引地達也(ひきち・たつや)
法定外シャローム大学学長、一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆学びあいの空気
文部科学省の「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究」の採択事業である障がい者向けのオープンキャンパスは、「実践教育のステージ」の2回目のプログラムである「ビジネスコミュニケーション」を開催し、今年度の「オープンキャンパス」全日程を終えた。
障がい者向けの「学習」に「実践教育」の考えを入れようとすると、どうしても訓練の要素を帯びてくるから、学びに主眼を置いた実践教育という矛盾を孕(はら)んだ取り組みは結構難しい。それでも、今回はアクティブラーニングの要素をふんだんに盛り込んだことで、訓練の雰囲気はなくなり、学びあいの空気は作れたかもしれない。
担当したビジネスマナー講師の林真理子さんが、定期的に障がい者向けのビジネスマナー講座を行っているのも、ノウハウとして確実に身につけているからなのだろう。
◆出来ないことも「よし」として
ビジネスマナーといえば、やはり「形式」が先んずるのが通例であるが、今回の講座で最初に取り組んだのは、小さな枕のようなクッションを投げ合うワーク。5人が一組になって隣の人以外にパスをして、1分間に何回パスしたかを競うゲームだ。スピードを競うが、他者にパスをするとなると、受けやすいパスをする必要が生じる。そこから思いやりのコミュニケーションが始まる。
私自身、コミュニケーションに関する講義を担当するたびに悩むのが、「実体としてのコミュニケーションの見せ方」である。対象によって表現方法は様々だが、ここではクッションのキャッチボールでコミュニケーションと思いやりを実体化させたことは面白い。ここから形式のマナーに入るのは、大事なポイントだ。
フォーマット化された「マナー」はいかに楽しくできるのかが受講生の充実感につながる。私たち日本人のお辞儀の仕方や名刺交換も、もはや文化領域の所作でもあり、外国人には摩訶(まか)不思議な行動様式。しかし、その所作は「日本の村」に入るための通過儀礼のようなもので、企業社会に入るために必要な条件のようにもなっている。それは入れば、関門をクリアしたということで気持ちいいし、所作が身につけば、アイデンティティーの一部として社会から承認されることになるから、気持ちよく生きられる、ことにもなる。
その結果が就職でもあり、人はそのために訓練をする。ただ、その訓練が窮屈な思いで受け止める人がいるのも現実だ。だから、この所作を絶対化せずに、出来ないこともまた「よし」とするスタンスでありたい。そして、これがなかなか難しい。
◆障がい者の学びはまだまだ
この講座で終えた2018年度のオープンキャンパス「基礎教育ステージ」「関わりあいステージ」「実践教育ステージ」は、その都度の感想は良好だが、やはりマクロな視点で参加者のライフステージの中で、大きな学びになってほしい、という強い思いの実現からは程遠い。
特別支援学校の在校生や就労移行支援事業所や就労継続支援事業所を利用している人、自立訓練を行っている人やデイケアに通っている人、そして就労されている人と引きこもっている人、いろいろなライフスタイルの障がい者が参加できるようにと、開催も平日や土曜日、祝日と開催毎に変えてみたり、各種ダイレクトメールやお手紙、掲示板などで参加を呼び掛けてみたりした。
その結果、社会にはまだまだ「障がい者の学び」が広まっていないのが現実である。それでも、出発したのは間違いない。今年度の事業報告会を終え、また来年度に向けての計画づくりが始まった。
学びで君が花開く! 法定外シャローム大学
http://www.shalom.wess.or.jp/
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
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