引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。ケアメディア推進プロジェクト代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆「つなぐ」発刊へ
2020年10月に授業が始まる要支援者のための学びの場、みんなの大学校は8月にホームページ上でカリキュラムを公表し、新しい学生や登録する事業所などの募集を行っている。1週間にびっしり、といった時間割表ではなく、50分授業が1日平均二つのカリキュラムには「じっくり、ゆっくり」という方針に沿った構成である。
インターネットでつながれる枠組みだから、時流の中でどうしてもスピード感が求められがちであるが、あえてネットでつながりながらも、その道は田んぼのあぜ道を行くようなゆっくりとした「学び」が基本と考えたい。
あえて、そんなことを強調するのは、リモートワークが奨励される中に、社会の風潮として、「リモートでも生産性アップ」「リモートで効率性向上」などが美しい方向性として奨励され、その「生産性」「効率性」に精神的にも障害特性上も「乗れない」人たちが、この学びの場に来てほしいと思うからである。
◆高等教育を意識
そのカリキュラムは、講義、ワークショップ、学生の対話がある。題目だけみると「哲学」「健康と生活」「発達心理学」など、難しい題目が連なっているが、これは大学校として高等教育に位置することを意識したものであり、中身は柔らかく、それぞれの障害特性に合わせた内容と実際の授業を意識している。「発達心理学」は、講義は発達支援研究所所長の山本登志哉先生による発達段階におけるコミュニケーションの話だが、わかりやすいコミュニケーションの構造に「なるほど」となるはずだ。
「哲学」はインド人の神父アルン・デゾーサ先生によるもので、インド哲学から倫理学、キリスト教などの宗教学も含め、わかりやすくその難しい哲学をひも解いてくれるのだろうと思う。「健康と生活」と銘打った講義は私の担当で、これは保健体育の授業ではなく、新型コロナウイルスのニュースが日々報じられる中で、必要な情報を正しい理解をして健康を維持しようとする、社会とコミュニケーションとのおつきあいの話を展開し、双方向的に話を深めたいと考えている。
◆支援者への学びも
これらの授業はもちろん当事者向けのものであることが前提だが、インクルーシブの学びとして支援者も学んでほしいというテーマもある。NPO法人地域ケアさぽーと研究所の下川正洋先生による「特別ニーズ教育」がそれで、下川先生は大学のほか、各地域の専門家への講義で全国飛び回っており、その合間で毎週の講義を担当する。これは支援者も要支援者も一緒に見てもらいたい。
国際会計士の内村治先生の「経済と社会」はお金の基本の話からグローバル経済の話を分かりやすく講義する予定で、こちらも必見である。
さらに週1回は「昼食会」として、私がホストとなってただ昼食をそれぞれ食べながら、会話を楽しもうという企画もある。木曜日の夜には「ケアステージHUG」と題して、週替わりのプロのアーティストたちの演奏とトークを繰り広げる予定である。これもすべて「みんなの大学校」の学びの一環であり、学びは広いことを示せれば、との考えだ。
◆合った道を行く
冒頭で、田んぼのあぜ道と言ってみたが、この対比として、リモートワークが奨励されメディアの機能を使って仕事をぐいぐい進めていく「ウイズコロナ」の企業社会は、アスファルトできれいに舗装された道で導かれる社会で、その歩道を早く歩き、走るには、それなりの「靴」が必要である。
その靴とは、メディア機器やメディア環境、そしてメディア利用のノウハウであるのだが、それら靴を与えられない人がいる。経済的にも精神的にも特性的にも靴がないことで、アスファルトは歩けない。結果的に脇道に追いやられてしまうわけだが、その脇道もまた道として正道とするかは、その社会次第である。
脇道である野道もあぜ道もその人に合った道であればそれでよしと思うし、靴を履きたければ靴を履くチャンスはあってもよいとも思う。その多くの選択の中で、みんなの大学校という存在が、きっかけづくりになればと考えている。
■学びで君が花開く! 支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校
http://www.minnano-college-of-liberalarts.net
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
■ケアメディア推進プロジェクト
https://info3586507.wixsite.com/caremedia
■引地達也のブログ
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