引地達也(ひきち・たつや)
法定外シャローム大学学長、一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆緑色の列車といい相性
東日本大震災の2年後から始まった東京・代々木のカフェ「カフェヌック」での「よみがえる気仙沼線写真展」は今年で7回目の開催となった。毎年震災の時期に、鉄路での復旧は見込めないJR気仙沼線の震災前の姿と風景の写真を展示し、震災のことを想い、語り継ぐための催しである。
震災前に気仙沼線を風光明媚(めいび)な景色と季節とともに撮影してきたアマチュア写真家、工藤久雄さんから写真の提供を受けて実現しているこの企画だが、気仙沼線の写真は列車だけではなく、一緒に映り込む風景がいい。空、雲、太陽、雲、海の自然素材はもちろん、鉄橋、畑、小川とも相性がいい。漁船、大漁旗、波しぶき、カモメ、海水浴場は沿岸部ならではの情景。どれも緑色の列車と人の営みが結ばれているようで、温かなぬくもりのある写真ばかり。
そして今年の展示テーマは「春」とした。桜と気仙沼線、だった。
◆悲劇から何かが始まるへ
当初は気仙沼線と風景の写真を「気仙沼線写真展」とし写真だけを展示してきたが、最近では気仙沼線沿岸の方々のコメントなどを添えて展示する「気仙沼線写真展WITHことば」で写真にそれぞれの想いをシンクロさせた。それは、悲劇を共有する、というメッセージであったが、今年の「よみがえる気仙沼線写真展~春~」は何か始まる、ような明るい印象もある。
気づけば桜の花との緑色の列車は相性が良いようで、桜と気仙沼線の写真が店内に並べられると、雰囲気がぱっと明るくなる。東日本大震災が背景にある企画であるため、「桜」というテーマを選ばなかったのは、悲劇から抜け出せず、明るい発想が浮かばなかったのだろう。
先日、被災地を歩いてきて、震災による後遺症はあるものの、誰もが元気に未来に向かって取り組んでいる姿に触れ、自然と私も桜に気持ちが向いたのかもしれない。
その未来に向かっている姿の一つが気仙沼線沿いの気仙沼市本吉地区の知的障がい者の母親のグループ「本吉絆つながりたい」である。
◆子供がいない大谷海岸
前回第159回でも紹介したように、現在の母親たちの夢は「子どもたちと一緒に暮らせるグループホームの建設」だ。この気仙沼線写真展の会場にもこの夢を支援するための募金箱を設置し、その思いに賛同してくださる方のご寸志をいただいた。
募金箱の横には、気仙沼線のポストカード三種類を用意し、無料で進呈したが、多くの人に写真で気仙沼線にふれ、震災を感じてほしいとの思いからである。今年の写真展での催しでは桜の写真に囲まれながら、未来に向かっての話をしてみたが、心中何かが疼(うず)くのは変わらない。多くの命があっという間に亡くなった事実は今も重いままだ。
歌曲「気仙沼線」の歌詞の中では、真横を気仙沼線が走っていた気仙沼市の大谷海岸海水浴場で遊ぶ子供がいなくなった風景を書いた。今、大谷海岸駅はプラットホームと鉄路が一緒に残っている数少ない場所の一つとなっている。海水浴場には黒い袋詰めの土嚢(どのう)が砂浜を埋め、遊ぶ子供はいない。
プラットホームには震災後早くから献花台が設けられ、木彫りの仏像が雨風に打たれながら、手を合わせる人を迎えている。大谷海岸に来るたびに、この仏像を拝観しているが、風雨に打たれた年月のせいか、何となく表情が穏やかになっているのは気のせいだろうか。気仙沼線写真展では、その仏像の写真が出迎えることにした。
■学びで君が花開く! 法定外シャローム大学
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
■ケアメディア推進プロジェクト
■引地達也のブログ
コメントを残す