引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。◆新しいB型のデザイン
就労継続B型事業所のイメージは障がい者が通所して仕事を通じて社会と関わり合う場所で、雇用契約を結ばない「労働」だから生産性は求められない、が一般的である。しかし最近は、B型事業所で運営しているカフェがコーヒーのおいしさや食事のクオリティーの高さなどで地域の人気店に名を連ね、B型事業所で生産した商品が市場から支持を得て人気となる例もある。アートな作品も次々と世に出たりするなど、B型事業所のありかたも多様になってきている。
そして新型コロナウイルスにより外に出られない孤立化を防ごうとする発想から在宅での仕事や関わりなどを追究する中で新たな仕事の可能性も見えてきている。それが、重度障がい者の「仕事」である。
重度障がい者の方が関わり合いの範囲を広げることで、活躍の場が開け、次の展開として「働き」の可能性も出てきている。就労継続支援B型事業所みんなの大学校大田校では、当事者を中心にして関係機関と連携し話し合い、重度障がい者の「働き」をデザインしている真っ最中である。
◆講義から仕事へ
きっかけはみんなの大学校の講義であった。
2年前から訪問講義として私が1週間に1回、講義をしていた東京都杉並区の岩村和斗さん、昨年から講義に参加した埼玉県川越市の松本勇成さんは、ともに当初は私と1対1の講義であったが、周囲の手助けもあり、やがてウェブでつながり遠隔でも講義に参加できるようになり、私以外の先生の講義にも参加し、ウェブ上で複数の学生が一緒に講義を受けるカリキュラムにも参加するまでになった。
コロナ禍の中、遠隔でやりとりが出来るのであれば現在、国や東京都が推進するテレワークの方針のもと、この時代に適合した働きが出来るはずだ、との発想からB型就労を目指すことになった。
就労継続支援B型事業所みんなの大学校大田校の利用者として週に1、2回、1日につき数時間の労働で何らかの成果物を発出し、対価を得る仕組みを動かそう。この提案に本人は喜び、ご両親やケースワーカー、ヘルパーの方々、そして自治体の担当者も、動いた。
◆力を最大限生かして
これは新しい動きであり、行政としては福祉サービスを受ける以上、制度の枠組みを整えることが重要だ。どんな重度障がい者にとっても平等に受けられるサービスとして手続きに誤謬(ごびゅう)なくB型「就労」できる形を作らなければ、ほかの方のニーズにも応えられない。
全国の重度障がい者の望みをつなぐものとしての責任も感じながら、現在その形を構築しているが、まだ最終的な結果は出ていない。
それでも、気ははやる。
現在考えている仕事はアート作品のデザインと広報の請け負い。みんなの大学校で発信用のフェイスブックページを開設し、そこから依頼のあった方からの情報を発信する仕事で、岩村さんはわずかに動く方の筋肉でパソコンのカーソルを動かし、パソコン操作を行う。岩村さん自身が紡(つむ)ぐ言葉でイベント案内をしようという仕事だ。
松本さんの生み出すアート作品はヘルパーの力を借りながら、絵具を使ったカラーリングで壁紙デザインである。それが市場に受け入れられるアートになるかどうかは、出来上がってみないとわからない。
◆協力するエネルギー
「つながらないと広がらなかった」。
松本さんの母親は特別支援学校を卒業した後ではまったく考えられなかった世界が広がっている喜びをそんな言葉で表現する。
入所か病院でのケアの生活だったイメージから、「学び」から新しい世界とつながり、働きに結びついた。今後は、その働きの中身でさらに人を惹(ひ)きつけ、重度障がい者の「働く」のモデルになっていく。
私自身、関わりながら気が付けば、ここまでには多くの方々の熱意と行動があった。福祉サービスが多様になる中でそのスタッフや支援者もそれぞれの動機があり、この世界に足を踏み入れる中で、重度障がい者に関する世界はまだ「特殊な」イメージもある。人工呼吸や吸引など、専門的な対応も求められる。
コミュニケーション手法も人それぞれ。そこに、つながり、社会との「障害」を乗り越えようとするエネルギーは協力することで、その力を強化し、課題に向かっていく。
松本さんの事例はまだ始まったばかりである。きっと見えてくるだろう新しいインクルーシブな世の中を一つずつ実感していきたい。
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