアを誇るエンタテインメント総合商社」(同社ホームページ)。最近では、大型店舗内や街角に増える「ガチャガチャ」と言われるカプセル玩具自動販売機の設置・運営で、知る人ぞ知る存在かもしれない。
映画やゲーム、ガチャガチャなど、エンターテイメント事業に関われる「夢」につながる企業。関心のある人にとっては、憧れの職場でもあるようで、雇用への人気は高いという。定期的に採用しているものの、受け入れの対応をていねいにやるには1回につき2人までとの知見である。3か月のアルバイト研修期間を経て、正式に採用になる。
障がい者雇用の社員はサポートスタッフとし、社内で受託型、駐在型、派遣型の業務に従事しており、社内でもその仕事ぶりは広く浸透している様子だ。
◆毎朝のやりとり
同社の経営理念のうち、障がい者雇用を運営する際に、担当者が強調したのは「一人ひとりを尊重し、成長と挑戦の機会をつくり、働きがいのある環境を育てます」である。
成長の機会としての評価に向けてはサポートスタッフとフォロースタッフで評価を共有する「状況確認」のシートを使用する。このシートは川崎市が作ったK-STEP(Kawasaki Syurou TEityaku Program)を基にして作成したという。K-STEPは、セルフケアを実践しながら就労定着を図るためのプログラムとされるが、運用には一緒に確認する支援者や関係者が必要であり、その存在が効果を左右する。
この運用する際に取り交わすコミュニケーションが、同社が培ってきた財産なのかもしれない。さらに体調を確認するシートは毎朝、仕事が始まる際にフォロースタッフに提出し、そこで必ずコミュニケーションのやりとりをするという。
◆誘発する対話
障がい者雇用で働く20人に対して4人のフォロースタッフが対話をするから、1人のフォロースタッフが5人と数分のやりとりを行う。朝の体調の確認や顔色を見ながら「軽く」コミュニケーションをするのが基本で、さらに対話が必要な場合は、別に時間を設定するという。
この朝の対話を「コミュニケーションの誘発」との言い方で説明したが、これこそが対話を行う環境を保証する取り組みであり、「評価」の基本である信頼関係を成り立たせるコミュニケーション関係の形であると解釈した。
さらに、社内理解を進めるために「役員」「チーム責任者」「サポートスタッフと関わる社員」「新任社員」「全社員」「フォロースタッフ」の6つのカテゴリーに分けて最適な周知と理解を進めている点も効果があると思われる。
同社の実践をさらに研究しながら、雇用者にとっても企業にとっても、幸せな障がい者雇用を考えていきたい。
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