引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、シャローム大学校学長、一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆社会に欠如した部分
本欄でも紹介した「共生社会コンファレンスIN関東甲信越」(主催・文部科学省、一般財団法人福祉教育支援協会、共催・東京大学大学院教育学研究科)が2月に東京大学本郷キャンパスの伊藤国際学術研究センターなどを会場に行われた。主催者であり全体を統括する立場としては、まずは事故なくすべてのプログラムが遂行されたことにほっとしているが、やはり支援が必要な人が社会で「学ぶ」ことを切り口に展開されたシンポジウム、ワークショップや分科会などで見えてくる課題は、明らかに「今、社会に欠如している部分」であった。それを直視することがコンファレンス開催の意義だったと考えている。
ここから「言葉」を作る、「言葉」が浮かび上がるのが次への第一歩であり、そこから理解や共鳴、共感が生まれ文化が生じたら、多くの人の安らぎにもなる。その安らぎこそが「アンカーを下す」ことにつながり、学びが安定したものになる、なのだと思う。
◆障害者発の学び
コンファレンスは、前半のシンポジウムの作り付けから半年以上前から議論したもので、タイトルは「障害者発・新しい学びの提起―『健常者』中心の学びを超えて」だった。コンファレンスで語られる「学び」がこれまで健常者が作ってきた学びの場に「障害者をどう入れるのか」ではなく、「障害者中心の学びをどう作っていくか」がポイントであり、これは視点の大転換である。
シンポジウムのコーディネーターは全国で初めて知的障がい者を聴講生として受け入れている神戸大学の津田英二教授で、シンポジストは、社会教育が専門の牧野篤・東京大教授、障害学の星加良司・東京大准教授、そして私がシャローム大学校学長として務めた。
牧野教授は社会教育分野のこれまでの常識に疑問を呈し、星加准教授も障害者からの視点を整理した語り口は「東京大でやっている」感覚になるような、深くクリアな論点整理となり、私自身はその論点の実践例として、そして現場で起こっている話として「学びの実践」の話に繋(つな)げた格好だが、詳細は後日記したい。
この後にはワークショップと分科会の構成としたが、私自身、こだわりたかったのが、多くの当事者を参加させることだった。行政が区別するところの「身体障がい」「精神障がい」「知的障がい」の方々が来て楽しめる、さらにそれ以外の人も同じように交わって学べる場にするための工夫を考えた結果、障がい者を「体感」できる「バリフル・レストラン」の体験ブース、人の語りが本になる「ヒューマンライブラリー」、体を使って音楽を作り上げる「音楽コミュニケーション」の三つを用意するに至った。
時間や会場の関係上、同時並行で行っていたので、複数を体験することはできなかったが、開催前からすべて定員以上の申し込みがあり満員御礼となった。この三つはそれぞれの障害にも対応している格好で、特に知的障がい者や重度障がい者に楽しんでもらおうと考えたのが音楽コミュニケーションだった。このワークショップの後には東京大散策ツアーも用意して、初めて会った障がい者同士も交流を楽しんだ様子に、私は悦に入った。
◆当事者から言葉が生まれる
分科会は昨年夏からの議論の結果、「社会教育が取り組む生涯学習支援」「『高等』教育におけるインクルージョン」「カフェを介した『共生の学び』の実践」「エンパワーメントに向けた学びのアウトリーチ」「当事者研究がもたらす学び」の五つを準備した。
障がい者の学びでは、これまで「社会教育」や福祉事業のカフェなども学びの場として語られてきており、この分野での学びの継続性を発展しつつ、シャローム大学校のような「高等」教育としての学びの視点や、重度障がい者向けの訪問型を推進するアウトリーチ事業、そして精神障がい者らの当事者研究が治療の概念から学びに向けたベクトルで考えるのも、今回の新しい取り組みだと考えている。
各分科会後、クロージングセッションで当事者研究のコーディネーターを務めた東京大学の綾屋紗月さんは現在の当事者研究の広がりについて「当事者研究ではそこに言葉が生まれる、その言葉から、また新しいつながり、そして言葉が生まれる」との趣旨の発言をした。やはり、コンファレンスは新しい言葉を生む場所なのだと思う。コンファレンスの内容の詳細については適宜伝えていきたい。
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